スクワットを行う際、足幅をどの程度に設定するべきか。 ご自身でスクワットを実践したり、誰かに指導した経験がある方なら、 一度は考えたことがあるテーマではないでしょうか。
トレーニング現場では、「ナロースタンスは大腿四頭筋に効く」 「ワイドスタンスは臀部に効く」など、 スタンス幅と筋活動の関係についてさまざまなことが言われています。 しかし、実際のところはどうなのでしょうか。
今回は、スクワットのスタンス幅が身体に与える影響について、 いくつかの研究論文をもとに検討していきます。
スクワットにおけるスタンス幅の定義
スクワットのスタンス幅は、一般にナロー、ミディアム、 ワイドなどに分類されます。しかし、これらの分類には 研究間で統一された基準があるわけではありません。
例えば、肩幅を基準とする研究もあれば、 左右の大転子間距離や股関節幅を基準とする研究もあります。 したがって、同じ「ワイドスタンス」であっても、 研究によって実際の足幅が異なる可能性があります。
以下では、スクワットのスタンス幅を検討した3編の原著論文について、 各研究で採用された定義を比較します。 また、実際の幅をイメージしやすいよう、 日本人男性の身体寸法データを用いた参考値も併記しました。
研究ごとのスタンス幅の定義
※参考幅は日本人男性の身体寸法を基に算出した概算値。イラストはこの参考幅を基に作成した模式図であり、各研究における被験者の実際の足幅を示すものではない。また、3編の原著では足幅の具体的な測定点が明記されていないため、イラストでは便宜的に左右の足の内縁間距離を基準とした。3研究はいずれも被験者内比較である。
参考幅の算出について
各研究で用いられたスタンス幅の定義は原著のまま記載し、 日本人男性の身体寸法データを基に算出した参考幅(cm)を併記しました。
算出には、経済産業省の資料に掲載された20代男性の 肩峰点間距離の平均値(37.2 cm)と、 AIST/HQL人体寸法・形状データベース2003に掲載された 青年男性49名の大転子間幅の平均値(32.21 cm)を使用しました。
なお、Lee et al.(2026)では、スタンス幅の基準となる hip width(股関節幅)の具体的な測定方法が 明記されていないため、参考値の算出に限り、 大転子間距離を股関節幅と仮定しました。
これらの参考幅は各研究で実測された値ではなく、 異なる資料から得られた日本人男性の平均的な身体寸法を用いた 概算値です。
身体寸法データの出典
経済産業省『高齢者の身体寸法』関連資料
経済産業省 公開PDF
AIST/HQL人体寸法・形状データベース2003
「統計量【青年男性群】」No.35 大転子間幅
AIST/HQL 統計資料(PDF)
スタンス幅が筋活動に与える影響
それでは、スタンス幅を変えることで、 実際にどの筋肉の活動が変化するのでしょうか。 3編の研究で測定された全10筋について、 スタンス幅による筋活動の違いを比較しました。
※この図は、筋肉の位置を大まかに把握していただくための模式図です。 実際の筋肉の形状や深さ、範囲を解剖学的に正確に再現したものではありません。
| 測定した筋肉 | McCaw (1999) |
Paoli (2009) |
Lee (2026) |
|---|---|---|---|
| 大腿直筋 | — | — | — |
| 内側広筋 | — | — | ワイド > ナロー |
| 外側広筋 | — | — | — |
| 長内転筋 | — | / | / |
| 大内転筋 | / | — | / |
| 大腿二頭筋 | — | — | — |
| 半腱様筋 | / | — | — |
| 大臀筋 | ワイド > ナロー | ミディアム・ワイド > ナロー | — |
| 中臀筋 | / | — | / |
| 腓腹筋 | / | / | — |
※「—」はスタンス幅による有意差なし、 「/」は測定対象外を示す。 太字および背景色の付いたセルは有意差が認められた比較を示す。 有意差の判定はスタンス幅間の比較に限定し、 負荷や動作局面との交互作用は含めていない。
3編の研究を比較すると、スタンス幅によって筋活動に 有意差が認められた筋肉は限られていました。 McCaw et al.(1999)とPaoli et al.(2009)では大臀筋に、 Lee et al.(2026)では内側広筋に有意差が認められました。
研究結果の総括
今回取り上げた3編の研究では、スクワットのスタンス幅によって 筋活動に有意差が認められた筋肉は限られていました。
McCaw et al.(1999)とPaoli et al.(2009)では、 ナロースタンスと比較してワイドスタンスで大臀筋の筋活動が 有意に高くなる条件が確認されました。 一方、Lee et al.(2026)では大臀筋に有意差は認められず、 内側広筋においてワイドスタンスの方が高い筋活動を示しました。
特に注目したいのは、 「ナロースタンスは大腿四頭筋に効く」という一般的な考え方を 支持する結果が、今回の3研究では確認されなかったことです。 むしろ、内側広筋についてはワイドスタンスの方が 高い筋活動を示した研究もありました。
これらの結果から、スタンス幅を広げることで 大臀筋の筋活動が高まる可能性は示されていますが、 スタンス幅の変更だけで特定の筋肉の活動を 選択的に高められるとは、一概にはいえません。
また、各研究ではスタンス幅の定義や実験条件が異なるため、 結果を単純に比較できない点にも注意が必要です。
なお、今回取り上げた研究は、いずれも筋電図を用いて スクワット中の筋活動を評価したものです。 筋活動の違いが、そのまま長期的な筋肥大や 筋力向上の違いにつながることを示したものではありません。
AKUTSU'S VOICE
スクワットのスタンス幅が筋活動に与える影響について、今回の研究結果は興味深いものだったのではないでしょうか。
一般的にフィットネス業界では、ナロースタンスは大腿四頭筋、ミディアムスタンスやワイドスタンスは臀筋群やハムストリングスの活動を高めると考えられる傾向があります。
しかし、今回取り上げた3編の研究では、必ずしもそのような結果が得られたわけではありません。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか?
私は、これこそまさにヒトの身体が持つ素晴らしい運動制御能力と関係しているのではないかと考えています。
スクワットのような全身を使う協調運動では、「バーベルを挙げる」という目標を達成するために、全身が協調的に動きます。
この際、特定の筋肉をより多く使うことが、必ずしも「バーベルを挙げる」という目的の達成に有利になるとは限りません。
ヒトの身体には、スタンス幅の違いのような条件差が生じても、その条件の中で目標を達成できるよう、各関節や筋肉の働きを協調的に調整する能力が備わっています。
また、身体の細かな動きを意識的に制御しようとすることが、かえって運動の自動的な制御を妨げる場合もあります。
この点については、Wulfらが提唱した運動制約仮説(Constrained Action Hypothesis)が参考になります。以前、「外的焦点化がパフォーマンスを変える」という記事でも詳しく解説しました。
では、なぜフィットネス業界では「ナロースタンスは大腿部に効く」というようなことが言われるのでしょうか。
それは、スクワットを行う目的が「バーベルを挙げる」ことではなく、「特定の対象筋に負荷をかける」という異なるものだからではないでしょうか。
「特定の対象筋に負荷をかける」という目的を達成するためには、ナロースタンスの方が、その目的に適した動作を行いやすい場合があるということです。
極端な例ですが、ワイドスタンスでも膝を前方に出しながらしゃがむことで、大腿部への負荷を高めるような動作は可能です。
スクワットは、足関節、膝関節、股関節、そして体幹などが協調的に働くことで成立する運動です。
つまり、特定の筋肉を対象とする場合には、その目的を達成しやすい動作の組み合わせが存在する可能性があります。
一方、目的が「バーベルを挙げる」という別の課題であれば、スタンス幅などの条件が異なっても、ヒトの身体はその条件に応じて全身の動きを協調的に調整しようとします。
今回の研究結果についても、このような視点から考察してみると興味深いのではないでしょうか。
とはいえ、実際にスクワットを初めて実施する場合は、どのようにスタンス幅を決めればよいのでしょうか?
私がおすすめしたいのは、まずは自然に立った状態からしゃがんでみることです。
そして、足幅を少しずつ変えながら何度かしゃがむ動作を繰り返し、自分にとって無理なく自然にしゃがめる足幅を探すという、これだけです。
以前、踵挙上について取り上げた記事中でも触れましたが、和式トイレでしゃがむ姿勢や、いわゆる「ヤンキー座り」を試してみることも、自分にとって自然なしゃがみ方を知る一つの方法です。
もちろん、そこで見つけた足幅が唯一の正解というわけではありません。
それを一つの出発点として、トレーニングの目的や扱う重量、動作の特徴などに応じて、少しずつ調整していけばよいと考えています。