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エルゴジェニックエイドを正しく選択するには

「エルゴジェニックエイド(Ergogenic Aids)」という言葉を聞いたことがありますか?これはスポーツやエクササイズのパフォーマンスを向上させるために使用されるサプリメントを指します。 エルゴジェニックエイドは科学的に効果が立証されているものもあれば、そうでないものもあります。 アスリートがエルゴジェニックエイドを利用するのはごく自然な行為ですが、摂取するもの対して自身がしっかりと理解したうえで、エルゴジェニックエイドの利用に対して慎重に判断しなくてはいけません。 著者紹介 パワーリフティング全日本選手権12連覇・現日本記録保持 NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ 阿久津貴史 (公式HP) 1982年生まれ。パワーリフティングの競技者として活動するとともに、パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。 エルゴジェニックエイドとは? サプリメントとは「補助・追加」という意味ですが、一般的にさまざまな健康食品も含めてサプリメントと呼んでいることが多く、曖昧な意味合いで使われることも多いです。 国立スポーツ科学センター(JISS)は、これらのサプリメントを目的に応じて区別するため、食事で補いきれない栄養素や成分を摂取する目的のサプリメントを「ダイエタリーサプリメント」、運動能力に影響する可能性のあるサプリメントを「エルゴジェニックエイド」として区別しています。 ダイエタリーサプリメント 物質名 商品の例 たんぱく質 プロテイン 炭水化物 エネルギーゼリー、スポーツバー、 スポーツジェル ビタミン マルチビタミン、ビタミン C ミネラル マルチミネラル、カルシウム、鉄 炭水化物、ミネラル スポーツドリンク エルゴジェニックエイド 物質名 商品の例 アミノ酸 BCAA、カルニチン クレアチン クレアチンパウダー カフェイン カフェイン錠 ユビキノン コエンザイム Q10 重炭酸ナトリウム ハーブ ウコン、エゾウコギ エルゴジェニックエイドの場合、多くはインターネットを通じて販売されています。メーカーのホームページ上で顕著な効果を謳っていたり、SNS上でフォロワーが多い人が推奨していたりするケースも珍しくありません。 しかしながら、実際の研究結果を調べるとまだ十分な検証がされていなかったり、ある研究においては効果が見られたものの、別の研究では効果が見られなかったりするものもあります。 そのため、アスリートがエルゴジェニックエイドを検討する場合、ホームページ上の情報だけを鵜呑みにするのではなく、以下の前提を踏まえて、信頼できる情報源を参考にするようにすべきです。 ・個人差や運動内容によっても影響が変わってくるため、どの選手に対しても必ずパフォーマンスアップに効果があるという魔法のようなサプリメントは存在しない ・メーカーはポジショントークを発信している場合がある。広告塔となっている人物が発信するメッセージも同様 ・古い情報と新しい情報で結論が全く異なる場合がある なお、国際オリンピック委員会 (IOC)が過去に出した声明において、スポーツパフォーマンスを直接改善する科学的根拠があるサプリメントとして挙げられているのは、カフェイン、クレアチン(クレアチンモノハイドレート)、硝酸塩、重炭酸ナトリウム、ベータアラニンです。 上記声明はIOCの立場上、かなり保守的な内容となってはいますが、上記以外のエルゴジェニックエイドにおいては研究が不足しており、エリートアスリートへの適用を保証するのに十分な質の研究が無いとしています。 ここから、IOCの声明においても科学的根拠があるとされるエルゴジェニックエイドについて見ていきましょう。 カフェイン 多くのアスリートがコーヒーやエナジードリンクなどでカフェインを摂取しています。カフェインは、脳の中で眠気を感じさせる物質(アデノシン受容体)と結合し、その働きを邪魔します。これにより興奮作用や、疲労を感じにくくする作用が生じます。 また、カフェインは、体が脂肪をエネルギーとして使いやすくする効果もあります。これにより、筋肉の糖分を温存することができます。これらの作用により、幅広い競技において、パフォーマンスを高める可能性があります。しかし、カフェインの摂取については、以下の点に注意する必要があります。・カフェインの摂りすぎは、不安や不眠、動悸や高血圧などの副作用を引き起こす可能性があります。また、手が震える場合があるため、射撃やアーチェリーなどの正確さが求められる競技では逆効果になる可能性があります*。さらに、カフェインは疲れを感じさせないことで、怪我やオーバートレーニングの危険性を高める可能性もあります。 ・カフェインは他の運動能力を高める物質と一緒に摂取することで、効果が増したり減ったりする可能性があります。例えば、カフェインと糖分を一緒に摂取すると、長時間走るときの運動能力がさらに高まるという報告があります*。一方で、カフェインと後述のクレアチンを一緒に摂取すると、互いに効果を打ち消しあうことが示唆されています*。そのため、他の物質と一緒に摂取する場合は注意が必要です。 クレアチンモノハイドレート クレアチンモノハイドレートは、筋肉内のエネルギー源であるATPを作るために必要なクレアチンリン酸の原料です。クレアチンモノハイドレートを摂取すると、筋肉内のクレアチンリン酸が増えて、短時間の高強度運動のパフォーマンスや回復が改善されることが多くの研究で示されています*。 しかしながら、摂取については、以下の点に注意する必要があります。 ・摂りすぎると、腎臓や肝臓に負担がかかったり、水分代謝が乱れたりする可能性があります。体重や筋肉量が増えることもあるので、体重制限があったり、体重増加によってパフォーマンスに大きな影響がある競技では注意が必要です。 ・クレアチンモノハイドレートは他のサプリメントと併用することで、効果が変わることもあります。例えば、クレアチンモノハイドレートとβアラニンを一緒に摂ると、高強度運動のパフォーマンスがさらに向上することが報告されています。一方で、クレアチンモノハイドレートとカフェインを一緒に摂ると、効果が打ち消されることもあると言われています。 クレアチンモノハイドレートは特に高強度・短時間の競技に有効ですが、持久力系の競技でも一定の効果が期待できます*。 硝酸塩 硝酸塩は、一酸化窒素という血管や筋肉に作用する物質の原料です。硝酸塩は、ビートルートやほうれん草などの野菜に多く含まれています。 ・硝酸塩は、筋力やスピードなどの高強度や短時間の運動に効果があります。硝酸塩を摂ると、筋肉がより強く速く動くようになったり、同じ動作を続けられる時間が長くなったりすることが研究で示されています*。これは、一酸化窒素が筋肉の働きを助けるからです。 ・硝酸塩は、持久力や有酸素運動にも効果があります。硝酸塩を摂ると、最大酸素摂取量や運動時間が長くなることが研究で示されています。これは、一酸化窒素がエネルギーの消費を抑えたり、筋肉に酸素を送る能力を高めたりするからです。 ・硝酸塩の摂りすぎによって、不安や不眠、動悸や高血圧などの症状が出ることがあります。特に、集中力や判断力が必要な競技では、パフォーマンスが下がる可能性もあります。 ・硝酸塩は他のサプリメントと一緒に摂ると、効果が変わることもあります。例えば、硝酸塩とβアラニンやクレアチンを一緒に摂ると、高強度運動の効果がさらに上がることが報告されています。硝酸塩とカフェインを一緒に摂ると、効果がなくなることもあると言われています。他のサプリメントと一緒に摂る場合は注意してください。 ・硝酸塩は特に高強度や短時間の競技に有効ですが、持久力や有酸素運動でも効果が期待できます。 重炭酸ナトリウム 一般的に重曹と呼ばれる物質で、食品や医薬品としても利用されています。重炭酸ナトリウムは、エルゴジェニックエイドの一種として、高強度や短時間の運動パフォーマンスを向上させる可能性があります。 ・重炭酸ナトリウムを摂取すると、血液中の重炭酸イオンが増加し、水素イオン(H+)を中和することで、血液や筋肉内のpHを上昇させます。これにより、高強度運動時に発生する乳酸や水素イオンによる疲労感や筋力低下を抑制することができます。 ・また、重炭酸ナトリウムは血管拡張作用も持ち、血流や酸素供給を改善することも期待できます。もちろん、重炭酸ナトリウムにおいても、適正な摂取量やタイミングは、個人差や運動種目によって異なります。 ・重炭酸ナトリウムの過剰摂取は、腹痛や嘔吐などの消化器系の副作用を引き起こす可能性があります。また、重炭酸ナトリウムは体内の水分バランスや電解質バランスを乱すこともあります。 ・重炭酸ナトリウムは他のエルゴジェニックエイドと併用することで、相乗効果や拮抗効果が生じる可能性があります。例えば、重炭酸ナトリウムとクレアチンやβアラニンを同時摂取すると、高強度運動パフォーマンスがさらに向上するという報告があります。一方で、重炭酸ナトリウムとカフェインや硝酸塩を同時摂取すると、双方の作用メカニズムを打ち消すように働くことが示唆されています。 ベータアラニン ベータアラニンは、筋肉内のカルノシンという物質の合成に必要な原料です。カルノシンは、高強度の運動時に発生する乳酸や水素イオンによる筋肉疲労を抑制する働きを持っています。つまり、ベータアラニンを摂取することで、筋肉内のカルノシンが増加し、高強度運動の持続時間や回復速度が向上する可能性があります。 注意点としては、以下のとおりです。 ・ベータアラニン摂取は、皮膚や口内のピリピリとした感覚や、発赤などの副作用を引き起こす可能性があります。また、ベータアラニンはタウリンと競合することでタウリンの吸収を妨げる可能性もあります。 ・ベータアラニンは他のエルゴジェニックエイドと併用することで、相乗効果や拮抗効果が生じる可能性があります。例えば、ベータアラニンとクレアチンや硝酸塩を同時摂取すると、高強度運動パフォーマンスがさらに向上するという報告があります 。一方で、ベータアラニンとカフェインを同時摂取すると、双方の作用メカニズムを打ち消すように働くことが示唆されています。 エルゴジェニックエイドを採り入れるには まずはトレーニング時に少量から摂取してみて、自分の体にどのように作用するか、しっかりと見定めるようにしましょう。 また、大きな変化が生じた場合は、必要に応じて休息や回復を行ってください。人によっては全く合わないものもあるので、無理して摂取することは厳禁です。 また、同時に摂取する内容によっては、効果を打ち消す場合もあるため、他のエルゴジェニックエイドと併用する場合は注意が必要です。 アンチドーピングを最重要視すること 最後に、アスリートがエルゴジェニックエイドを選ぶにあたって最も重要な点をお話します。 それは、ドーピング陽性となるリスクを極力排除した製品を選ぶことです。 成分表に含まれていなくても、製造工程で禁止物質が混入(汚染とも呼びます)する可能性は決してゼロではありません。過去のドーピング陽性事例でも、汚染が原因となっているケースは少なくありません。 ドーピングリスクに対して、根拠なく安心安全を謳っている商品は国内の製品でも数多く見られます。最近はアンチドーピング認証を取得している商品も見られるようになりましたが、その認証の実態は全数検査ではなく市販後の抜き取りチェックである場合もあります。 ▶参考記事:アンチドーピング認証に潜む罠 ドーピングリスクから身を守るのは、正しい知識と信頼のおける製品を選ぶことです。エルゴジェニックエイドを選択する際は、その製品が何故安全と謳っているのか根拠を調査したうえで、採用することをお勧めします。 PPNのサプリメント管理体制について サプリメント摂取によるアンチドーピング規則違反からアスリートを守る唯一の方法、それは、全製品の、全ロットを、市場に流通させる前に検査を実施することです。 市場に流通させながら全ロット検査を実施しているメーカーはいくつかありますが、アスリートのドーピング陽性リスクを極力排除するためには、全ロット検査でも十分ではないと考えています。 そのため、PPNでは全製品・全ロットに対して、市場に流通させる前に検査を実施するだけでなく、「結果を確認するまで出荷しない」という管理体制を取っています。 この体制を取っているメーカーは世界で唯一弊社しかありません。アスリートにとって栄養摂取は投資であり、ドーピング検査の徹底は保険です。PPNでは「体感」と「安全性」を実現できる製品開発に尽力しています。 詳しくはこちら>>

アスリートが使うサプリメントについて解説

アスリートが日々のトレーニングや競技で高いパフォーマンスを発揮するためには、食事から十分な栄養素を摂取することが必要です。また、食事だけでは不足したり、摂りにくい栄養素もあるため、そういった場合はサプリメントを利用することで、効率的に必要な栄養素を補うことができます。 それらに関する情報はインターネットをはじめ様々なところで掲載されていますが、中には科学的な根拠に基づいていなかったり、情報が古く現在の主流とは内容が異なる場合もあります。 また、各々のアスリートに合った栄養戦略を立てるためには、競技種目による違いはもちろん、アスリートごとの個人差や課題点を考慮する必要があります。 まずは基本的な部分を正しく理解し、それを踏まえたうえでそれぞれに合った計画を立てる必要があります。そこで今回は、アスリートがサプリメントを選択する際に、知っておくべき点や注意すべき点について解説しようと思います。 著者紹介 パワーリフティング全日本選手権12連覇・現日本記録保持 NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ 阿久津貴史 (公式HP) 1982年生まれ。パワーリフティングの競技者として活動するとともに、パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。 サプリメント選択の前に。必要な栄養素の摂取量を知る 当たり前のことですが、アスリートの体も通常の人と同じように筋肉や骨などで構成されています。そのため、摂取しなければならない栄養素の種類や構成は、一般の人と大きく変わりません。 しかし、アスリートの場合、一般的な人より筋肉の発達や回復を多く必要とするため、栄養素の量は通常よりも多く摂取する必要があります。 また、栄養素を一度に多量に摂取したとしても、体が吸収できる量やスピードは限られているため、1日の摂取量を複数回に分けて間隔を空けて摂取するなど、タイミングも考慮して栄養戦略を立てることが重要です。 そのためには、まず必要とされる栄養素をどの程度摂取する必要があるか把握する必要があります。それを基に、食事戦略やサプリメントの選択、摂取のスケジュールを管理していく形となります。 ここから、3大栄養素を例にとって、アスリートが必要とする摂取量の目安を紹介します。 アスリートの炭水化物摂取量 炭水化物は、筋肉や脳などの主要なエネルギー源です。炭水化物は主にグリコーゲンという形で筋肉や肝臓に貯蔵されますが、その量は限られています。炭水化物摂取量が不足すると、グリコーゲンが枯渇し、パフォーマンスや回復が低下する可能性があります。 炭水化物摂取量は、運動量や強度、競技種目などに応じて変化しますので、各々に合った炭水化物の必要摂取量を正確に特定することは困難ですが、アメリカスポーツ医学会(ACSM)、アメリカ栄養士協会(ADA)、カナダ栄養士協会(DC)が共同で発表したガイドラインでは、目安として以下のような値が示されています。 体重あたりの炭水化物摂取量の目安 ・低強度または休息日:3~5 g/kg ・中強度または1時間未満の運動:5~7 g/kg・高強度または1~3時間の運動:6~10 g/kg・極度の強度または4時間以上の運動:8~12 g/kg 炭水化物摂取のためのサプリメント 上記の数字だけ見ると、食事だけでも達成できそうに見えますが、前述のとおり、グリコーゲンを体内に貯蔵できる量は限りがあります。 体重70kgの男性の場合、体内のグリコーゲン貯蔵量は2,000~2,500kcalと言われますが、例えば時速10kmほどのペースでフルマラソンを走ったときの体重70kgの男性の消費カロリーは約3,300kcalです。この数字からも、長時間のトレーニングや競技では簡単にグリコーゲンが枯渇してしまうことがお分かりになるかと思います。 グリコーゲン枯渇を防ごうにも、食事調整だけでは限界があり、また競技中に食事を摂るわけにもいかないため、エネルギー補給として主にカーボ(炭水化物)サプリメントが使用されます。 近年では、よりアスリートの使用に適した様々な糖質系素材が開発されており、例えば「クラスターデキストリン」は運動持続時間の延長という視点でしっかりデータが取られている素材の一つとなります。 アスリートのタンパク質摂取量 続いて、たんぱく質の摂取についてです。アスリートでなくても、たんぱく質の重要性は広く知られるようになってきております。しかしながら、各々にとって適切な摂取量を特定することは容易ではなく、意見が分かれるところです。 たとえば、こちらの文献では、5402名の被験者を含む105件の文献をもとに、メタアナリシス(複数の研究の結果を統合し、より高い見地から分析すること)が実施されています。 タンパク質摂取量が0.5~3.5g/kg/日(1日の体重1kgあたりのタンパク質摂取量)の範囲で検証したところ、以下の結果となりました。 ・タンパク質摂取量が多ければ多いほど、筋肉量が多くなる傾向 ・タンパク質摂取量が体重1kgあたり1.3 g(体重が50kgの方では65g/日)を超えると、筋量増加の効率が悪くなる ・筋肉に負荷をかけるトレーニングを行っている場合は、総タンパク質摂取量が1日体重1kgあたり1.3 gを超えても、筋量増加の効率が低下しにくくなる。 上記の結果を鑑みると、単純にタンパク質摂取量を増やすだけでも、筋肉量の維持や増加に有効であることは確かといえます。 しかしながら、過剰にタンパク質を摂取することはおすすめできません。適正量を著しく上回って摂取すると、たんぱく質に含まれる窒素を代謝するために腎臓や肝臓に負担をかけたり、余剰な分は中性脂肪に変換されて体脂肪量を増加させる可能性があります。 したがって、トレーニング強度や量に応じてたんぱく質摂取の増やすようにしつつ、過剰なタンパク質摂取によるリスクも考慮して、それぞれに合った適度な量のタンパク質を考えることが重要といえます。 こちらの文献はとても興味深いもので持久走を対象に最適なたんぱく質摂取量を調査しています。この文献では20kmのトレッドミル走を実施した場合、体重1kgあたり1.83gのタンパク質摂取が適正とされています。 では巷でよく話題になる高タンパク質食は有害なのか?ということに関してご案内いたします。 まず高タンパク質食の定義とは国際スポーツ栄養学会の会長であるホセ・アントニオ氏曰く「1日あたり体重1kgあたり2.2g以上のたんぱく質摂取すること」とのことです。 高タンパク質食に関する研究では、「レジスタンストレーニングの経験のある48人に標準的な食事と高たんぱく質食(体重1kgあたり3.3g以上のたんぱく質を毎日摂取)を摂取させた場合、高たんぱく質食の方が優位に体脂肪率、体脂肪量が減少した。」「1日あたり体重1kgあたり2.5g~3.3gのたんぱく質摂取を一年間続けた結果有害な作用は全くもたらさなかった。」というデータが取れています。 究極的には言ってしまえばヒトは全員個体差があります。たんぱく質の摂取量を体重1kgあたり2gより3gに増やした方が反応が良いヒトもいればそうでないヒトもいるわけです。たんぱく質の摂取量は一度に40g以上は無意味という説もありますが、ヒトの消化能力や吸収能力も全て個体差があるということは覚えておきましょう。 したがって、トレーニング強度や量に応じてたんぱく質摂取を増やすようにしつつ、自分に合った最適な量を見極めていく必要があります。 タンパク質摂取のためのサプリメント 食事のみからタンパク質を摂取しようとすると、多くの場合量が不足します。それを補うため、プロテインサプリメントを摂取することが一般的です。 プロテインには、ホエイ・ソイ・カゼインなどいくつかの種類がありますが、それぞれ特性が異なります。 ▶ 参考記事:プロテインの選び方。ホエイやカゼインのどちらを使うべきなのか ホエイタイプのプロテイン一択で摂取している選手も多いですが、種類の違いを生かして使い分けると、さらなるパフォーマンスアップが期待できます。例えば、就寝中のカタボリックを防ぐために就寝前に血中アミノ酸濃度をキープしやすいカゼインタイプのプロテインを摂取したり、素早いタンパク質補給のためにペプチドサプリメントを選択する場合もあります。 アスリートの脂質摂取量 脂質は、エネルギー源や細胞膜やホルモンなどの構成要素であり、必須脂肪酸や脂溶性ビタミンなどの吸収にも必要です。 脂質摂取量が不足すると、パフォーマンスや健康に悪影響を及ぼす可能性があります。  一方で、脂質摂取量が過剰になると、体重や体脂肪率の増加や心血管疾患などのリスクが増加します。それを踏まえ、脂質摂取量は、エネルギー摂取量の15~30%程度が適切とされています。 エネルギー摂取量は、運動量や強度、体重や体脂肪率、成長や発育などに応じて変化しますし、個人差が大きいため、正確な値を出すことは難しいですが、目安として以下のような値が示されています。 ・一般人:25~35 kcal/kg・軽度から中度の運動者:30~45 kcal/kg・中度から高度の運動者:40~70 kcal/kg 上記はあくまで目安となりますが、現代の食生活において脂質は過多になりやすい栄養素です。バランスを考慮し減量や増量などの目的に合わせて調整するとよいでしょう。 「エルゴジェニックエイド」を取り入れる 食事から不足する栄養素を補うためのサプリメントのことを「ダイエタリーサプリメント」と呼びますが、一方で競技パフォーマンス向上のためのサプリメントを「エルゴジェニックエイド」と呼びます。 以下にそれぞれの例を記載していますが、ダイエタリーサプリメントはコンビニやドラッグストアでも多く販売されています。一方で、エルゴジェニックエイドはおもにインターネットで販売されているケースが多いです。 ダイエタリーサプリメントの例: プロテイン、スポーツバー、エネルギーゼリー、マルチビタミン、カルシウム・鉄 エルゴジェニックエイドの例: アミノ酸(BCAA・EAA・カルニチンなど)、クレアチン、ハーブなど ダイエタリーサプリメントは通常の人でも健康増進目的から摂取することが多い一方で、エルゴジェニックエイドの主な目的は、筋力や持久力、疲労回復などの向上です。自身の課題を把握したうえで、エルゴジェニックエイドを適切に選択し摂取することが重要となります。 エルゴジェニックエイドのうち、効果が科学的に実証されているものでは、カフェイン、クレアチン、硝酸塩、β-アラニン、重炭酸ナトリウムが挙げられます。 エルゴジェニックエイドの場合、信頼のおける研究でポジティブな効果が確認されているものもあれば、明らかに効果があるとは言えないものもあります。また、吸収や代謝は個人差があるため、どの選手にも確実な効果があるとは限りません。 様々なエルゴジェニックエイドが研究されていますが、本当に自分に合ったものなのか、パフォーマンス向上に効果があるのか、自身の体としっかりと向き合ったうえで選択するようにしましょう。 ▶ 参考記事:クレアチンの摂取とドーピング検査について ▶ 参考記事:β-alanine(ベータアラニン)の特徴や摂取・効果について サプリメント選択にあたって、一番重要なこと:アンチドーピング アスリートがサプリメントを選択するにあたって、一般の人と異なるのが、アンチドーピングに配慮しなければならないという点です。 この点が最も重要であり、仮に最適な栄養戦略を確率できたとしても、アンチドーピングに配慮していなければ全てが崩れてしまう恐れがあります。 世界アンチ・ドーピング規程では、アスリートは「自分の摂取物及び使用物に関して責任を負う」とされています。そのため、仮に意図せぬドーピング陽性が起きた場合は、責任を逃れることはできません。 自らが情報収集し、正しく理解して、そのうえで摂取するサプリメントを選択しなければなりません。 PPNのサプリメント管理体制について サプリメント摂取によるアンチドーピング規則違反からアスリートを守る唯一の方法、それは、全製品の、全ロットを、市場に流通させる前に検査を実施することです。 市場に流通させながら全ロット検査を実施しているメーカーはいくつかありますが、アスリートのドーピング陽性リスクを極力排除するためには、全ロット検査でも十分ではないと考えています。 そのため、PPNでは全製品・全ロットに対して、市場に流通させる前に検査を実施するだけでなく、「結果を確認するまで出荷しない」という管理体制を取っています。 この体制を取っているメーカーは世界で唯一弊社しかありません。アスリートにとって栄養摂取は投資であり、ドーピング検査の徹底は保険です。PPNでは「体感」と「安全性」を実現できる製品開発に尽力しています。 詳しくはこちら>>

海外のプロテインは危険なのか。国産プロテインは安全なのか。

海外のプロテインは危険なのか。国産プロテインは安全なのか。

国産だけでなく、海外の製品も流通しているプロテイン。しかし海外のプロテインには、品質に不安のある製品も少なくありません。今回は海外プロテインの危険性と、国産プロテインを選ぶ理由についてご紹介します。

β-alanine(ベータアラニン)の特徴や摂取・効果について

β-アラニンは、3‐アミノプロパノン酸とも呼ばれる非必須アミノ酸の一種です。 非必須アミノ酸とは、体内で自然に生成されるアミノ酸のことで、β-アラニンは肉類、鶏肉、魚類にも含まれており、体内でヒスチジンと合成されて「カルノシン」を生成します。 スポーツサプリメントをはじめ、サルコペニア(加齢にともなって筋肉の量が減少していく現象)対策としての中高年層向け機能性食品など、広い範囲で採用されている成分です。 しかしながら、プロテインやその他のアミノ酸と比べると、β-アラニンの役割や特徴についてはあまり認知されていないように思われます。 例えば、過去の研究によると、β-アラニンサプリメントを摂取しているオーストラリアのプロラグビー選手やフットボール選手の大多数は、その利点についてほとんど知識がなく、ガイドラインを満たすのに十分な頻度または十分な量を摂取している回答者は20%未満という結果が出ています。  β-アラニンはエルゴジェニックエイドとして過去の研究データも多く、正しく摂取すればアスリートは大きな恩恵を得ることが期待できますので、その特徴や効果はしっかりと知っておきたいところです。 そこで今回は、β-アラニンについて詳しく解説しようと思います。 著者紹介 パワーリフティング全日本選手権12連覇・現日本記録保持 NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ 阿久津貴史 (公式HP) 1982年生まれ。パワーリフティングの競技者として活動するとともに、パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。 β-アラニンとカルノシン β-アラニンが筋肉組織を作る役割を果たすと誤解している人もいるかもしれませんが、β-アラニンはそれ自体が体内で筋肉組織を作るためには使用されません。 実際は、脳や筋肉中に多く存在するペプチドの一種、「カルノシン」を構成する材料として機能します。 人をはじめとする脊椎動物は、ヒスチジンとβーアラニンを結合させるカルノシン合成酵素遺伝子を持ち、体内でカルノシンを恒常的に生成しています。 カルノシンは、動物の体の中でも、激しい運動をすることが多い場所に、多く存在しています。 特に、運動能力が高い動物はカルノシンを多く生成しており、魚類から鳥類まで、幅広い種類の動物に必要な栄養素です。 例えば、カルノシンは野鳥の体内にも存在し、カルノシンの働きによって長時間の飛行が可能になっていることが知られています。 筋疲労とカルノシン では、ここからカルノシンの効果について説明していきます。 私たちが日常的に行っている運動動作は、骨格筋の収縮によって成り立っています。そして、筋の収縮を継続的に実施した時のパフォーマンスの低下が、お馴染みの「筋疲労」です。 スポーツをやっている方なら、「筋疲労が起こると筋肉に乳酸が溜まる」という話を聞いたことがある人も多いかと思います。 最近の研究では、もう少し詳しい機序が明らかになってきており、筋疲労の原因として、乳酸が作られる過程で発生する水素イオン(プロトン)などの作用で、筋肉のpHバランスが酸性に傾くことが筋疲労の一因と考えられています。 カルノシンは、上記のプロトンによる酸化を中和する働きを持っているので、活動筋内のプロトン蓄積に対して、即時防御物質として機能します*1。 端的に言うと、カルノシンによって、筋疲労が抑止されるということです。 β-アラニンを摂取すると、カルノシンが増加する カルノシンの構成要素であるβ-アラニンを継続的に摂取すると、骨格筋カルノシン含量が増えることが分かっています。 つまり、β-アラニンの摂取によって筋内のカルノシンを増加させると、筋疲労を抑止させることが期待できるわけです。 特に、無酸素運動中における筋肉疲労への耐性が向上するとされています。具体的には、60〜300秒にわたる高強度の活動中において、β-アラニンの摂取がより効果的となります*2*3。  一方で、低強度活動における具体的な効果に関する研究はまだ不十分といえます。β-アラニンの摂取期間を長くすると、筋肉内のカルノシン含量が増加することは明らかになっていますが、低強度活動パフォーマンスの関連性はまだ明確になっていません。 β-アラニンの摂取量について 推奨される摂取量は1日あたり3.2グラム〜6です。ベータアラニンの血中濃度は摂取後2時間以内に上昇し、その後下降をします。 「直接カルノシンを摂取すれば良いではないか?」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、カルノシンを経口摂取すると、そのままの状態で胃を通過し、小腸に到達して吸収されます。 その後、カルノシンは小腸の細胞内や血液中で分解され、βアラニンとヒスチジンになります。これらが血流に乗って脳へ運ばれた後に、再びカルノシンとして合成されます。 つまり、摂取したカルノシンはβ-アラニンとヒスチジンに分解されることになるので、β-アラニンの形で摂取したほうが、効率が良いといえます。 β-アラニン摂取による運動能力以外の恩恵 アスリートがβ-アラニンを摂取することによって筋肉疲労が軽減し、競技中のパフォーマンス維持や、より高強度かつ頻繁にトレーニングできるようになることは、多くの研究で示されています。 また、近年では軍隊におけるβ-アラニン摂取の効果も研究が進められており、過酷な状況でも兵士が肉体的・精神的パフォーマンスを維持するためにβ-アラニン摂取が効果があることが明らかになっています。 例えば、こちらの研究では、24 時間の睡眠なしの模擬軍事作戦中の認知機能に対するβ-アラニンの影響が調査されました。参加者は、いくつかの反応テスト、視覚追跡評価、シリアル セブン テストなど、さまざまな認知機能評価を受けました。 その結果、β-アラニンを摂取した参加者は視覚反応時間を維持でき、プラセボ群と比較してミスが大幅に減少したという結果が得られています。 また別の研究では、射撃中の不発を認識したときの修正行動を評価したところ、プラセボ群と比較して優れたパフォーマンス速度を示したという結果があります。さらに、大きな騒音が発生する射撃場内で、連続減算テストを行うことにより、認知機能を評価するという実験も行われています。ここで、β-アラニンを摂取した兵士は、プラセボを摂取した兵士よりも2分間のテストでの正解数が有意に多かったという結果が得られています。 上記のような結果を踏まえ、精神疲労の軽減、または認知的意思決定能力の向上にもβ-アラニンが関連している可能性が示唆されているというわけです。 β-アラニンとドーピング検査について 様々な恩恵が期待されるβ-アラニンですが、アスリートが摂取する場合、ドーピング陽性が気になる人もいるのではないでしょうか? まず前提として、β-アラニンは体内にも自然に存在する物質であるため、世界反ドーピング機関(WADA)の禁止物質にも含まれていません。 しかしながら、アスリートがβ-アラニンをサプリメントで摂取する場合、商品の選択に注意が必要です。何故なら、成分表に含まれていなくても、製造工程における残留成分などによって本来入るべきでない成分が混入してしまうことは決して珍しいことではないからです。 たとえアンチドーピング認証を受けている商品だったとしても、多くは市販後の抜き取り調査(インフォームドチョイス)を採用しており、禁止物質を含んだ商品を口にしてしまう可能性はゼロではないのです。 そのため、β-アラニンをサプリメントで摂取する場合は、必ず商品の管理体制をチェックしておくことをお勧めします。  PPNのサプリメント管理体制について サプリメント摂取によるアンチドーピング規則違反からアスリートを守る唯一の方法、それは、全製品の、全ロットを、市場に流通させる前に検査を実施することです。 市場に流通させながら全ロット検査を実施しているメーカーはいくつかありますが、アスリートのドーピング陽性リスクを極力排除するためには、全ロット検査でも十分ではないと考えています。 そのため、PPNでは全製品・全ロットに対して、市場に流通させる前に検査を実施するだけでなく、「結果を確認するまで出荷しない」という管理体制を取っています。 この体制を取っているメーカーは世界で唯一弊社しかありません。アスリートにとって栄養摂取は投資であり、ドーピング検査の徹底は保険です。PPNでは「体感」と「安全性」を実現できる製品開発に尽力しています。 詳しくはこちら>> *1:Lancha Junior AH, de Salles Painelli V, Saunders B, Artioli GG. Nutritional strategies to modulate intracellular and extracellular buffering capacity during high-intensity exercise. Sports Med, 45 (1): 71-81, 2015. *2:Stellingwerff, T.; Decombaz, J.; Harris, R.C.; Boesch, C. Optimizing human in vivo dosing and delivery of β-Alanine supplements for muscle carnosine synthesis. Amino Acids 2012, 43, 57–65. *3:Perim, P.; Marticorena, F.M.; Ribeiro, F.; Barreto, G.; Gobbi, N.; Kerksick, C.; Dolan, E.; Saunders, B. Can the Skeletal Muscle Carnosine Response to Beta-Alanine Supplementation Be Optimized? Front. Nutr. 2019, 6, 135. 

サプリメントに起因するドーピング禁止薬物の事例

ドーピング検査を受ける必要のあるトップアスリートにとって、ドーピング陽性となることは最も恐ろしいことです。 自己防衛のためにアンチドーピングの知識を持っている選手も増えてきていますが、禁止薬物のリストは毎年のように変更されるため、選手個人が完全に把握することは困難といえます。 特に怖いのは、「大丈夫」と思っていたサプリメントに禁止物質が含まれている場合です。そこで、今回は過去にどのような禁止物質がドーピング検査において検出されたのか、サプリメントに起因する事例を中心に見ていこうと思います。 著者紹介 パワーリフティング全日本選手権11連覇・現日本記録保持 NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ 阿久津貴史 (公式HP) 1982年生まれ。パワーリフティングの競技者として活動するとともに、パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。 マルチビタミンサプリメントに起因する事例 現在も販売されているギャスパリニュートリション社製の「ANAVITE」というマルチビタミンサプリメントを摂取した結果、ドーピング違反となった事例が日本で発生しています。 ANAVITEは日本でも多く売れている実績があり、一日に必要なビタミン・ミネラルが摂れるという点が多くのトレーニーに支持されています。他にも、ベータアラニンやL-カルニチンを含有しており、持久力向上・除脂肪体重の増加や脂肪を燃焼するという効果を期待して購入する人もいます。 日本の水泳アスリートが、過去にビタミン不足の解消を目的として、ANAVITEを摂取していましたが、WADAが禁止する興奮薬1,3-ジメチルブチルアミンが検出され、競技成績の失効と7カ月の資格停止の制裁を受けた事例があります。 該当選手は上記サプリメントの購入前に成分表を見て禁止物質が含まれていないことを確認しており、上記が発覚する前のドーピング検査では陰性だったものの、その後におけるドーピング検査の結果、陽性となった形となります。 さらに、上記事例の前年にも、ANAVITEが原因で国内の自転車競技選手のドーピング違反が発覚しており、禁止物質の1-テストステロン代謝物である1-アンドロステロンが検出されていました。 これらの件の原因としては、製造過程におけるコンタミネーション(禁止物質の混入)である可能性が示唆されています。 なお、ギャスパリニュートリション社が販売するサプリメントについては、SP250という名称の一酸化窒素系サプリメントに起因して、国内のボディビル選手がドーピング陽性となった事例もあります。 原因のサプリメントが特定されていない事例 レスリングの全日本選抜において、筋肉増強作用があることから禁止薬物であるドロスタノロンの代謝物が試合当日に採取した尿(A検体)から検出された事例があります。 当該選手は海外製を含む多種多様なサプリメントを大量に服用しており、どのサプリメントに禁止薬物が含まれていたのか特定はできないものの、それらのいずれかに禁止成分が含まれていた可能性が高いとされています。 他にも、ハンマー投げの選手からホルモン調節薬であるクロミフェンが検出された事例があり、海外製のプレワークアウト用サプリメント・クレアチンサプリメント・プロテインのいずれかに起因する可能性があるとされています。 こちらも、当該サプリメント購入の際に禁止物質が含有されていないことを、選手が成分表から事前確認していました。そして、禁止物質が出た原因としては、上記同様に、コンタミネーションであるとされています。 国内企業が販売するサプリメントに起因する事例 国内の水泳競技選手から禁止物質であるエノボサルム(オスタリン)が検出された事例があります。そして、当該選手が消費せず残っていたサプリメントを検査したところ、同様にオスタリンが検出された結果となりました。 このサプリメントの成分表示にはオスタリン含有の記載は無く、過去にサプリメントを摂取した直後に実施されたドーピング検査においても陰性となっていました。 また、当該選手の兄も同じサプリを摂取しており、もともとは兄やトレーナーの勧めに従って当該選手も同サプリを摂取するようになりましたが、本人もまさか陽性になるとは予想していなかったものと思われます。 これらの事例から、アスリート達が学ぶべきこと まず、現在市販されているサプリメントの中には、禁止物質が含まれている可能性があることを、しっかりと意識しておく必要があります。 さらに重要なのは、上記の事例でも分かるように、成分表に禁止物質が含まれていないことが確認できたとしても、禁止物質が含まれていないとは言えないという点です。 上記の事例でも、何度かコンタミネーション(通称:コンタミ)という言葉が出てきましたが、本来含まれないはずの物質が混入してしまうことは決して珍しくないということです。 アンチドーピング認証について これらのような背景もあり、コンタミによって汚染されたサプリメントを摂取するリスクを低減させるための手段として、アンチドーピング認証を取得した商品が普及するようになりました。 しかしながら、「アンチドーピング認証を取得しているので、アスリートが摂取しても大丈夫」という誤った認識が広がっているように感じます。 例えば、代表的なアンチドーピング認証として、インフォームドチョイス(以下、左側 緑色のロゴ)を取得している商品もありますが、アスリート向けの認証であるインフォームドスポーツ(右側のオレンジ色のロゴ)とは管理体制が全く異なります。 詳細はこちらの記事で説明していますが、ただアンチドーピング認証を取得しているというだけでは、アスリートをドーピングリスクから守ることはできないのです。 ドーピングリスクは決して他人事ではない 直近ではテニスの元世界ランク1位の選手もドーピング違反で出場停止となっており、「サプリメントを販売する会社のミスにより禁止物質が混入してしまう“コンタミネーション”があった」とのコメントが出ています(参考)。 これらの事例も踏まえ、ドーピング検査を受ける必要のある選手は、「ドーピングリスクは決して他人事ではない」ということを改めて認識するべきだと考えています。 「禁止物質が含まれていない」という成分表示や人の言葉だけで信用するのではなく、何故禁止物質が含まれていないのか、その根拠となる管理体制をきちんと調べることをお勧めします。 PPNのサプリメント管理体制について サプリメント摂取によるアンチドーピング規則違反からアスリートを守る唯一の方法、それは、全製品の、全ロットを、市場に流通させる前に検査を実施することです。 市場に流通させながら全ロット検査を実施しているメーカーはいくつかありますが、アスリートのドーピング陽性リスクを極力排除するためには、全ロット検査でも十分ではないと考えています。 そのため、PPNでは全製品・全ロットに対して、市場に流通させる前に検査を実施するだけでなく、「結果を確認するまで出荷しない」という管理体制を取っています。 この体制を取っているメーカーは世界で唯一弊社しかありません。アスリートにとって栄養摂取は投資であり、ドーピング検査の徹底は保険です。PPNでは「体感」と「安全性」を実現できる製品開発に尽力しています。 詳しくはこちら>>

アスリートにこそ知ってほしい。ドーピングがなぜ無くならないのか?

トップアスリートは規定に準じてドーピング検査を受ける必要がありますが、そこで違反が発覚した場合、選手資格のはく奪や記録成績の取り消しを受けることになります。 それだけでなく、様々な批判やスポンサー契約の解消を受けることになりますが、このような厳しい状況に陥るにもかかわらず、何故ドーピング違反が無くならないのか? 今回はその理由について詳しく説明したいと思います。 著者紹介 パワーリフティング全日本選手権11連覇・現日本記録保持 NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ 阿久津貴史 (公式HP) 1982年生まれ。パワーリフティングの競技者として活動するとともに、パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。 世界のドーピング違反状況 日本においては、オリンピックのメダリストなど有名な選手がドーピング規則違反になった際に報道される程度ですが、実は海外においては毎日のようにドーピング陽性のニュースが報じられるほど頻繁に起こっています。 世界アンチ・ドーピング機構(WADA)が、選手国籍ごとの違反件数を公開していますので、詳しく見ていきましょう。 選手から採取された検体から違反が発覚した件数を見ると、日本が合計5件だったのに対し、アメリカ45件と日本の9倍となっており、ドーピング大国とも呼ばれるロシアは99件と約20倍の件数になっています。 ※WADA 2019 Testing Figures Reportから抜粋 選手数と違反数の相関が薄いことからも、国ごとにドーピング事情が異なることが分かります。 また、フィジカル要素が強い競技ほどドーピング違反件数は多くなる傾向があります。 ※WADA 2019 Testing Figures Reportから抜粋 全世界のドーピング違反件数を競技種目別で見てみると、ボディビルディングが全体の14%と最も多くの割合を占めており、次いで陸上競技が11%、自転車競技が9%となっています。 ではここから、国ごとに内訳を見てみようと思います。 ドーピング規則違反内訳(ロシア) 違反が多かった競技種目を上位から挙げていくと、陸上が全体の18%、ウェイトリフティングが12%、パワーリフティングが9%となっています。 発覚した禁止物質は46種類と多様であり、上位を挙げるとフロセミド、メルドニウム、メチルヘキサンアミン、エリスロポエチン(EPO)、ジメチルペンチルアミンなどです。 ※WADA 2019 Testing Figures Reportから抜粋   もともとロシアは、2014年のソチオリンピックで組織的なドーピング違反の隠蔽行為があったとの内部告発により、IOCから国家としての参加資格の停止処分を受けた経緯があり、禁止物質の摂取が常態化していることが予想されます。 例えば、上記のフロセミドは利尿剤です。利尿作用によって他の薬物をより速やかに尿中に排泄し、ドーピング検査時に薬物を検出しにくくする目的で使われます。心不全や高血圧の治療にも使われますが、通常の飲食物中に混入することはまず考えられません。 ドーピング規則違反内訳(アメリカ) 最も違反が多い種目はウェイトリフティングで全体の40%を占めています。次いで自転車競技が8%、同じくトライアスロンも8%となっています。 ※WADA 2019 Testing Figures Reportから抜粋 発覚した禁止物質は33種類と、ロシアと同様に多様です。THC(テトラヒドロカンナビノール)、オクトパミン、ビランテロールなどが検出されています。 THCは大麻成分としてWADAの禁止薬物リストに含まれており、定められた値を超えると違反となります。また、オクトパミンは市販のダイエットサプリ等にも含まれる禁止物質です。 アメリカはドーピング規制が厳しいことで知られていますが、それは薬物の摂取や依存が日本よりも身近で、厳しく取り締まらなければならない社会的背景があります。 ドーピング規則違反内訳(イタリア) 今回の統計の中で、実はロシアよりもドーピング違反件数が多かったのがイタリアです。 競技種目別でみると、自転車競技が全体の31%、陸上競技が10%、ボクシングが8%となっています。 ※WADA 2019 Testing Figures Reportから抜粋   検出された禁止物質はやや偏りがあり、THC(テトラヒドロカンナビノール)、コカイン、クロステボールなどが多くの割合を占めています。 過去の研究結果では、イタリアの場合、有名なスポーツ選手やチームの勝利のためのドーピングは日本に比べて容認しやすい傾向があるという指摘があります*1。 また、イタリアにおいてドーピング違反事例が多い自転車競技は、非常に過酷なレースとしても知られており、上記の傾向とも相まって、ドーピングをしなければ結果を出せないという流れとなりやすいのかもしれません。 ドーピング規則違反内訳(日本) 全体違反件数は前述のとおり5件でしたが、競技別の内訳としてはパワーリフティング、水泳、ボート競技、乗馬、空手でそれぞれ1件の違反数となっています。 これらを詳しく見ると、ツロブテロール、プレドニゾロン;プレドニゾン、エノボサルム(オスタリン)、ボルデノンが検出されたと報告されています。 日本アンチ・ドーピング機構(JADA)は、国内のアンチ・ドーピング規則違反決定を公開していますが、これを詳しく紐解くと、意図せず禁止物質を摂取したことによるドーピング陽性、いわゆる「うっかりドーピング」が多いことが分かります。 「ドーピング検査で陽性になった」と聞くと選手のみが悪者にされてしまいがちですが、選手自身が細心の注意を払っていても陽性となるケースは少なくありません。 なぜドーピング違反が無くならないのか? では、ここからなぜドーピング違反が無くならないのか考察したいと思います。 意図的なドーピングが無くならない理由 エリートアスリートを対象にした過去のコホート研究*2では、「もしパフォーマンスを向上させる物質があり、違反が発覚せず勝利を手にすることができるなら、それを使用しますか?」という質問に対してアスリートの98%が「YES」と回答しています。 また、「パフォーマンスを向上させる物質を使用したとしても、違反が発覚せず、5年間全ての大会に勝ってから死ぬとしたら、服用しますか?」という問いに対して、50%以上が「YES」と答えています。 この研究結果は、ドーピング違反者が無くならないことの一つの裏付けと言えるでしょう。 意図しないドーピングが無くならない理由 日本においては「うっかりドーピング」が多いと述べましたが、これにはメーカー側のプロモーションと、選手自身の認識不足という2つの観点があります。 アスリート向けとされるスポーツサプリメントにはアンチドーピング認証を取得した商品も多いですが、「アンチドーピング認証を取っているからドーピング検査も安心」というプロモーションが多いように感じます。 実際は、アンチドーピング認証を取得していても絶対に安全とはいえないのですが、あたかもそのように見せるプロモーションは、うっかりドーピングが後を絶たない要因になります。 ▶参考記事:アンチドーピング認証に潜む罠 また、ドーピング検査対象となる選手は、自己防衛のためにアンチドーピングの知識を持っておく必要があります。 しかしながら、その意識が低かったり、根拠のない安全性を鵜呑みにしてしまっている場合もあります。 これも、うっかりドーピングが無くならない理由の一つと言えるでしょう。 日本には「勝ちに対して手段を選ばない」ことを嫌う土壌がありますが、フェアな精神をもって競技に望む選手がドーピング陽性となってしまう悲劇が起こらないようにするには、選手自らが情報収集し、正しく理解する必要があります。 PPNのサプリメント管理体制について サプリメント摂取によるアンチドーピング規則違反からアスリートを守る唯一の方法、それは、全製品の、全ロットを、市場に流通させる前に検査を実施することです。 市場に流通させながら全ロット検査を実施しているメーカーはいくつかありますが、アスリートのドーピング陽性リスクを極力排除するためには、全ロット検査でも十分ではないと考えています。 そのため、PPNでは全製品・全ロットに対して、市場に流通させる前に検査を実施するだけでなく、「結果を確認するまで出荷しない」という管理体制を取っています。 この体制を取っているメーカーは世界で唯一弊社しかありません。アスリートにとって栄養摂取は投資であり、ドーピング検査の徹底は保険です。PPNでは「体感」と「安全性」を実現できる製品開発に尽力しています。 詳しくはこちら>> 参考記事: 1ドーピング意識に関する日本とイタリアの体育学専攻大学生の比較 2 Doping in sports and its spread to at-risk populations: an international review

クレアチンの摂取とドーピング検査について

クレアチンに期待される効果と言えば、「瞬発力」「最大筋力」「パワー」といった短時間のパフォーマンスアップです。プロテインやBCAAに次いで人気のあるスポーツサプリメントになりますが、アンチドーピングの観点でクレアチン摂取に疑問を持つアスリートも少なくないのではないでしょうか。 今回はクレアチンの種類や特徴と、アンチドーピング観点からの注意すべき点を説明したいと思います。 著者紹介 パワーリフティング全日本選手権11連覇・現日本記録保持 NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ 阿久津貴史 (公式HP) 1982年生まれ。パワーリフティングの競技者として活動するとともに、パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。 そもそもクレアチンとは? クレアチンはおもに骨格筋に蓄えられ、運動時のエネルギー源となるクレアチンリン酸(ホスホクレアチン)の構成成分です。体内のアミノ酸をもとに肝臓や腎臓でクレアチンが生成され、そのクレアチン分子がリン酸化することでホスホクレアチンが作られます。 まず、このクレアチンが運動時のエネルギー源として使われる仕組みを説明します。 筋収縮が起こる場合、直接的にはアデノシン三リン酸(ATP)がエネルギー源となります。このATPがリン酸を遊離してADP(アデノシン2リン酸)に変化し、この時生み出されるエネルギーを利用して筋肉が収縮するという仕組みです。 しかしながら、ATPが筋肉中に貯蔵される量はわずかであるため、例えば短距離走といった高負荷の運動ではすぐに枯渇してしまいます。そこで体内のホスホクレアチンが分解してADPにリン酸基を引き渡し、急速にATPが再合成されます。 激しい運動が繰り返されると、ホスホクレアチンの需要が供給を上回り、パフォーマンスが制限されてしまいます。体重70kgの若年男性であれば、120~140グラムのクレアチン貯蔵量があるといわれますが*2、クレアチン摂取によって、筋肉内のクレアチン貯蔵量を増やしておけば、運動時にホスホクレアチンが形成される速度が上がり、全体的なパフォーマンス向上が期待できるというわけです。 クレアチンは鶏肉、豚肉、牛肉、マグロやサーモンといった食品からも摂取できますが、一般的な量の食事ではわずか数グラムしか摂取できないため、サプリメントで摂取するのが効率的といえます。 そのため、短時間の高負荷運動や高速運動を反復するアスリートが、後半セットでも十分なパフォーマンスを発揮するためにクレアチンサプリメントを摂取します。クレアチン補給を短期間実施した実験では、体内のクレアチン貯蔵量を10~30%増加させ、その結果ホスホクレアチンが10~40%増加したことが報告されています*4。 また、認知機能に対する回復効果も示唆されているため*3、認知機能とパフォーマンスが直結するe-sportsや競技カルタなどの頭脳系選手にも使用され始めています。  クレアチンサプリメントの形態と、選ぶ際のポイント クレアチンサプリメントの原料形態には、おもに「モノハイドレート」「ハイドロクロライド(HCL)」「バッファード(クレアルカリン)」「エチルエステル」があります。 クレアチン・モノハイドレート 過去にも多くの臨床試験や研究があり、最も広く使用されているクレアチンの形態です。一つの水分子とクレアチンが結合した構造で、安全性も広く認識されています。 クレアチン・モノハイドレートのサプリメントを選ぶ際のポイントとして良く知られるのは、原料として『Creapure(クレピュア)』を使っているかどうかです。 安価なクレアチン・モノハイドレートには、製造の際にジシアンジアミド(DCD)、ジヒドロトリアジン(DHT)といった不純物が含まれている場合があります。しかしながら、クレピュアは純度99.9%以上という現在流通しているクレアチン・モノハイドレートで最も純度も高く、安全性の非常に高い原料であることが特徴です。 またケルンリストに掲載されていることからも、アンチドーピングが必須のアスリートでも信頼して摂取できる原料といえます。 ケルンリストとは:ドイツ ドーピング予防研究センターによって検査された製品のうち、ドーピングのリスクが非常に低い商品をリストとして公開しています。 2006 年以降、ケルンリストに掲載されている製品によるドーピング陽性の事例は無いと公表されており、世界中のサプリメント製造メーカーからも高い信頼を得ています。 ▶参考記事:アンチ・ドーピング認証プログラムと検査機関について ハイドロクロライド(HCL) 水溶性や吸収率を高めるためにエチルエステル塩酸とクレアチンを結合させたもので、胃酸と反応して通常のクレアチンに戻る特徴があります。 クレアチンには筋肉に水分を溜め込む働きがあり、摂取によってむくみや除脂肪体重が増える場合がありますが、HCLは水溶性が高くモノハイドレートほど筋肉細胞に水分を保持しないとされます。 そのため、クレアチン モノハイドレートよりも利点があるとして、HCLを使用した商品も販売されていますが、前述のモノハイドレートよりも研究数が非常に少なく、モノハイドレートよりも明らかに優位であるというデータは出てきていません。 クレアチン摂取によるむくみや胃の膨張感、体重増加が余程気になる場合はHCLを選択肢に入れるのも良いかもしれませんが、現時点では第一選択とする理由は無いように思われます。 また、米国アンチ・ドーピング機構(US Anti-Doping Agency:USADA)のリストに、禁止物質であるDMAAが含まれているHCL商品がピックアップされており、海外製を選ぶ際には特によく確認しておく必要があります。 バッファードクレアチン(クレアルカリン) 炭酸水素塩など弱アルカリ性成分を含むクレアチンの一種です。弱アルカリ性成分によって、胃酸によるクレアチンの分解を減らし、筋肉へのクレアチンの取り込みを改善できるとされます。 ただ、こちらも優位性を示す研究データは少なく、モノハイドレートのほうが筋肉中のクレアチン含有量が増えたという研究結果もあり*5、あえてバッファードクレアチンを選ぶ理由はないように思われます。 クレアチンエチルエステル(CEE) クレアチン分子を硝酸塩分子に結合させることにより、少量でもモノハイドレートと同等の効果があるとされます。 しかしながら、CEEもモノハイドレートと比べると研究数は非常に少なく、その優位性を示すデータはまだ多くありません。 過去の研究では、モノハイドレートが完全に体内に吸収される一方で、CEEは消化管でクレアチニンに分解されることが示されています(クレアチニンはクレアチンと違って代謝最終産物であり、エネルギー産出効果はありません)。 また、CEEとモノハイドレートとパフォーマンスを比較した際にも有意差は見られていません*6。 これらを鑑みると、研究データの豊富さや実績・安全性の観点からも、現状はクレアチン・モノハイドレートが第一選択となるでしょう。 クレアチンとドーピング検査について そもそも、クレアチンは体内にも自然に存在する物質であるため、世界反ドーピング機関(WADA)の禁止物質にも含まれていません。 しかしながら、アスリートがクレアチンをサプリメントで摂取する場合、商品の選択に注意が必要です。何故なら、成分表に含まれていなくても、製造工程における残留成分などによって本来入るべきでない成分が混入してしまうことは決して珍しいことではないからです。 たとえアンチドーピング認証を受けている商品だったとしても、多くは市販後の抜き取り調査(インフォームドチョイス)を採用しており、禁止物質を含んだ商品を口にしてしまう可能性はゼロではないのです。 過去にも、国内大手ブランドが販売するアンチドーピング認証取得途中の商品から、WADAが禁止物質に指定する成分が検出されたことがあります。 ▶参考:アンチドーピング認証に潜む罠 クレアチンサプリメントにおいても、過去に成分表に表記されていない禁止物質が混入していたためにアンチ・ドーピング規則違反となった事例が報告されています。 そのため「クレアチンサプリメントはドーピング規則違反となるリスクが高い」と思っている人もいますが、実際はクレアチンのサプリメント摂取が危険なのではなく、根拠のない安全性を謳うサプリメントを選択することが危険なのです。 すでにクレアチンサプリメントを導入している人も、検討中の人も、今一度その商品のアンチドーピング対策について確認し、根拠のある商品を選ぶことが重要です。 PPNのサプリメント管理体制について サプリメント摂取によるアンチドーピング規則違反からアスリートを守る唯一の方法、それは、全製品の、全ロットを、市場に流通させる前に検査を実施することです。 市場に流通させながら全ロット検査を実施しているメーカーはいくつかありますが、アスリートのドーピング陽性リスクを極力排除するためには、全ロット検査でも十分ではないと考えています。 そのため、PPNでは全製品・全ロットに対して、市場に流通させる前に検査を実施するだけでなく、「結果を確認するまで出荷しない」という管理体制を取っています。 この体制を取っているメーカーは世界で唯一弊社しかありません。アスリートにとって栄養摂取は投資であり、ドーピング検査の徹底は保険です。PPNでは「体感」と「安全性」を実現できる製品開発に尽力しています。 詳しくはこちら>> 参考文献 1:Analysis of the efficacy, safety, and regulatory status of novel forms of creatine、2:Creatine supplementation with specific view to exercise/sports performance: an update、3:Effects of creatine supplementation on cognitive function of healthy individuals: A systematic review of randomized controlled trials、4:Effects of creatine supplementation on performance and training adaptations、5:A buffered form of creatine does not promote greater changes in muscle creatine content, body composition, or training adaptations than creatine monohydrate、6:Acute and chronic safety and efficacy of dose dependent creatine nitrate supplementation and exercise performance

アンチ・ドーピング規則違反(Anti-Doping Rules Violation: ADRV)事例を読み解く

アンチドーピングとは、競技パフォーマンスを向上させるための違法ドーピングを抑止・禁止することです。世界ドーピング防止機構(WADA)は、アンチドーピングに関する規定を制定しており、規則違反として以下11項目を定義しています(参考記事)。 ドーピングはスポーツにおける重大なルール違反であるため、規則違反とみなされると厳しい処分が課されます。仮に、選手本人が知らずに禁止物質を摂取したとしても、選手自身に責任が無いとみなされることはありません。 HAFFPOSTの記事で、男子100m背泳ぎの古賀淳也選手が過去にドーピング検査陽性となったときの絶望感を告白していますが、これを見ると、常日頃からアンチドーピング違反のリスクを可能な限り低減することがアスリートにとっていかに重要か、お分かりいただけると思います。 私自身、競技の前線に身を置くアスリートの一人として、常日頃から自身のアンチドーピングを徹底するとともに、アンチドーピングについての情報発信を行っています。 そして今回は、アンチドーピング規則違反の現状や事例について紹介したいと思います。 著者紹介 パワーリフティング全日本選手権11連覇・現日本記録保持 NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ 阿久津貴史 (公式HP) 1982年生まれ。パワーリフティングの競技者として活動するとともに、パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。 全体概要とアンチドーピング規則違反が多い競技 世界アンチ・ドーピング機構(WADA)では、アンチドーピング規則違反事例の統計を取っています。2023年3月現在、閲覧できる最新のものは2021年12月に公開された2019年度版ですが、この統計を見ると、スポーツ競技におけるアンチドーピング規則違反の現状を把握することができます。 アンチドーピング規則違反はAnti-Doping Rule Violations (ADRVs) と呼びますが、2019年のADRVの総数は1914件(選手自身のADRVsは1,888件、選手のサポートスタッフによるものは24件)です。 ADRVsが発覚した国は117か国、競技数は89です。 この期間にアンチドーピング機構によって収集された検体数は278,047であり、このうち2,701検体、つまり0.97%が違反が疑われる分析報告と見なされたわけです。 では、アンチドーピング規則違反が多い競技を見てみましょう。 最も多い競技はボディビルとなっており違反上位の競技中で22%を占めています。次いで陸上競技が18%を占めています。 他には、サイクリングが14%、ウェイトリフティングが13%とほぼ同率であり、パワーリフティング9%、サッカー7%、ラグビー(ユニオン)6%、レスリング4%、水泳4%、ボクシングが3%です。 フィジカル要素がパフォーマンスに深く直結する競技が多くの割合を占めており、肉体パフォーマンスを求めるが故の故意的なドーピングが多いものと思われます。 アンチドーピング規則違反が多い国 日本にいると、ドーピングに関するニュースはあまり多くないように感じますが、実際海外では、しょっちゅうドーピングに関するニュースが報道されています。 中でも、国家ぐるみのドーピング疑惑がある国としてロシアが挙げられますが、アスリートが帰属する国のうちアンチドーピング規則違反が最も多かった国がロシアで19%となっています。 続いて、イタリアが18%、インドが17%、ブラジル9%、イラン8%、フランス7%、アメリカ7%、カザフスタン6%、ポーランド5%、ウクライナ5%と、東欧諸国が目立つ形となっています。 日本(JADA:日本アンチ・ドーピング機構)においては、トータル5,098検体中4検体(0.07%)がアンチドーピング規則違反となっていますが、違反件数トップのロシア(RUSADA :ロシアアンチ・ドーピング機構)では9,516検体中76検体(0.79%)がアンチドーピング規則違反となっており、10倍以上の開きがあります。 具体的にどのような禁止物質がドーピングに使用されているのか? WADAの2020 ANTI-DOPING TESTING FIGURESによると、以下の種類の禁止物質が多くの検体から検出されています。 ・蛋白同化薬 ・興奮薬 ・利尿薬および隠蔽薬 ・ホルモン調節薬および代謝調節薬 ・ベータ2作用薬 このうち、蛋白同化薬が全体の約半数を占めていますが、具体的にはドロスタノロン、デヒドロクロロメチルテストステロン、メタンドリオール、メチルジエノロン、スタノゾロール、オキシメトロン、メチルテストステロン、クロステボール、アンドロステンジオール、クレンブテロールなどが挙げられます。 特に多いのはスタノゾロールで、ドーピング事例として有名な1988年のソウルオリンピックでベン・ジョンソンが使用していたのもスタノゾロールです。 ▶参考記事:アスリートにおけるアンチドーピング違反事例 興奮薬の具体例としては、メチルフェニデートやコカイン、アンフェタミンなどが挙げられます。競争心を高め、疲労感を抑えるのを目的に使われます。 利尿薬および隠蔽薬は、減量目的やドーピング陽性となるのを隠蔽する目的で使われます。また、ホルモン調節薬および代謝調節薬は、体内の特定の化学反応を早めたり遅らせたりする目的等で使われます。 最近の日本選手の事例 ・2022年にボディビルで1件、競技時の検査にて、尿検体から禁止物質であるトレンボロン代謝物が検出されました。トレンボロンは上記の蛋白同化薬、要はステロイドであり、筋肉増強において急激な効果を出すとされます。該当選手は、競技成績の失効および3年間の資格停止処分となりました。 ・2021年は、ラグビー選手の尿検体から禁止物質であるエノボサルム(オスタリン)が検出され、当該選手は、資格停⽌5ヶ⽉などの処分を受けています。 ▶参考記事:うっかりドーピングとアンチドーピング認証について ・2021年は、ボクシング選手の検体から禁止物質であるフロセミドが検出されています。上記の”利尿薬および隠蔽薬”に分類されるもので、尿中に含まれるドーピング違反の禁止物質の濃度を下げる効果があり、ドーピング隠ぺい薬としても知られます。また、急な減量用としても使われることもあります。 ・2019年は、ボート選手および空手選手の検体から、ツロブテロールが検出されています。ツロブテロールは上記の”ベータ2作用薬”に分類されるもので、気管支拡張作用のある禁止物質です。ぜんそくの治療のため処方される治療薬にも含まれるため、うっかりドーピング(意図せず禁止物質を使用してしまう)につながりやすい物質でもあります。 まとめ 冒頭の古賀選手の経験談にもあるように、一度違反が確定すると、選手人生において取り返しのつかない深い傷がついてしまいます。 意図的に禁止物質を摂取した場合はともかく、そうでない場合も意図せぬドーピングのリスクがあることを各選手がしっかりと認識する必要があります。海外と比べると日本はアンチドーピング規則違反の発生率は低いものの、上記の例にもあるように、日本の選手も決して他人事ではありません。 高いレベルで競技に参加する選手ほど、自己防衛の意識を普段からしっかりと持っておく必要があります。 例えば、サプリメントであれば信用のおける製品のみを使用すること(参考記事:アンチドーピング認証に潜む罠)、また治療薬を使っている選手の場合は、アンチ・ドーピングに詳しいスポーツドクターやスポーツファーマシストに大丈夫かどうかを必ずチェックすることが重要です。 PPNのサプリメント管理体制について サプリメント摂取によるアンチドーピング規則違反からアスリートを守る唯一の方法、それは、全製品の、全ロットを、市場に流通させる前に検査を実施することです。 市場に流通させながら全ロット検査を実施しているメーカーはいくつかありますが、アスリートのドーピング陽性リスクを極力排除するためには、全ロット検査でも十分ではないと考えています。 そのため、PPNでは全製品・全ロットに対して、市場に流通させる前に検査を実施するだけでなく、「結果を確認するまで出荷しない」という管理体制を取っています。 この体制を取っているメーカーは世界で唯一弊社しかありません。アスリートにとって栄養摂取は投資であり、ドーピング検査の徹底は保険です。PPNでは「体感」と「安全性」を実現できる製品開発に尽力しています。 詳しくはこちら>>

アンチドーピング認証に潜む罠

アンチドーピングについて、アスリートから多くいただく質問の一つに「使用しているサプリメントにアンチドーピング認証が無いけど大丈夫なのか?」というものがあります。 もちろん、答えは「NO」です。そして、アンチドーピング認証を取っていても必ずしも安全とは言えません。 最近では、アンチドーピング認証を取っているスポーツサプリメントも多く見られるようになりましたが、実はアンチドーピング認証にも種類があることはあまり知られておらず、誤解も多いように感じられます。 また中には、アンチドーピング認証を取っていないにも関わらず、あたかもアンチドーピング対策をクリアしているような説明をしているものもあります。そのため、ドーピング検査対象となる選手は、自己防衛のためにアンチドーピング認証の種類や見分け方についてしっかりと知っておく必要があります。 著者紹介 パワーリフティング全日本選手権11連覇・現日本記録保持 NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ 阿久津貴史 (公式HP) 1982年生まれ。パワーリフティングの競技者として活動するとともに、パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。 うっかりドーピングとアンチドーピング認証について まず、表示成分に禁止物質が含まれていなかったとしても、製造過程で禁止物質が混入(汚染)する可能性があることを知っておく必要があります。 たとえば、昨年5月にジャパンラグビーリーグワン参加チームである三菱重工相模原ダイナボアーズに所属する選手のドーピング規程違反がありました。 ドーピング検査の際に、尿検体から禁止物質である「エノボサルム(オスタリン)」が検出され、当該選手は、資格停⽌5ヶ⽉などの処分を受けています。 オスタリンは筋肉増強作用を持つステロイドのグループに該当する成分であり、アスリートであれば絶対に摂取を避けるべき成分です。当該選手は怪我によってリハビリトレーニングを行っていたのですが、その際にトレーニング強度を高めるため、国産クレアチンサプリメントを摂取していました。これに起因して、ドーピング陽性となったわけです。 この国産クレアチンサプリメントにはオスタリンを含有する旨の表示はされておらず、当該選手も摂取によってまさかアンチドーピング規則違反になるとは思っていなかった、いわゆる「うっかりドーピング」の事例となります。 このような事態を避けるため、一定の基準を満たしており、ドーピング物質が含まれていないことを保証する「アンチドーピング認証」があるわけです。アンチドーピング認証を受けるためには、製造過程の厳密な管理や、成分の明確な表示が必要になります。また、製品に含まれる成分や製造過程に対して、第三者検査機関による詳細な分析が必要です。 ▶参考記事:アンチ・ドーピング認証プログラムと検査機関について 上記のうっかりドーピング事例の原因となったサプリメントは、アンチドーピング認証を受けた商品ではありませんでした。日本国産品だからといって、また成分表に禁止物質が含まれていないからといって、決して安心できるわけではないことがお分かりいただけるかと思います。 競技パフォーマンスを上げるためのサプリメント摂取はますます一般的になってきていますが、国産・海外産問わず、アンチドーピング認証を受けていない商品も多く販売されていること、それらを摂取することによってキャリアに大きな傷をつけてしまう恐れがあることをアスリートは知っておくべきです。 アンチドーピング認証を受けた商品であれば問題ないのか? ここから、多くのメーカーが説明に出したがらない内容をお話します。 最近では、アンチドーピング認証を取っている商品も増えてきましたが、実はアンチドーピング認証を取っているからと言って、必ずしも安心とは言えないのです。摂取する商品が取得しているアンチドーピング認証の種類や内容を、しっかり理解する必要があります。 「インフォームドチョイス」というアンチドーピング認証をご存じでしょうか?昨今、プロテインをはじめ多くのスポーツサプリメントにおいて取得されている認証プログラムです。以下の緑色のロゴがパッケージに表示されている商品を見たことがある人も多いと思います。 インフォームドチョイスは、イギリスに本社を置くLGC社(Laboratory of Government Chemist)のアンチ・ドーピング認証プログラムです。WADA:世界ドーピング防止機構の定める禁止物質による汚染が無いかどうか、月に1回、市場から当該商品を無作為に抜き取って分析にかけます。 一見、優れた認証プログラムに見えるのですが、すでに市場に出た後の商品に対する抜き取り分析ということは、仮に一部の製造ロットで汚染が発生していた場合、それが世に出回ることを防ぐことはできないわけです。 そのため、本来入ってはいけない成分が混入した商品を選手が口にする可能性は決してゼロではありません。また、抜き取り検査のため、汚染された製造ロットが検査されないことも十分ありうるわけです。 多くのメーカーがそのことに触れておらず、「インフォームドチョイスの認証を取得しているので、アスリートの方でも安心してご利用いただけます」といった謳い文句を出しています。 そのせいで、「インフォームドチョイスを取っていれば大丈夫」という誤解も多いのですが、実際はドーピング検査対象となるアスリートにとっては、インフォームドチョイス認証を取得した商品であっても安心はできないのです。 重要なのは、市場に出す前に前もって禁止薬物成分に関する分析を行っていること ドーピング陽性のリスクを避けるために必要なのは、「全ロットにおいて、市場に出す前に前もって禁止薬物成分に関する分析を行っていること」。これが必須条件になります。 それを担保するためのアンチドーピング認証プログラムも存在します。 例えば、前述のLGC社では、「インフォームドスポーツ」という認証プログラムを提供しています。 これは、検査技術自体はインフォームドチョイスと同様であるものの、製品のすべてのフレーバーやバリエーションが製造時に検査される認証プログラムになります。 インフォームドチョイスの場合は、インフォームドスポーツのように全てのロットが検査されるわけではありません。小売店から製品のサンプルを無作為に購入し、それを検査するという形を取ります。 LGC社のホームページにも、ドーピング検査対象となるアスリートに向けて作られたプログラムはインフォームドスポーツであり、一方でインフォームドチョイスはエリートアスリート向けとしてではなく、ドーピング検査対象とならないアクティブなライフスタイルを送っている人向けに設計されたプログラムであることが記載されています。 まとめ 世界アンチ・ドーピング規程では、アスリートは「自分の摂取物及び使用物に関して責任を負う」とされています。そのため、仮に意図せぬドーピング陽性が起きた場合は、責任を逃れることはできません。 自らが情報収集し、正しく理解して、そのうえで摂取するサプリメントを選択しなければなりません。 PPNのサプリメント管理体制について 現在市場で販売されているスポーツサプリメントは、たとえインフォームドスポーツを取得していても、市場に流通させながら検査を実施しているのが通常です(全ロット検査を実施しているが、検査結果を待たずして出荷している)。 しかしながら、アスリートのドーピング陽性リスクを極力排除するためには、全ロット検査でも十分ではないと考えています。そのため、PPNでは全製品・全ロットに対して、市場に流通させる前に検査を実施するだけでなく、「結果を確認するまで出荷しない」という管理体制を取っています。 詳しくはこちら>>