アンチ・ドーピング認証プログラムと検査機関について

各種大会に出場するアスリートはもちろん、支援するコーチや栄養士にとって、最も細心の注意を払わなければならないのが「アンチ・ドーピング(反ドーピング)」です。

競技パフォーマンスを向上するためにサプリメントを摂取することは、アスリートにとって一般的な行為です。 しかしながら、摂取したものに禁止成分が含まれており、ドーピング検査によって違反が確定した場合は、競技大会への出場資格を失ったり、成績の失効や褒賞のはく奪といった措置が課されたり、社会的信用を失うことにもつながります。

私 阿久津は競技者として第一線に身を置くとともに、アスリート向けのサプリメントの開発にも長年携わってきましたが、その中で、サプリメントに起因するドーピングリスクを低減し、アスリート本人や支援するコーチ・栄養士が安心して選択できるサプリメントを追及し、情報発信を行ってきました。

その中で、アスリート向けサプリメントに求められるのは以下の3点を満たしている必要があるという結論に達しています(アンチドーピングについては、こちらのページも是非参照ください)。


1:禁止物質が混入されていないか、材料段階ではなく最終製品に対して検査が実施されていること。
2:上記1の検査は、全ての製造ロットに対して実施されていること。
3:検査の結果が出るまで販売しないこと。

もちろん、サプリメントに対する検査が信用できないものですと根幹が崩れてしまいます。そのため、高度な分析検査技術をもち、監査・情報開示をしっかり行っている検査機関(第三者認証機関)にて検査を実施する必要があります。

そこで、今回は世界においてどのような検査機関があるのか、紹介したいと思います。

阿久津貴史

著者紹介

パワーリフティング全日本選手権11連覇・現日本記録保持
NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ

阿久津貴史公式HP

1982年生まれ。パワーリフティングの競技者として活動するとともに、パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。

世界のアンチドーピング認証機関

禁止薬物が商品に含まれていないか確認するプログラムを有する検査機関のうち、世界的に信頼性・透明性が高い機関を紹介します。

摂取していたサプリメントに由来して禁止物質が陽性となった場合に、これらの認証機関による検査の提出によって異物混入(意図的なドーピングではない)であることが証明され、選手の活動停止期間が短縮されたことが過去の事例としてあるほどです。

それぞれの機関が独自に基準を設けた認証プログラムがあり、世界中の様々なアスリート向けサプリメントがこれらの認証プログラムによって検査されています。また、機関がある国によって法律が異なるため、検査できる成分もそれぞれの機関で若干の違いがあります。

1:Laboratory of Government Chemist(LGC):イギリス

LGCは、アンチドーピングの分析において 50年以上の経験があるイギリスの分析機関です。 もともと、1842年にロンドンで偽物タバコを見破る分析機関として創業されました。

2007年までは、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の分析機関でしたが、透明性を確保するため、現在はサプリメントの分析に特化しています。日本国内で販売されるサプリメントにおいても、多くがこの機関による分析を実施しています。

「インフォームド スポーツ」と「インフォームド チョイス」

LGCの認証プログラム:Informed-Choice(インフォームド チョイス) / Informed-Sport(インフォームド スポーツ)

 

LGCは、「インフォームド スポーツ」と「インフォームド チョイス」の2つの認証プログラムで検査を実施しています。どちらもISO 17025(試験所・校正機関が正確な測定/校正結果を生み出す能力があるかを、第三者認定機関が認定をする規格)に認定された同じ検査手順・分析技術を使っています。

これらの2つの違いは検査の頻度になります。

インフォームド スポーツは、製品が市場にリリースされる前に、製品の全てのロットを検査します。例えば、同じ商品でも異なるフレーバーであれば別々に検査が実施され、さらに該当製品を小売店から入手して定期的に再検査を実施しています(ブラインドテストを4ロット毎に実施)。

一方でインフォームド チョイスは、対象商品の特定の製造ロットを毎月検査しますが、インフォームド スポーツのようにすべての製造ロットがテストされるわけではありません。市場から商品を無作為に抜き取って分析にかけます。

そのため、ドーピングリスクを極力排除したいアスリート向けのサプリメントにおいては、インフォームド チョイスではなくインフォームド スポーツのプログラムによって検査が実施されていることが重要です。

2:Banned Substances Control Group(BSCG):アメリカ

ドン・キャトリン博士とその子息オリバー・キャトリン氏によって2004年にアメリカで創設された第三者認証機関がBSCGです。

キャトリン博士はスポーツにおけるドーピング検査の第一人者として知られており、1982年に米国で最初のスポーツ薬物検査ラボを開発し、今日のオリンピックの基準となっている検査方法とアプローチを確立した人物です。

FIFA ワールドカップや、いくつかのオリンピックにおいても検査を実施してきた実績があり、今日においてもアスリートから信頼を得ているサプリメントの多くがこの機関によって検査されています。

BSCG Certified Drug Free

BSCGの認証プログラム:BSCG Certified Drug Free

WADAの禁止リストに掲載されている物質によって製品が汚染されていないか検査を実施し、認定を受けた製品はBSCG Certified Drug Freeのラベルを掲げることができます。

他の機関との違いとしては、WADA(世界アンチドーピング機関)が指定する禁止成分に限りなく準拠した検査リストであることです。

他の機関ではWADAのリストの一部が検査できない場合があるのですが、BSCGではWADA禁止リストにある274種類の禁止薬物の検査と処方箋、市販薬、そしてスポーツ分野で禁止されていない不法薬物も含めた211種を検査対象にしています。

3:National Sanitation Foundation(NSF):アメリカ

1944年にアメリカ国立衛生財団として設立されたのがNSFです。食品衛生や安全性について長く研究してきた実績があり、過去にNSF Internationalは全米アンチドーピング機関(USADA)によって、最優秀第三者認定機関として選ばれたこともあります。

NSF Certified for Sport

NSFの認証プログラム:NSF Certified for Sport

おもに、米国の主要リーグで活躍するアスリートにとってサプリメント選択の基準となる認証プログラムです。

メジャーリーグ(MLB)、ナショナル・バスケットボール・アソシエーション(NBA)、ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)、および男子プロゴルフツアー(PGA)等でも推奨されるアンチドーピング検査プログラムであり、それらのリーグで活躍する選手が摂取するサプリメントにおいては特に重要となる認証プログラムです。

4:Center for Preventive Doping Research (CePreDo) :ドイツ

ドーピング物質のテスト済み製品の認定リストとして知られる「ケルンリスト」に掲載されている製品は、CePreDo(ドイツ ドーピング予防研究センター)によって検査された製品が公開されています。

ケルンリスト

CePreDoの認証プログラム:ケルンリスト

サプリメントに含まれるドーピング物質の有無を分析する世界有数の研究所によって検査された製品のうち、ドーピングのリスクが非常に低い商品をリスト内に公開しています。

また、2006 年以降、ケルンリストに掲載されている製品によるドーピング陽性の事例は無いと公表されており(参考)、世界中のサプリメント製造メーカーからも高い信頼を得ています。

まとめ

どんな事柄にもいえることですが、あらゆるリスクを0%にすることはできません。サプリメントのアンチドーピングにおいても、それは同じです。

しかしながら、知識と対策によって可能な限りリスクを抑えることは可能です。過去に国内有数のスポーツサプリブランドが販売するサプリメントから禁止成分が検出された事例もあり、「大手ブランドの商品だから安心」「何となく認証マークがついているから安心」という理由からサプリメントを選択するのは危険です。

各々のアスリートがサプリメントを選択するにあたって、なぜそのサプリメントが信頼できるのかしっかりとした知識と根拠をもち、ドーピング陽性のリスクを避けられるようになることが私の願いです。

▶アンチドーピングについては、こちらの記事もどうぞ:アンチドーピングとサプリメントの切っても切れない関係

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講師は2011年〜2023年の間、全日本選手権パワーリフティング105kg級(フルギアカテゴリー)で12連覇を達成したPPN代表 阿久津貴史(2004年〜NSCAストレングス&コンディショニングスペシャリスト)です。現在は東京都立大学 大学院 人間健康科学研究科 知覚運動制御研究室に所属して、パワーリフティング種目の運動制御に関する研究をしています。

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