スクワットで踵を高くすると、
動作はどう変わるのか?
Human Performance | Squat Biomechanics | 2026
スクワットをするとき、踵は高い方がよいのでしょうか。 それとも、フラットな方がよいのでしょうか。
ウエイトリフティングシューズをはじめ、スクワットでは踵の高さが異なるさまざまなシューズが使用されています。 また、プレートやウェッジを踵の下に置いてスクワットを行うこともあります。
では、踵を高くすることで、実際にスクワットの動作はどのように変化するのでしょうか。
今回の「PPN Research Pick」では、2026年に Sports Biomechanics に発表された、踵挙上とスクワット動作に関するシステマティックレビュー・メタ解析を取り上げます。
本研究では、2025年9月までに公表された研究を対象に、 踵挙上がスクワット中の矢状面上の関節可動域(ROM)に与える影響が検討されています。
最終的に14研究、177名がメタ解析に含まれました。 対象は18〜40歳の健康な成人で、ウェッジ、傾斜板、ウエイトリフティングシューズなどによる 踵挙上条件とフラット条件が比較されています。
評価されたのは、 足関節・膝関節・股関節・体幹 のROMです。
踵挙上によってスクワットはどう変わったのか?
メタ解析全体では、踵挙上によって足関節ROMは平均+4.33°、 膝関節ROMは平均+4.94°増加しました。
一方、股関節ROM(−0.47°)と体幹ROM(−2.27°)には、 統計的に有意な変化は認められませんでした。
すべての関節で同じではない。
主に足関節と膝関節のROMが変化した。
さらに興味深いのは、単純な「踵挙上 vs フラット」の比較ではありません。
踵をどの程度高くしたかによって結果を分けると、 関節ごとに異なる反応がみられました。
足関節ROMはどう変化したのか?
本研究では、踵挙上を次の2つに分類しています。
つまり、 踵を挙上すれば必ず足関節ROMが増加する、という単純な結果ではありませんでした。
一定以上の踵挙上条件では足関節ROMの増加が認められましたが、 Low heelでは統計的に有意な変化は確認されていません。
示されたわけではありません。
ここは重要なポイントです。
今回のLow / Highという分類から、 「2.5 cmを超えれば効果が出る」と結論づけることはできません。 2.5 cmという数値は、今回の解析でLow heelとHigh heelを分類するために用いられた基準です。
膝関節ROMはどう変化したのか?
膝関節では、足関節とは少し異なる結果がみられました。
膝関節ROMは、 Low heel、High heelのどちらでも有意に増加 しました。
著者らは、この一貫した増加について、 膝関節が運動連鎖における 「主要な代償関節(primary compensatory joint)」 として機能している可能性を指摘しています。
踵挙上によって支持条件が変化するなかで、 身体全体の重心位置と動的安定性を維持するための 神経筋的な適応であると考察しています。
LOW +2.30°(有意差なし)
HIGH +5.09°(有意に増加)
LOW +3.39°(有意に増加)
HIGH +6.65°(有意に増加)
股関節・体幹ROMはどう変化したのか?
一方、股関節と体幹では、 メタ解析全体として有意なROM変化は認められませんでした。
Low heel / High heelに分けた解析でも、 股関節・体幹ともに統計的に有意な変化は確認されませんでした。
この研究から何が言えるのか?
今回の研究から重要なのは、 「ヒールが高い方が優れている」 という結論ではありません。
踵挙上によって足関節と膝関節を中心にスクワットの運動学が変化し、 その変化の仕方も関節によって異なることが示されました。
スクワットの運動学を変化させる
一つの手段として捉えることができます。
つまり、簡単に言えば、 スクワットのバリエーションの一つ です。
フラットと踵挙上のどちらが優れているかではなく、 それぞれ異なる条件として捉えることができます。
「即時的な運動学的変化」です。
今回の研究は、single-session studiesで観察された即時的な効果を中心に統合したものです。
踵挙上を長期間使用することで筋力や技術が向上するのか、 あるいは傷害発生率が低下するのかは、この研究からは分かりません。
著者らも、慢性的な踵挙上スクワットの使用と スポーツ傷害発生率の低下を直接結びつける縦断的エビデンスはないことを明記しています。
「自分に合う一足」を探すだけでいいのか?
足関節の背屈制限があるからといって、 必ずしもフラットな状態で深くしゃがめないわけではありません。
実際、スクワットでは深くしゃがめない人でも、 「和式便所に座るようにしゃがんでみて」と伝えると、 踵を床につけたまま深くしゃがめることがあります。
こうしたケースを長く見ていると、 可動域が足りないというより、立位から深いスクワットに至る “途中の動き”がわかっていない ことが少なくありません。
そのような人にとって、踵挙上は有効なスタート地点になると考えています。 踵を上げることでスクワットの運動学が変わり、 まず「しゃがむ」という動作を経験しやすくなるからです。
一方で、踵挙上は「より良いスクワット」を作る方法というより、 スクワットの運動学を変化させる一つの手段 として捉えることができます。
つまり、フラットと踵挙上のどちらが優れているかではなく、 それぞれをスクワットのバリエーションとして使い分けるという考え方です。
唯一無二の「自分に合ったシューズ」を探し求める選手も少なくありません。 しかし、道具を使う競技の選手がシーズンや身体の状態に応じて道具を調整するように、 シューズも、その時々のフィジカルや目的によって最適な選択が変わってよい と私は考えています。
また、試合会場や使用するラック、床などの環境が少し変わっただけで パフォーマンスが大きく左右される選手は、 普段から限られた条件で練習している可能性があります。
異なる条件に適応するという意味でも、 スクワットの運動学を意図的に変化させる手段の一つとして、 踵の高さが異なるシューズを練習に取り入れる という考え方も面白いのではないでしょうか。
フラットと踵挙上、あるいは異なるヒール高を使い分けることで、 身体はその都度、異なる条件のなかでスクワットという課題を解くことになります。
私は、こうした経験そのものが、 長期的にはスクワットという動作への適応力を高めることにつながるのではないかと考えています。
「どのヒール高が正解か」ではなく、
踵高を変えることで、
スクワットという動作そのものが変化する。
一つのフォームや一つのシューズだけを「正解」とするのではなく、
目的や身体の状態に応じて条件を選択する。
踵高も、そのために操作できる変数の一つです。
Heel elevation increases ankle and knee range of motion during squatting in healthy adults: a systematic review with meta-analysis.
Sports Biomechanics.
DOI: 10.1080/14763141.2026.2619893