ストレスを緩和し集中力を高める「ホスファチジルセリン」について解説

リン脂質のひとつであるホスファチジルセリン(PS)は、脳の神経細胞に多くある物質で、細部膜の正常な働きをサポートしています。ホスファチジルセリンは、特にストレス耐性を高めたり記憶力の向上にも影響があるとされ、脳にとっては重要な栄養素です。

また、ホスファチジルセリンは、トレーニングにおける身体へのダメージの軽減や疲労回復などにも役立つことが分かっています。今回は、脳の健康維持だけではなく、アスリートにとっても重要な役割を果たすホスファチジルセリンについて詳しく解説します。

阿久津貴史

著者紹介

パワーリフティング全日本選手権12連覇
NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ

阿久津貴史公式HP

1982年生まれ。元パワーリフティング選手(2023年11月の世界選手権を最後に引退)。2010年〜2023年105kg級日本代表(2021〜2023年団長)。パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。

ホスファチジルセリンとは

ホスファチジルセリンは、リン脂質のひとつで細胞膜の二重層を構成する主要な物質です。ホスファチジルコリンや、ホスファチジルエタノールアミンが塩基交換する際の反応によって生成されています。

細胞膜には生きている細胞を正常に保つための外壁の役割があるため、ホスファチジルコリンは細胞が健全に代謝活動をする為には欠かせないものです。

ホスファチジルセリンは、特に脳内の神経細胞に多く存在しており、適切な場所に細胞膜の成分を配分しながら細胞膜の正常な働きをサポートするとともに、細胞内だけではなく細胞外の代謝機能も補助しています。

ホスファチジルセリンは、認知機能と記憶力に大きな影響を与えます。神経細胞間での情報伝達のサポートや、脳の働きを活発にさせるグルコースの代謝にも働きかけるため、脳の正常な神経活動には欠かせない栄養素といえるでしょう。

細胞膜を構成するリン脂質は年齢とともに減少し、その代わりにコレステロールが増えるといわれているため、脳の健康維持のためにはホスファチジルセリンを積極的に補うことが大切です。(1)

ホスファチジルセリンに期待できる効果

ホスファチジルセリンは、次のような効果が期待できるとされています。

  • 精神の安定
  • ストレス軽減
  • 認知機能の向上または維持
  • アルツハイマー病のリスクの低下
  • 運動パフォーマンスの向上

ホスファチジルセリンがストレスに与える影響

ホスファチジルセリンは、精神的ストレスを軽減させる有効性があることが分かっています。精神的なストレスを感じたときに、ホスファチジルセリンが脳内に十分あるとストレス耐性ができ、イライラや不安感、抑鬱状態、集中力などの症状が低下します。

外部からの刺激によってストレスを受けると、唾液中のアミラーゼ酵素の活性が上昇することが分かっていますが、ストレス耐性テストでは、ホスファチジルセリンを摂取することによってアミラーゼ酵素の活性の値が抑えられるということが判明しました。ストレス耐性向上にホスファチジルセリンが有効である可能性が高いといえます。(2)

また、身体的ストレスの関係を確認するために8人の健康な男性が自転車運動を通してストレスホルモンの変化を調査しました。通常であれば運動によって体内にあるストレス関連のホルモンは上昇しますが、ホスファチジルセリンを摂取しているグループでは、副腎皮質刺激ホルモンやコルチゾールの増加が抑えられている傾向が確認されています。この結果により、ストレスへの反応を緩和する可能性を示唆しています。(3)

精神的ストレスと肉体的ストレスは、密接な関係があります。精神的ストレスを感じていると、身体にも同一の反応が出ます。運動において集中力を保ち、ベストなパフォーマンスを発揮するためにも、精神的なストレスを抑制することは重要です。

ホスファチジルセリンとうつ病との関係

慢性的なストレス状態が続くと、抑うつな気分が続きうつ病になってしまうことも少なくありません。ホスファチジルセリンは、うつ病にも効果的な結果をもたらすことが分かっています。

高齢者でうつ病の患者にホスファチジルセリンとオメガ3脂肪酸などを含むサプリメントを毎日300mg、30日間摂取してもらったところ症状が改善することが分かりました。

また、うつ病になると脳内のニューロンが減少することも判明していますが、高齢のラットによる実験では、ホスファチジルセリンを含むサプリメントを長期間与え続けるとラットの海馬内のニューロン喪失が回復したことが報告されています。

ただし、うつ病に対するテストに使われたサプリメントには、ホスファチジルセリンの他にもDHA、EPA、アスタキサンチン、トコトリエノールなどの成分が含まれていました。そのため、ホスファチジルセリンだけがうつ病の改善に効果があるわけではなく、複数の成分によって神経が保護されてうつ病の症状改善につながった可能性があるともいえるでしょう。(4)

ホスファチジルセリンと認知症との関係

ホスファチジルセリンは、アルツハイマー病や加齢による脳の機能低下にも役立つことが分かっています。ホスファチジルセリンが認知機能の改善に一定の効果を示す研究結果があり、ホスファチジルセリン(PS)を臨床試験で使用したところ、人の名前や顔、数などを覚える記憶テストでの改善や集中力の向上が確認されました。

また、環境に対する関心や注意力などが増えるという結果も出ました。さらに、モチベーションや社会性または自発性の喪失感が低下することも分かっています。ただし、限定的な結果であるため、アルツハイマー病の患者に対して改善効果があると断言できるものではないようです。

ホスファチジルセリンは、認知症やアルツハイマー病など病気の進行を遅らせるだけではなく、加齢による頭脳の働きの低下の改善にも役立つため、積極的に摂取したい成分といえるでしょう。(5)

ホスファチジルセリンはトレーニングにも大きく関係する

ホスファチジルセリンは、ストレス耐性を高めて集中力を増大させるだけではありません。アスリートのトレーニングにも有効なことが分かっています。

ホスファチジルセリンは、トレーニングの敵ともいえるコルチゾールレベルの抑制に効果的なのです。テストステロンは、筋肉や骨格を作る際に欠かせない物質です。テストステロンが分泌されると、同化作用を促進し、筋肉を増強します。

一方でコルチゾールは、トレーニングによってアスリートが身に付けた筋肉を分解させてしまう働きがあります。コルチゾールは、筋肉のたんぱく質をアミノ酸に分解し、肝臓でアミノ酸はブドウ糖に変えられてしまうため、アミノ酸が筋肉細胞に取り入れられるのを妨げてしまうのです。

テストステロンとコルチゾールは、どちらもコレステロールから生合成されるステロイドホルモンです。そのため、トレーニングの効果を最大限に活かすためには、筋肉を強くするテストステロンと筋肉を消耗させるコルチゾールの比率をいかに最適化に保つことかが重要になってきます。

ホスファチジルセリンを運動前または運動後に一定期間摂取すると、コルチゾールレベルの著しい抑制や筋肉痛の軽減などが見られることが分かっています。

また、ホスファチジルセリンを補足的に投与することで、運動して24時間後のクレアチンキナーゼ(CK)レベルが大きく低下する傾向も見られました。クレアチンキナーゼは、細胞膜の損傷と筋繊維の壊死の状態を示す値です。

通常、激しい運動やトレーニングを行い筋肉の損傷が起こると、血清および血漿中のクレアチンキナーゼのレベルは上昇しますが、ホスファチジルセリンを摂取することで、クレアチンキナーゼレベルが低い状況になることが分かりました。

ホスファチジルセリンが含まれる食べ物

ホスファチジルセリンは、サプリメント以外にも牛レバーや鶏レバー、魚、卵、大豆など、私たちが普段よく食べる一般の食品にも含まれている成分です。

ただし、食品に含まれるホスファチジルセリンは微量なため、私たちの体に必要な量を充分に補うことは難しいでしょう。年齢を重ねるごとに減少していく栄養素でもあるので、サプリメントで効率よく摂取するのがおすすめです。

アスリートにおけるホスファチジルセリンの有効摂取量

ホスファチジルセリンの有効性が感じられる摂取量は、どのくらいなのでしょうか。成人は1日あたり約100gの脂質を消費するとされていますが、その内の約16%はリン脂質の形で消費されています。消費されるリン脂質の中に含まれるホスファチジルセリンの量は、食物によって異なりますが、0.1〜12%です。

ホスファチジルセリンは動物の内臓などにも含まれているため、比較的食べ物から摂取しやすい栄養素といえます。しかし、近年はBSE(狂牛病)の影響や、食生活の変化で低脂肪・低コレステロールの食事が健康に良いという風潮が増えたことから、現在は1日に必要なホスファチジルセリンが摂取できていない方も少なくありません。

そのため、食物やサプリメントなどを通して、十分なホスファチジルセリンを摂取する必要があります。アスリートのホスファチジルセリンの有効摂取量は、10〜15日間ほどの短い期間であれば、1日あたり300〜800mgが適量です。また、身体的なストレスと密接な関係がある精神的ストレスのために摂取するのであれば、30日間の投与で1日あたりホスファチジルセリン(PS)300mgを摂取しましょう。

さらに、規則的なトレーニングの場合は、1日あたり100mgのホスファチジルセリンを摂取し、極度に激しいトレーニングを行う前は、2週間にわたって1日あたり400〜800mgを摂取するのが望ましいとされています。

ホスファチジルセリンのサプリメントは、大豆から作ることができます。ホスファチジルセリン(PS)は、スポーツにおいて、栄養補給に有効と証明された唯一の大豆由来製品です。

ホスファチジルセリンを摂取する際の注意

基本的に、ホスファチジルセリンは食物にも含まれる成分であるため、摂取した際の大きな副作用というのは報告されていません。サプリメントで摂取する場合でも推奨されている摂取量の範囲を超えなければ、副作用の心配はほとんどないといえるでしょう。

しかし、妊婦や授乳中の方、また幼児、特別な疾患がある方などは注意が必要です。慢性的に特定の医薬品を服用している場合は、過剰摂取による副作用や想定外のトラブルが生じる可能性もあるのでサプリメントを摂るときには十分注意しましょう。

ホスファチジルセリンはパフォーマンス向上に役立つ

ホスファルチジルセリンは、ストレスに対する耐性を上げて集中力を高めてくれる成分です。脳にとって重要な栄養素で、認知症やうつ病などの治療にも役立つとして研究が進められています。

また、ホスファチジルセリンはアスリートにとっても有益なもので、筋肉の生成を助け、疲労を軽減してくれます。適切な摂取量を守って、トレーニングの効果に最大限に活かしたいものです。

 

 

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講師は2011年〜2023年の間、全日本選手権パワーリフティング105kg級(フルギアカテゴリー)で12連覇を達成したPPN代表 阿久津貴史(2004年〜NSCAストレングス&コンディショニングスペシャリスト)です。現在は東京都立大学 大学院 人間健康科学研究科 知覚運動制御研究室に所属して、パワーリフティング種目の運動制御に関する研究をしています。

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