ヌートロピック(NOOTROPICS)またはヌートロピクスとは、近年サプリメントのマーケットで注目されている物質です。
集中力や注意力を高めたり、記憶力を上げたり不安やストレスを和らげたりする機能があり、認知症の改善が期待できるとされています。また、ヌートロピックはアスリートにとっても最高のパフォーマンス発揮に役立つため、若年層にも重要な物質で注目されています。
本記事では、ヌートロピックのアスリートに適している機能について、またヌートロピックを取り入れる際の注意点について詳しく解説します。
世界で注目されるヌートロピック

前回の「ヌートロピック」についての記事でも紹介しましたが、ヌートロピック(Nootropic)は、ギリシャ語が語源になっています。「νοῦς」(ヌー) と「τροπή」(トロプ)を合わせて作られた言葉で、知性を向上させるものという意味がありますす。1972年にルーマニアの心理・化学者のコーネリュー・ジョルジアが造りました。
ヌートロピックは、成分ではなく人間の脳の機能や能力を高める、認知能力や記憶力を高めるとされる薬品や物質の総称です。脳内の神経伝達物質のバランスを調整する働きがあるため、認知機能の改善や集中力の向上などに役立ちます。
長寿国日本でのニーズが高まるヌートロピック
日本はご存知の通り高齢化が年々進んでいます。世界各国と比較してもトップクラスの長寿国です。団塊の世代が75歳以上となる2025年には、認知症の患者数が約700万人にのぼるといわれています。(1)
高齢化社会の日本では、認知症予防として高齢者の認知機能の向上目的のサプリメントの需要は、今度もますます高まると予測されます。
世界でのヌートロピックの消費目的は?
ヌートロピックは、日本だけではなく世界での消費も年々上がっています。世界のマーケット全体で見ると、ヌートロピックは2022年に91.4億米ドルに達しました。さらに、2032年までには約261 .3億米ドルに達するほどの成長が見込まれています。
世界のヌートロピック市場は、2023〜2032年の間に 11.07%の年平均成長率を示すと予測されているのです。(2)
世界におけるヌートロピックの需要は、高齢者向けの認知力向上だけが目的ではありません。脳機能や認知力を高めるヌートロピックは、さまざまなスポーツに携わるアスリートが、精神を研ぎ澄まし、集中力を高めるために消費しています。
そのため、サプリメントに関わる企業は、アスリートに特化したヌートロピックの製品を今後も数多く提供していくでしょう。
ヌートロピックの主な成分

ヌートロピックの成分は、大きく分けると2つあります。
米国でスマートドラッグと呼ばれてるような薬品や医療品として指定されている成分の「合成ヌートロピック」、もう一つは、ハーブなど自然由来の植物を使用した「天然ヌートロピック」です。天然ヌートロピックの中でも信頼性が高く、広く応用されているものを見ていきましょう。
カフェイン
カフェインといえばコーヒーや紅茶、緑茶などに含まれるアルカロイドの一種の成分です。
中枢神経系を刺激する働きがあります。眠気を覚まして活力を与えたり、血管を拡張し血液循環量を増やしたり、注意力を高めて作業効率を高めたりする効果が期待できます。
また、アスリートの運動パフォーマンス改善に良い影響を与えると言われています。国際スポーツ栄養学科(ISSI)の発表では、程よいカフェインの摂取によって、有酸素運動と無酸素運動の両方で、スピードや持久力の向上が見られています。(3)
さらには筋力トレーニングにも良い影響があると言われています。筋持久力が高まるため、効率的に筋トレが行えます。(4)
高麗人参
高麗人参は、日本ではオタネニンジンや朝鮮人参とも呼ばれる多年生植物です。高麗人参の有効成分とされるジンセノサイドは、花と実の部分より根の部分にバランス良く含まれているため、根の部分は高いものでは1本数十万円するほどの貴重品です。
高麗人参は、疲労回復や血行促進、ストレスの軽減、不眠の予防・改善などの効果が期待できます。また、美肌効果や性機能の改善などに役立つといわれています。
イチョウ葉
中国では古くからイチョウの果実や葉を、記憶力を回復させ呼吸困難を和らげるために利用してきました。イチョウ葉の主な成分は、13種類のフラボノイドとギンコライドという物質です。
イチョウ葉は認知症、アルツハイマー病などの改善が期待できるだけではなく、高血圧症や更年期障害、耳鳴り、めまい、神経痛、頻尿、冷え性、アレルギー、花粉症の改善などへの効果も期待できます。
L-テアニン
L-テアニン(テアニン)は、緑茶や紅茶などの茶葉に含まれるアミノ酸の一種です。
集中力を高めて緊張を緩和したり、ストレスによる脳の興奮を抑えてリラックスしたりする効果や睡眠の質の向上などの効果が期待できます。
トルコのナショナルチームレベルの選手を対象とする試験によって明らかにされたのですが、カフェインとL-テアニンを併用することで、カーリングショットの精度と認知パフォーマンスが上がったことも報告されています。(5)
オメガ3脂肪酸
オメガ3脂肪酸は、多価不飽和脂肪酸の一種で、脳や心臓、肝臓、腎臓、肌などさまざまな部位に分布しますが、体内では合成できない必須脂肪酸の一種のため食品やサプリメントなどから補う必要がある成分です。
オメガ3脂肪酸は、健康を維持する上で欠かせないもので、高血圧や動脈硬化、脳卒中の予防や血管をしなやかにして血行を促進させる、細胞の修復機能を高める効果などがあります。
オメガ3脂肪酸は、脳や神経と密接に関係しているため、不足するとさまざまな異常が現れる重要な物質です。
タウリン
タウリンも、アミノ酸の一種です。体内での生成が可能ですが、十分な量が作られないため食品やサプリメントから補うのがよいでしょう。タウリンは脳と心臓に高い濃度で存在しますが、貯蔵量をみると骨格筋にもっとも多くあり、ほかには目の網膜や肝臓にも多く含まれます。
タウリンは臓器の機能低下や、筋肉のダメージや疲れを緩和させる効果が期待できます。また、浸透圧やCa2+の調節、タンパク質の安定化、抗酸化・抗炎症作用などの役割もあり、肝臓の働きをサポートし、生体の恒常性維持に欠かせないものです。
トルコのオリンピック候補であるスピードスケート選手対象の研究報告として、タウリンを摂取することで運動パフォーマンスに対して急性効果を発揮する可能性を示唆するデータも報告されています。(6)
GABA(ギャバ)
GABAは、γ-アミノ酪酸の略でアミノ酸の一種です。脳や脊髄に存在しており、神経伝達物質としてストレスや緊張を緩和する働きがあります。
脳の興奮を鎮め、血圧を下げる、睡眠の質を高めるなどの役割があり、脳機能を改善して 認知機能の維持するために役立ちます。ちなみに、GABA摂取することでeスポーツのパフォーマンス向上効果につながる可能性があることも報告されています。(7)
ただし、GABAは過剰摂取すると体に悪影響が出るため、摂取量には注意が必要です。
ウコン
ウコンはショウガ科の多年草植物です。 沖縄では古くから使われており、お茶として飲んだり、料理に入れたりして活用されてきました。 また、約5千年前の古代インドの医学書「アーユルヴェーダ」にも、ウコンは記載されていて、古くからアジア一帯で生薬として使われていたことが分かります。
ウコンには、唾液や胃液の分泌を促進させ胃粘膜を保護する働きがあります。また、二日酔いの原因となるアセトアルデヒドの分解速度を促進させる働きがあるのは広く知られている点です。
ヌートロピックがアスリートにも適している理由

ヌートロピックは、脳の機能改善を助け、認知症の予防や対策に有効なだけではありません。
成分ではなく人間の脳の機能や能力を高めるものすべてを指すため、普段私たちが無意識のうちに行っていることも、ヌートロピックに当てはまる場合があります。
- 眠気を覚ましたり集中力を高めたいときにコーヒーやエナジードリンク、ガムを摂取する
- リラックスしたいときにハーブティーを飲む
- アスリートが試合前に好きな音楽を聴く
世界でのマーケットが拡大しているように、ヌートロピックはサプリメントはもちろん、さまざまな方法によってアスリートのパフォーマンスを最大に引き出すときにも有効なのです。
集中力を高める
ヌートロピックはモチベーションを引き上げ、集中力や注意力を高める作用があります。また、記憶力の向上にも役立つため、アスリートが試合前に集中したいときに最適です。
アスリートに求められる条件は、身体的な能力だけではありません。蓄積した練習の成果を実戦で100%発揮するための高い集中力と強い精神力が必要です。ヌートロピックは、不安とストレスを軽減し、集中力を高めてアスリートをベストな状態に保つサポートになります。
リラックス効果がある
ヌートロピックには、リラックス効果もあります。幸福感を増幅させる働きがあるため、アスリートの緊張を緩めてくれます。
リラックスすることは、集中力を高めることと同様にアスリートにとってとても大切です。緊張状態が続くと体が強張り、思うように動かせなくなります。また、瞬発力にも影響が出ます。
最高のパフォーマンスを出し切るためには、余分な力みを手放す必要があるのです。
創造力を高める
ヌートロピックは、創造力も高めてくれます。アスリートにとって、創造力も欠かせないものです。試合中はどんなにさまざまな状況をシミュレーションしても、予測不能なことが起こる可能性はあります。
そのようなときに、アスリートには冷静に状況に照らし合わせて、独創的かつ適切な解決策を生み出す力が求められます。
状況を正しく分析したうえで、的確に自分の取るべき行動を判断できるかはとても重要です。ヌートロピックは、アスリートのいざという時の瞬時の判断にも役立つでしょう。
栄養バランスを整えやすい
アスリートは、競技によって必要な栄養素やカロリーなどをコントロールして食事を摂ります。
ヌートロピックのサプリメントは、必要な栄養素を補給しながらアスリートがベストコンディションで、練習や試合に臨む助けになります。たとえば、必要な栄養素でも食事から摂取するとカロリーや脂質が気になる場合、サプリメントで補えば問題ありません。
また、糖質制限やケトジェニックダイエットもヌートロピックといえます。単なるウェイトマネジメントだけではなく、糖質を抑えることで脳内の神経細胞がエネルギー源を切り替えます。身体をケトーシス状態にしたところに、ケトン体を効率的に作り出すMCTオイルをプラスすれば、脳が栄養不足に陥ることなく活動を維持できるでしょう。
ヌートロピックを摂取する際の注意点
ヌートロピックはさまざまな形のものがありますが、サプリメントで摂る場合、次のことに注意しましょう。
医薬品ではない
ヌートロピックは、米国ではスマートドラッグとも呼ばれており、向知性薬や認知増強剤と訳されることがあります。しかし、医薬品ではないことを認知しておきましょう。
サプリメントとして摂取する場合、あくまでも栄養補助食品です。医薬品のような厳格な試験や規制の対象にはなっていないため、品質や有効性は確かなものではないと理解すべきです。
サプリメントに使われている天然成分のなかには、処方薬の薬効に影響するものもあります。
有効性、安全性は研究段階
ヌートロピックは医薬品ではないため、有効性、安全性はまだ研究段階です。サプリメントを選ぶときは、自分にとって必要なものか有益なものかを十分に検討しましょう。
特にヌートロピックは、その有効性から脳や神経に働きかけるものが多いため、摂取量やほかの医薬品・サプリメントとの組み合わせにも十分注意が必要です。
サプリメントを選ぶ際のポイントに、機能性表示食品であるかどうかがあります。機能性表示食品は、安全性の確保が前提で科学的根拠に基づいた機能性であることが表示されているものです。
また、GMP(Good Manufacturing Practice:適正製造規範)で製造されたものかどうかも1つの基準にできるでしょう。GMPと明記されているものは、製造工場での品質管理や成分の含有量への信頼がおけます。
国によっては医薬品に分類されるものがある
ヌートロピックサプリメントは、国によって医薬品かそうではないかが異なる場合があります。
ヌートロピックの薬物、または医薬品として分類される成分を含んでいる合成ヌートロピックの中には、国によってサプリメントとして販売されていたり医薬品に分類されていたりするものがあるため注意が必要です。
ヌートロピックを正しく理解して取り入れよう

ヌートロピックは、認知症予防や対策としての機能がある点で、世界的に注目されていますが、若年層にとっても仕事や勉強の効率を高める、集中力向上などの効果が期待できるものです。
そのため、集中力やモチベーション維持が重要であるアスリートにとっても有効であると考えられます。最大限のパフォーマンスをベストなタイミングで発揮するために、ヌートロピックを取り入れるのもよいでしょう。