ピークパフォーマンスのためのセルフコーチング方法

ピークパフォーマンスのためのセルフコーチング方法

「あーおれはこうなりたいんだ。」

 

先日受けたスポーツメンタルコーチの資格更新で,アメリカの冬季五輪選手に帯同しているトレーナーの方とたった8分の1on1コーチングを2回やりました。


結果,内側にあった“本音”が一気に言語化されて,その瞬間からエンジンが1段階上がった感覚があります。


質問の質=人生の質


と言われるように,課題に対してどのような問いを立てるかは最も重要です。


でもそんな質問をしてくれる専門家との関わりないよ,という方もご安心ください。
今日から何回かに渡って前回のメルマガでお約束していたセルフコーチング方法をご案内させていただきます。


そもそもコーチングとはなんぞや?


という方もいらっしゃると思います。


コーチングの基本的な考え方は,コーチを受けている方が自分自身で気づきを得る関わりをすることです。つまり一方的に教える「ティーチング」とは違います。


このような専門的コミュニケーションの関わり方の教育を受けた人の総称が「コーチ」であり,アスリートに特化していればスポーツメンタルコーチであったりするわけです。


プロアスリートの間ではいまや当たり前のように心理面をサポートする専門家が帯同しますが,アマチュア競技ではよほどのトップアスリートや恵まれた環境にいる選手でない限り「個人でコーチと契約するのは難しい。」とお考えの方も多いのではないでしょうか。


でも安心してください。
実はコーチングスキルはセルフコーチとして活用できます。


私も現役自体にスポーツメンタルコーチの資格を取得したあとも,メンタルコーチについていただいた時期もございましたが,基本的にはセルフコーチ主体で問題解決しています。


他人に頼れない状況でも強く前進できるのが「セルフコーチ」の強みです。


本日からセルフコーチテクニックの中で簡単に実施できるものを何個かご紹介させていただこうかと思います。


まず一人で考えている時の一般的な問題点について考えてみます。
下記のようなことが思い当たる方もいらっしゃるのではないでしょうか?


・考えてはいるけど同じことを反芻するだけで解決しないことが多い(同じ答えに戻る)。


例えば怪我している時に「試合に間に合うか?練習しようかなぁ,やっぱり今無理しない方がいいか。」と朝考えていたのに昼になるとまた同じことを考えている。というような状況を想像してみてください。


セルフコーチの際に必要なポイントはたった2点。


細かいテクニックなどいろいろあるかと思いますが,まずは下記2つを頭の片隅に入れておいて何かの機会にご活用いただければ幸いです。


1.違う刺激を加える。
2.基本的な問いのパターンをマスターする。


今回は1つ目の「違う刺激を加える」から具体的に解説していきます。


まずなにより書き出してください。
「え?それだけ?」と思われるかもしれませんが,威力抜群です。
その理由は下記の通りです。


・書くという行為は身体を使いますので,指先への運動指令の出力,手の固有受容感覚からの筆圧のフィードバックがある。


・文字を見ることで視覚からのフィードバック(脳への情報量“刺激”)が一気に増える。こういったいつもと違う刺激は脳のネットワークを刺激して新たな答えに辿り着く可能性を高めると考えられます(Marano et al. 2025)。


また人間のワーキングメモリ(推論・理解・学習といった複雑な課題を遂行する際に、必要な情報を保持しておくために必要だと仮定されるシステム、もしくは一連のシステム(Baddeley 2010))は一時的に考えていたことを保存しておくには限界があります。

 

頭のみで考えている間に,いろいろな良い考えや気づきがでていたかもしれません。しかしよほどの天才でもない限りすべてを保存しておくことはできないでしょう。結局同じことをぐるぐると反芻し,最終的には自分の思考バイアスによりいつもと同じ回答が選択されて残る。こんな経験がある方も多いのではないでしょうか?


書き出すという「いつもと違う刺激」を加えるだけでも結果は変わってきます。


では書くという意味ではノートに書けばいいのでしょうか?


普段メモを書く習慣のない人はまずノートに書くというステップからスタートすると良いかと思います。いろいろ準備するのは面倒だと思ってやらないことのほうがもったいないです。


ではノートに書く習慣のある人はどうすればいいでしょうか?


次の2つがおすすめです。


まず1つ目は書き出す場所を変える方法。私は外で仕事や勉強をすることが多いですが極力違うカフェ,違うコワーキングスペースを使うようにしています。同じところであればできれば違う席に座ってみる。脳の記憶を司る海馬の原始的な機能は「場所記憶」(O'Keefe and Nadel 1978)。空間認知において新しい刺激を加えることは重要です。


2つ目は付箋を使う方法です。映画などで警察が付箋を壁に貼るという場面を見たことがあると思います。付箋を使うのはとても有効です。「いつもと違う刺激」を加えることがキーポイントです。ノートに書いた情報は動かすことができませんが,付箋に書いておけば場所を移動してカテゴライズしたり,付箋同士の位置関係を物理的に変えることでその課題の意味を表現することもできます。


付箋の利点は位置関係を変えられる,空間を大きく使える,付箋の色で意味づけをできる。そして全体を「俯瞰」しやすい。この俯瞰するという行為は良い答えを引き出すためにとてもとても重要です。床に置いたほうが物理的にも俯瞰しやすいイメージがあればぜひそうしてください。

 

書いて見るという感覚情報以外の「いつもと違う刺激」,という意味では,一人で声に出して話すという聴覚からの情報を加えることも重要です。私は忙しさマックスの時はメルマガを音声入力で書くのですが,声に出すという行為は書くという行為よりスピーディーに考えを進められる利点と,自分が声に出したことで気づけることができます。対面のコーチングなどはまさに声に出すことでの気づきに比重が置かれている部分もあるかと思います。声だけでなくさらにジェスチャーを加えたり(Trofatter et al. 2015)するのも新しい刺激となってよいかもしれません。


ポイントは「いつもと違う刺激を加える」。


トレーニングでも練習でも一定のバリエーションしかないと停滞しますよね。


新しい刺激→適応

(Kolb and Whishaw 1998)


これはヒトのあらゆるパフォーマンスを最大化するための鉄板の原理原則だと思います。
そういった意味でも私は常に新しい原料を追いかけています。


次回は2.基本的な問いのパターンをマスターする。をご紹介したいと思います。


12月もあらゆるパフォーマンスを最大化するために“いつもと違う刺激”をノート一行でも良いので加えてみてはいかがでしょうか?

PPN阿久津貴史


<参考文献>

Baddeley A (2010) Working memory. Current Biology 20:R136-R140 doi: https://doi.org/10.1016/j.cub.2009.12.014

Kolb B, Whishaw IQ (1998) Brain Plasticity and Behavior. Annual Review of Psychology 49:43-64 doi: 10.1146/annurev.psych.49.1.43

Marano G, Kotzalidis GD, Lisci FM, et al. (2025) The Neuroscience Behind Writing: Handwriting vs. Typing—Who Wins the Battle? Life 15:345 doi: 10.3390/life15030345

O'Keefe J, Nadel L (1978) The Hippocampus as a Cognitive Map. Oxford: Clarendon Press

Trofatter C, Kontra C, Beilock S, Goldin-Meadow S (2015) Gesturing has a larger impact on problem-solving than action, even when action is accompanied by words. Lang Cogn Neurosci 30:251-260 doi: 10.1080/23273798.2014.905692

 


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