ハイとロー どちらが重いバーベルを挙げられるのか?
Human Performance | Squat Biomechanics | 2026
ハイバー(HBBS)とローバー(LBBS)のスクワットは、どちらが重いバーベルを挙げられるのか?
現場でよく聞くこの疑問を、今回はGlassbrookらのレビュー論文(2017年)、Gonzálezらの直接的な研究論文(2025年)、Leeらのこのテーマで恐らく最新の研究論文(2026年)から考えてみます。
1. GlassbrookのレビューによるLBBSの重量上の優位性の説明
Glassbrookらのレビュー論文は、LBBSでより大きな重量を挙げられるかどうか、そしてその理由を検討することが、目的の一つに含まれたものです。
レビューで整理された知見
HBBSとLBBSを直接比較した研究では、LBBSのほうが体幹の前傾が大きいと報告されています。
膝関節については、HBBSのほうが深くしゃがみ、最下点での膝屈曲が大きい傾向として整理されています。ただし、反対の結果を示した研究も含まれています。
著者の考察
著者は実践的応用で、LBBSの大きな体幹前傾と小さな膝屈曲、すなわち浅いしゃがみが、より大きな股関節の後方移動につながると説明しています。その動作によって、臀筋群、ハムストリングス、脊柱起立筋群といった股関節後方の筋群が関与することを、重量上の優位性に結びつけています。
また、本文では、バーを低く保持することでモーメントアームが短くなる可能性も、より大きな重量を挙げられる理由としてあげています。
レビュー発表時点では、HBBSとLBBSの運動学・運動力学・筋活動を90%1RMを超える重量で比較した研究は行われていないと述べ、100%1RMまで含む研究を求めています。この記述は、2017年当時の研究状況についてのものです。GonzálezとLeeの研究はそれ以降のものです。
2. 直接比較すると LBBSの1RMが高かった
次に、HBBSとLBBSの最大挙上重量を直接比較したGonzálezらの研究を見てみましょう。
この研究では、レクリエーションとして筋力トレーニングを行う19名が、両方のスクワットを実施しました。足は肩幅で平行に置き、大腿が床と平行になる位置までしゃがむ方法で比較しています。
参加者全体の1RMは、次のとおりでした。
| 種目 | 1RM(平均±標準偏差) |
|---|---|
| HBBS | 98.2 ± 29.1 kg |
| LBBS | 105.0 ± 30.6 kg |
出典:Gonzálezら(2025)、Table 1。参加者全体の値を抜粋。
LBBSの1RMはHBBSより有意に高く、平均値の差は6.8 kgでした(p<0.001)。著者は考察で、この差を約7 kgと記述しています。
著者の考察
著者は、この違いを説明する可能性の一つとして、先行研究で報告された筋活動の違いを挙げています。トレーニング経験の豊富なパワーリフターを対象とした研究では、60–70%1RMで、下降局面の全測定筋と上昇局面の股関節伸展筋群に、より高い活動が報告されたと紹介しています。Gonzálezら自身の研究では筋活動を測定していませんのであくまで先行研究を踏まえた考察です。
3 Leeの研究におけるバー位置と筋活動の違い
Leeらは、バー位置、スタンス幅、重量・反復回数の組み合わせによって、筋活動や関節角度がどう変わるかを調べています。
比較した重量条件は、80%1RM・3反復と50%1RM・10反復です。HBBSとLBBSそれぞれの1RMを測定し、最大挙上重量の優劣を検証した研究ではありませんが、この研究で調査された変数が最大挙上重量の違いに影響するヒントを与えてくれる可能性があるかと思い今回確認しました。
研究結果
筋活動の違いに着目した結果においては、仮説であった「LBBSでは大殿筋の活動が高くなり、ナロースタンスでは大腿四頭筋の活動が高くなる。」を支持する結果が認められませんでした。Leeらは、HBBSではLBBSより大腿四頭筋に作用する力が大きいとしたGlassbrookらの知見と一致しなかったと述べ、結果が変わった考察として重量・反復回数と他の条件を組み合わせたことで、Glassbrookとは異なるスクワット条件になった可能性を挙げています。筋活動という視点ではまだLBBSとHBBSでどちらが重量を持てるか?という答えには少し距離があるようです。
4 まとめ
Glassbrookらは、LBBSの重量上の優位性を、関節角度、しゃがむ深さ、モーメントアーム、股関節後方の筋群の関与などから説明しています。ただし、これらはレビュー著者による説明であり、すべてが原因として直接検証されたわけではありません。
Gonzálezらの研究では、今回の参加者と実施条件において、LBBSの1RMがHBBSより高くなりました。
Leeらの研究は最大挙上重量を比較していませんが、バー位置による筋活動の違いが一律には現れないことを示した興味深い結果でした。
LBBSの方が重量を挙げやすいという方向性はある程度ありそうです。
ただ筋活動は研究によって違う結果がでているように研究間で統一した決定的な要因は確定していないようです。
Gonzálezは、高度にトレーニングされた選手では、彼の実験参加者とは異なる結果が得られる可能性があると述べています。
このことには納得される選手も多いのではないでしょうか。
パワーリフティングと違ってウェイトリフティング競技選手はHBBSを採用されますが、トップ選手はHBBSでも強烈に皆さん強いです。
最終的には個人の身体特性や操作特性は必ず考慮しなければいけないでしょう。
その中でもGlassbrookが触れていた下記の2つは知っておいて損はないかと思います。
バーベルのポジションの違いによるモーメントの変化
HBBSとLBBSを実施中の前傾角度がもし同じ場合、HBBSの方がモーメントアーム(図:黒矢印)が長くなります。
結果的にバーベルという重さによって体幹にかかるモーメント(回転力)が増大するため、体幹を維持するためより大きな股関節の伸展モーメントが必要となります。
このことからも必然的にHBBSでは体幹を直立した姿勢が自然と創発されるのかもしれません。
HBBS実施中に少し前傾してしまったせいで一気に潰れた、という経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか?モーメントの視点はLBBS実施者においても示唆的です。
高重量を求めるのであればLBBS実施者においても体幹の前傾角度をある程度保つべきだということです。
ある程度という表現を使う理由は、スクワットという動作は簡略化すると股関節、膝関節、足関節の主要3大関節の協調運動であるため、動作中に体幹の前傾角度を抑えることばかり重視すると代償として膝関節が過度に屈曲してしまう、というような不利な動きが他方では発生してしまうからです。
少し話が逸れますが、スクワットの開始姿勢だけ考えるとハイバーの方が支えているだけなら圧倒的に楽に感じる方もいらっしゃいます。このような方はローバーのバーベル位置に改善の余地がある可能性が高いです。
ローバーでバーベル位置が安定する所よりさらに低めに担いだり、本当に安定する位置で担げていない場合、徐々にバーベルが滑り落ちます。この現象を抑えるために身体は自然と上部胸郭を丸める代償姿勢を取ります。結果的に、ラックアウト、バックステップ、スクワットの開始姿勢時というメイン動作前の全局面で常に体幹を前傾させうようとするモーメントに耐え続けなければいけなくなります。
またローバーに設定していても動作中に肩甲骨がしっかり下制(腰側に下げる)できていないとローバーの恩恵を最大限に享受できません。
挙上途中に肩甲骨が上方に動いてしまう方というのは比較的みかけます。
バーベルの支え位置という基本中の基本もたまに見直してみるのもいいかもしれません。
バーベルのポジションの違いによる合成重心位置の変化
ヒトの身体の重心(質量の中心位置)は静止立位姿勢(図-①)の際は、概ね足底から身長の55-56%あたりに位置していると言われています。
万歳の姿勢をとると腕という体節の質量が上方に移動するため重心位置は上方に移動します。
ヒトの動きを考える際はこの目に見えない重心をどのようにコントロールするか?ということが重要な視点となります。
バーベルを担いだ際はバーベルと身体の重心を合成した合成重心(図-③,④)をコントロールする必要があります。
バーベルが重くなるほどこの合成重心は上方に移動します。
支持基底面などの条件が同じなら、重心が高いほど力学的には不安定になりやすいことを意味します。
つまりハイバーのほうが動作中のバランス維持への安定性要求が高いと動作といえます。
どのような試合環境でもいつも通りのパフォーマンスを発揮するというスクワットにおける適応的な強さ、総合力、ケガの予防という視点ではどちらか一方しか実施しないよりどちらかを主軸にしつつももう一方も実施できるといいのかもしれません。
Glassbrook DJ, Helms ER, Brown SR, Storey AG. (2017)
A Review of the Biomechanical Differences Between the High-Bar and Low-Bar Back-Squat.
Journal of Strength and Conditioning Research, 31(9), 2618–2634.
González M, et al. (2025)
Comparative Analysis of Performance in the High-Bar vs. Low-Bar Squat.
Applied Sciences, 15(6), 3143.
DOI:
10.3390/app15063143
Lee CXY, Crossman AJ, Kedgley AE. (2026)
The effects of bar positioning, stance width, repetition, and load on muscle activity during the barbell back squat.
PLOS ONE, 21(8), e0354893.
DOI:
10.1371/journal.pone.0354893