アンチドーピングとサプリメントの切っても切れない関係

私 阿久津がパワーリフティングの最前線に携わるようになってから長く経ちますが、自身のキャリアの中で、特に配慮を怠らないようにしてきたのが「アンチドーピング」です。

スポーツにおけるドーピングとは、禁止されている物質や方法によって競技パフォーマンスを高める行為のことを指しますが、アンチドーピングとはドーピングによる不正を無くしてフェアな条件で競技に参加することをいいます。

アンチドーピングには国際基準が規定されており、これを遵守することはスポーツ競技におけるフェアプレイの根幹となります。しかしながら、実は、ドーピングやアンチドーピングについては、世間一般で持たれている印象と、競技生活における実態が異なります。

何回かに分けて、このあたりを詳しく解説しようと思いますが、今回はアンチドーピングとサプリメントの切っても切れない関係について紹介したいと思います。

阿久津貴史

著者紹介

パワーリフティング全日本選手権11連覇・現日本記録保持
NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ

阿久津貴史公式HP

1982年生まれ。パワーリフティングの競技者として活動するとともに、パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。

アスリートとサプリメント、そしてアンチドーピングについて

競技パフォーマンスを向上させるために、普段の食事に加えてサプリメントで必要な栄養素を補うことはアスリートにとってごく自然な行為です。

しかしながら、摂取したサプリメントが原因で、意図せずドーピング検査で陽性反応が出てしまう事例は少なくありません。 その一方で、意図的に禁止物質を摂取しているものの、うまくドーピング検査をすり抜けている選手もいるのが現実です。

このようなアンフェアな状況の背景にあるのが、「ドーピング検査は完全ではない」という点です。

ドーピング検査技術と、それをすり抜ける技術の”イタチごっこ”

ドーピング検査の技術は日々進化しており、また検査の際に選手から採取する検体についても、以前は尿検体だけだったのが、血液検体も採取するようになる等、検体の摂取についてもより厳格になってきています。

また、国際大会レベルの場合、検査で採取された尿や血液検体は、大会前の検査が終わったらすぐに廃棄される訳ではありません。検体は何年にも亘って保管され、その後数年経ってから検査技術が向上した後に、再検査されることが一般的となっています。

なぜそこまでするかというと、検査技術が日々進歩する一方で、検査をすり抜ける技術も日々進歩しており、現在のドーピング検査も完全ではないという前提があるからです。

例えば、2016年のリオデジャネイロオリンピックの直前に、2008年北京オリンピックの検体が再検査され、陽性が判明したことがありました。つまり、2008年は検査をすり抜けたものの、その後ドーピング検査技術の進歩に伴って再検査した結果、陽性が判明した形となります。

最近では、「遺伝子ドーピング」「腸内細菌ドーピング」「細胞ドーピング」という新しい手法も表面化してきており、これらの手法は現在のドーピング検査では追及が難しいとされています。国によっては組織的にこれらのドーピングを実施している疑いもあり、国際的な大会といえども完全にフェアな状況で競われているかというと、そうではないと言わざるを得ません。

うっかりドーピングについて

上記のようにすり抜ける技術のことを知ったうえで、「ドーピング検査で陽性になった」と聞くと、選手が悪者にされてしまいがちですが、選手自身が細心の注意を払っていても陽性となるケースは少なくありません。このような意図しないドーピングは”うっかりドーピング”とも呼ばれます。

ドーピングと聞くと、筋肉増強剤(ステロイド薬)などを意図的に使用して競技パフォーマンスを上げることを想像しがちです。しかしながら、禁止されている成分は、病気の治療のために処方される医薬品や、ドラッグストア等で購入できる市販薬(OTC薬)にも含まれています。

例えば、風邪薬の中にはメチルエフェドリンという興奮薬が含まれるものがありますが、これがドーピング検査で検出されて"うっかりドーピング"となった事例は広く知られるところです。

※なお、アスリートが疾患を持っている場合は、治療に必要な薬を摂取する必要があるため、TUE(Therapeutic Use Exemptions : 治療使用特例)とよばれる申請を行う事で治療使用特例を受ける事も出来ます。

薬であればアスリート自身もアンチドーピングの意識を働かせやすいのですが、その一方で、注意しなければならないのがサプリメントの摂取です。

サプリメント摂取は食事で摂れない栄養素を補うためのものであるため、薬というよりは食物の補助という観点が強く、また薬とは違って全成分の表示義務がありません。そのため、普段摂取しているサプリメントに禁止物質が含まれている可能性を認識していないアスリートもいることでしょう。

しかしながら、実際は多くのサプリメントに禁止物質が含まれています。そのため、サプリメントの摂取こそ ”うっかりドーピング” が起きないよう細心の注意を払う必要があるのです。 なお、米国アンチ・ドーピング機構(US Anti-Doping Agency:USADA)のサイトには、ドーピング判定のリスクが高いサプリメントの一覧が掲載されています。

市販のサプリメントに含有されている禁止物質

前述のリストを見ると、禁止物質が含まれている商品には、2つのパターンがあることが分かります。

1つ目は「製品ラベルに禁止物質が含まれているパターン」、2つ目は「製造ロット検査の結果、禁止物質の混入が判明したパターン」です。

1つ目のパターンであればリスクの高いサプリメントも比較的容易に見分けがつくのですが、2つ目のパターンですと簡単に見分けることが困難になります。

ここから、 USADAのリストの中で、ステータスが2022年となっている商品に多く見られる禁止物質を一部紹介していきます。

オスタリン

世界アンチ・ドーピング機構(WADA)のリストに記載される禁止物質で、このリストを採用するリーグでも同様に使用が禁止されています。禁止されている理由は、筋肉増強剤と同じ効果があるとされる選択的アンドロゲン受容体調節薬(SARM)の一種であるためです。

海外製の市販サプリメントの成分表に記載されていたり、ラベルでは非表示だが実際は含まれていることもある成分です。 実は、オスタリンは日本国産のサプリメントを使用していた選手の尿中から検出された事例もあり、比較的リスクが低いとされる国産サプリメントにおいても安心はできないといえます。

ヒゲナミン

ヒゲナミンは多くの民間薬やサプリメントに含まれている成分です。常緑樹であるチョウジ( 丁子)由来の成分であり、天然成分のため問題ないと思う方もいるかもしれませんが、WADAの禁止リストに含まれています。

近年アスリートの間でも摂取する選手が増えているハーブサプリにも含まれている可能性があり、注意が必要な成分です。

アリミスタン

一部の筋肉増強系のサプリメントに含まれる成分で、WADAのリストでも禁止されています。しかしながら、インターネットで調べるといくつかの商品が検索にヒットし、ドーピング検査対象の方は摂取しないように書かれていたりもします。

もし摂取していたとしたら、「知らなかった」では済まされない成分といえるでしょう。

サプリメント摂取によるうっかりドーピングを避けるには

インターネットを通じて様々な商品を手に入れることができる現代においては、禁止物質が入っているサプリメントを自分の目で見極める力が必要です。

よくあるのは「食品GMP認証やISOといった品質マネジメント規格を満たしているから大丈夫」「サプリメントの成分表に禁止物質がリストアップされていないので問題ない」という判断で、購入を決めるケースです。

しかしながら上記のような判断は、アンチドーピングの観点では甘いと言わざるを得ません。

前述のとおり、サプリメントは薬とは違って全成分の表示義務がありません。USADAの高リスクサプリメントの一覧の中にも、成分表には載っていないものの製造ロットから検出された商品が多くリストされています。

そのため、アスリートが摂取できるサプリメントを選定する最低基準としては、製造ロットの全てを検査している商品であることが前提となります。 しかしながら、「ドーピング検査をしている」と謳っている会社の多くは、初期ロットのみの検査しか実施していなかったり、年間に数回程度の検査しか実施していないのが現状です。

権威性の高い認定マークも100%信用できるとは限らない

一昔前は、JADA(日本アンチドーピング協会)が商品の検査を行い、検査に合格した商品はJADA認定マークを表示できるという制度がありました。 しかしながら、このJADAの認定マーク制度は、2020年3月末で完全に市場から無くなりました。

なお、この認定マーク検査は年間2回程度の検査だったのではないかと言われており、JADAはドーピング検査頻度、分析している検査項目も一切公開していませんでした。

上記を鑑みると、以下を確実に実施している信用のおけるサプリメントを摂取することが望まれます。


1:全製品・全ロットのドーピング検査を実施していること
2:上記1を市場に流通させる前に実施していること
3:検査の結果が確認できるまで商品を市場に出さないこと

特に3は重要で、2019年にある国内メーカーが認証ロゴ取得途中の製品をすでに市場に流通させていた事例がありました。そして、なんとこの製品からドーピング禁止物質が検出され、製品を回収しなければいけない事態となりました。

このような恐ろしい事態を避けるためにも、ただ認証ロゴを取得しているというだけでなく、上記の1~3を満たしているサプリメントを選ぶべきだと考えます。

ドーピング検査に引っかかったら、どうなるか?

因みに、ドーピング検査の分析によって陽性となった場合でも、即座にアンチ・ドーピングのルール違反(アンチ・ドーピング規則違反)となるわけではありません。

検査の結果を審議したうえで、ドーピング違反が確定した時点で制裁処分を受けることとなります。

違反が確定した場合は、当該競技大会への参加資格を失うこととなります。 また競技後に違反が確定した場合は、大会所轄組織の決定により、得られた個人の成績は失効、獲得メダル・得点・褒賞の剥奪を含む措置が課されることとなります。

まとめ

アスリートであれば、自分が摂取する食事・サプリの責任は、全て自ら負わなければなりません。これを「厳格責任」と呼びますが、今回説明したように検体が検査後も保管されて再検査が行われる可能性を考えると、摂取するサプリメントには十分な配慮が必要なことがお分かりいただけると思います。

高いレベルで活躍する選手ほど、摂取するものに対する注意は、払いすぎぐらいが丁度良いのです。競技に携わる選手だけでなく、それをサポートする指導者や栄養士、薬剤師の方々にも、今一度、正しいサプリメントを選ぶことの重要性を見直していただき、広くアンチドーピングが定着することを願っています。

PPNが取り組むアンチドーピング体制について

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