【Vol.2】ピークパフォーマンスのためのセルフコーチング ― 基本の3つの問い+α ―

【Vol.2】ピークパフォーマンスのためのセルフコーチング ― 基本の3つの問い+α ―

先日,香港で開催されたTHE 16th International Society of Sport Psychology World Congress(国際スポーツ心理学会)に実質滞在1日だけの弾丸渡航で参加してきました。
 
 
2年前,リトアニアで開催された世界選手権を最後に海外に行ってなかったこともあり,短い時間でしたが,学びと考える時間も確保でき有意義な時間を過ごすことができました。
 
 
先日のメルマガではセルフコーチングテクニックの一つ目を紹介させていただきました。
 
 
ポイントは“違った刺激”を入れること。
 
 
頭だけで考えていてもまとまらないことも,“書く”という行為を追加したり,付箋を使って“視覚的刺激を変える”,違う場所に移動して“環境を変える”,など「いつもと違う刺激を入れる」ことが大事,ということをご紹介させていただきました。
 
 
前回内容の詳細は右記をご覧ください→前回ブログ
 
 
本日は二つ目のテクニック。
コーチングの基本的な問いのパターンをご紹介させていただきます。
 
 
コーチングの基本的な考え方は,コーチを受けている方が自分自身で気づきを得たり考え事の整理ができる関わりをすることです。今回のメルマガシリーズでは,コーチにたよらず選手自身が主体的に課題解決する能力を高められるように,セルフコーチングスキルをご紹介させていただいております。
 
 
セルフコーチングでは自分に対して気づきや考えを整理できるような“質問”を自分自身で投げかける必要があります。
 
 
なぜ質問することが大事なのでしょうか?
 
 
質問は人間の認知機能の一つ,注意機能の選択的注意を促進します((Petersen and Posner 2012))。選択的注意とは,例えば「目の前に広がる風景から赤い色を探してください。」と言われると赤色のものを探せますよね。これが選択的注意が働いている状態です。
 
 
選択的注意が働くと
・反応時間が短縮される
・無関係情報の干渉が抑制される
・神経活動が「必要な回路に集中」
・記憶の定着を強める
(Cowan et al. 2024)といったことが起こります。
 
 
みなさんご経験上納得かと思います。
 
 
だからコーチングの核は質問することなのです。
 
 
今回は対象となる課題がすでに存在する前提で,例を用いてセルフコーチングに必要な基本の質問のスキルをご紹介していきます。
 
 
 
テーマ:怪我からの復帰
 
 
基本の3質問:今本事
(今).今,何が起きているか?
(本),本当はどうありたいか?
(事).この状況でできる事は?


 
これらの質問は私が取得しているスポーツメンタルコーチ資格(一般社団法人フィールド・フロー)で基本とされているものです。今本事の語呂合わせは覚えやすいので私が勝手にそう呼んでいるだけのことです。
 
 
一つずつ意味をご紹介していきます。
 
 
今,何が起きているか?(現状把握)
試合を控えているにも関わらず怪我をしてしまったケース。「今日練習を休もうか?休んだらレベルダウンするし・・・」。
 
 
このように頭で同じことを反芻していて解決の糸口がたたなくなることありますよね?
 
 
そこでまずこの質問「今,何が起きているか?」を投げかけます。
 
 
「ベンチプレス中に右肩を痛めた。」
 
 
ショックでこんなことしか書けないかもしれませんがまずはOKです。
でてきた答えはノートや付箋に書いたりしてください。
 
 
ここまでが現状把握フェーズです。
 
 
 
そしてここからセルフコーチングの本領発揮「視点切り替えフェーズ」です。
 
 
一旦でてきた質問にさらに次の3視点質問(もっともっと上から)を投げかけていきます。
 
 
(もっと:深掘り).具体的に教えてください。
(もっと:横展開).他にありますか?
(上から:俯瞰).ここまで話してみてどうですか?
 
 
「ベンチプレス中に右肩を痛めた。」という回答をしていたケースに当てはめていきます。
 
 
あなた(コーチ):「ベンチプレス中に右肩を痛めたということだけど具体的に教えてもらえますか?」
 
あなた(選手):「2週間後に試合を控えているにも関わらず,昨日のベンチプレスのダウンセット○kgの◯回目で足が滑ってバーベルの降ろし位置が少しズレてしまって,バーベルの軌道がずれたまま無理やり押し切ったらその後に肩が痛くなって。すぐに練習をやめてアイシングして,一晩たって痛みは7割くらいは引いているんですが,でも現在は週3回のベンチプレス頻度で試合に向けて計画していたので1週間は練習できなそうな状況です。」
 
 
このような感じでいろいろと詳細がぶわーっとでてきます。
 
 
この後に残りの2つの質問(もっと/上から)のどちらの質問をするかは状況にお任せします。上記のように詳細な話が結構でている場合は「上から:俯瞰」を選ぶといいでしょう。
 
 
あなた(コーチ):「ここまで話してみてどうですか?」
 
 
今までのやり取りででてきた答えはノートや付箋等にメモしていますので,俯瞰してみましょう。だから書き留める必要があります。
 
 
あなた(選手):「そうですね,怪我してしまったけど,まだ2週間あります。昨日まではかなり順調に練習を詰めていました。1週間徹底して休んで,そこから試合まで軽いところから練習を再開すれば戻せるかもしれません。でも望んでいた結果には届かないかもしれません。本当に悔しい。」
 
 
このような回答がでてくるかもしれません。
 
 
ここでまた質問です。
 
 
一旦2の質問「他に何かありますか?」を,先ほどの回答の中に対して一つずつ投げかけてみましょう。「昨日までかなり順調に練習を詰めていたということだけど他にはどうだったの?」などです。1の質問「具体的には?」ももちろん使えます。「1週間徹底して休むって具体的には?」などです。繰り返しになりますが2.3のどちらの質問をするかは状況にお任せします。わからなければどちらも質問して話しやすいほうで進めてしまいましょう。
 
 
そしてまた3です。
 
 
「ここまで話してみてどうですか?」「ここまで話してみてどう?」別に質問の言葉使いは何でもいいんです。
 
 
実際に自分が仲間の選手などから同じ相談を受けたらどんな感じで話すか?そんなことイメージするといいかもしれません。
 
 
ここまでくると随分とメモが出ていて整理もしやすい状況になっているはずです。
*視覚的刺激を変えるという目的だけでなく,答えを整理するためにも付箋を使うのは効率的です。位置を変えてカテゴライズできますからね。→この利点は行動に移すステップ作りの時に本領を発揮します。
 
 
そして次以降は基本の3質問「今本事」の本→事に進みます。
(今).今,何が起きているか?
(本),本当はどうありたいか?
(事).この状況でできる事は?
 
 
質問し,答えに対して3視点質問(もっともっと上から)をする。この繰り返しで進めてください。流れは簡単ですね。実は他の定型パターンもいろいろあるのですが,私自身がコーチングを受講してきた体験含めて細かい質問を知っておく必要はないと考えています。
 
 
頭でぐるぐる考えているだけよりも,
何倍も生産的な時間となり,アクションプランを計画することまでできるはずです。
 
 
もし時間に余裕があれば,
これらの問いに対して書き出したメモを翌日,もう一度眺めてみるのもおすすめです。
 
 
不思議なことに,
前日には見えていなかった視点や,
「ん?」という小さな違和感に気づくことがあります。
 
実際に,適度な先延ばし(moderate procrastination)は創造的なアイデアの質を高めることが報告されています(Shin and Grant 2021)。
 
 
さまざまな質問→書き出し→俯瞰。
さらに寝かせてからもう一度俯瞰。
このプロセスはセルフコーチングのアドバンテージです。
 
 
「次の試合で勝つ。日本一になる。世界一になる。記録を樹立する。」
 
 
 みなさまそれぞれの目標達成にセルフコーチングをぜひ活かしていただければ幸いです。


勝敗や記録だけでなく,自分の思考をコントロールする能力を獲得することは,競技人生だけでなくその後の人生でも最大の武器になることかと思います。


参考文献
Cowan N, Bao C, Bishop-Chrzanowski BM, et al. (2024) The Relation Between Attention and Memory. Annu Rev Psychol 75:183-214 doi: 10.1146/annurev-psych-040723-012736


Petersen SE, Posner MI (2012) The attention system of the human brain: 20 years after. Annu Rev Neurosci 35:73-89 doi: 10.1146/annurev-neuro-062111-150525


Shin J, Grant AM (2021) When Putting Work Off Pays Off: The Curvilinear Relationship between Procrastination and Creativity. Academy of Management Journal 64:772-798 doi: 10.5465/amj.2018.1471


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