脳の能力を高めると世界中から注目を集める「ヌートロピック」について解説

ヌートロピックという言葉をご存知でしょうか?脳の能力を高め、集中力や効率性を向上させることができる物質として世界中から注目を集めています。

アメリカでは、ヌートロピックを配合したサプリメントやドリンク、グミ、プロテインバーなど1,000を超える製品が販売されて認知度が広まっていますが、日本で販売されている製品はまだ少なく、馴染みの薄い言葉でしょう。

実は眠い時に摂取するコーヒーやエナジードリンク、さらにはアスリートが試合前に音楽を聞くという行為もヌートロピックに含まれます。身近にあるけど、深くは知られていないヌートロピックの魅力について今回は詳しく解説していきます。

阿久津貴史

著者紹介

パワーリフティング全日本選手権12連覇
NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ

阿久津貴史公式HP

1982年生まれ。元パワーリフティング選手(2023年11月の世界選手権を最後に引退)。2010年〜2023年105kg級日本代表(2021〜2023年団長)。パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。

ヌートロピック(ヌートロピクス)とは?

ヌートロピック(NOOTROPICS)とは、人間の脳の機能や能力を高めるほか、リラックスや抗ストレス作用などにより脳機能を安定させたり、向上させたりする物質の総称です。脳内の神経伝達物質のバランスを調整することで、認知機能を改善しようとします。向知性薬や認知増強剤と和訳されることがありますが、「薬」ではありません。

語源はギリシャ語で知性や精神などを意味する「ヌー」という言葉と、向上や変化を意味する「トロプ」という言葉を組み合わせた造語で、1972年にルーマニアの心理/化学者のコーネリュー・ジョルジアが作りました。

ヌートロピックという言葉を知らない方も多いと思いますが、実は一般的に脳サプリとして流通しており、グミやガム、錠剤などのさまざまな形でスーパーマーケットや薬局などで手軽に購入できます。

冒頭でも紹介したように日本よりも採用されている製品が多く、ドリンクやプロテインバーなどとしても販売されています。

▼欧米では下記のようにも呼ばれています。

・スマートドラッグ(頭が良くなる薬)
・メモリーエンハンサー(記憶増強)
・ニューロエンハンサー(神経伝達増強)
・コグニティブエンハンサー(認知増強)
・インテリジェンスエンハンサー(知性増強)

ヌートロピックの代表的な成分

ヌートロピックの成分は大きく分けて2つに分類されます。

一つはスマートドラッグと別名で呼ばれるように薬品や医療品として定められている成分「合成ヌートロピック」です。もう一つはハーブなどの植物を使った自然由来の「天然ヌートロピック」です。

需要が高いのは天然ヌートロピックで、代表的な成分をあげると「カフェイン」「イチョウ葉」「クレアチン」「高麗人参」「ウコン」などがあります。

ヌートロピック(脳のサプリメント市場)の動向

厚生労働省によると2025年には団塊の世代の方々が全て75歳となり、人口が全人口の約18%を占めることが分かっています。また、2040年には65歳以上の人口が全人口の約35%を占めるという高齢化社会が進んでいる背景もあり、認知症などの増加によって世界中で脳の健康サプリメント需要が高まっています。(1)

世界の脳の健康食品市場の規模は2024年に113億米ドルに達しており、2034年までに約321億3000万米ドルに達すると予想されています。また、2024年から2033年にかけて11.02%のCAGRで拡大すると予測されています。(2)

今後より多くの製品が作られ、研究が進んでいく市場になるでしょう。

日本におけるヌートロピック製品例

日本で販売されているヌートロピック製品を例として複数紹介します。ゲーミングに特化したものや子供向けに作られたものなど、さまざまな脳サプリメントが販売されています。

・さえざえ
DHA、EPA、イチョウ葉、GABA、PS(ホスファチ ジルセリン)、レシチンなどの原料で作られているソフトカプセルタイプのサプリで、複合的にはたらく6つの成分で冴えを総合サポートしてくれます。

・ブレインダイレクト
ムクナ、GABA、PS、イチョウ葉、DHA・EPA、カフェ イン、L-チロシン、L-テアニン、レシチン、フェルラ酸などの原料で作られているタブレットタイプのサプリで、集中力ややる気を向上させてくれます。

・子供のための 勉強サプリ
アルギニン、チロシン、ヒスチジンなどの原料で作られている粉末状のサプリで、やる気や集中力、意欲を後押ししてくれます。

・Switch
イチョウ葉、高麗人参、バコパ、大豆レシチンなどの原料で作られているエナジードリンクで、集中力や学習能力、やる気など総合健康力を上げてくれます。

・ゲーミングサプリ eサプリ
GABA、ルテイン、ガラナなどの原料で作られているチュアブルという噛んで食べられるサプリで、eスポーツで最適のパフォーマンスができるように後押ししてくれます。

ヌートロピックの働きや機能性

脳機能を高めるとされるヌートロピックの働きは複数ありますが、代表的なものだと下記が挙げられます。精神安定や集中力アップなどスポーツを行うアスリート選手にも必要な機能性も備わっています。

・精神安定やストレスに対する適応
・判断力の向上や集中力増強
・記憶力改善や学習効率向上
・疲労感や倦怠感を和らげる
・モチベーションの向上
・睡眠の質を上げる
・認知機能を維持する

精神安定やストレスに対する適応

ヌートロピック素材として欧米ではトップ3の中に入るほど多く採用されている「バコパモニエラ(バコピンR)」という素材は知恵の草「ブラフミー」として古くから脳機能性改善に用いられてきたハーブの一種で、認知や記憶だけでなく、不安やストレスにも適応することが可能です。

また、同じく不安やストレスの軽減の効果を持つ素材「ホーリーバジル/トゥルシー」は、不安を和らげ、気分を高め、記憶力を向上できます。

上記で紹介した以外にもGABAやテアニン、ホスファチジルセリン (PS)、高麗人参、NMN、CBDなども同様の作用が期待できます。

判断力の向上や集中力増強

ムクナやL-ドーパの製品名で欧米では単味としてもよく採用されている「ムクナ/八升豆 (L-ドパ)」は、脳機能サポートだけでなく、集中力向上や強壮、モチベーションへの効果が期待できます。

また、運動やモチベーションにも影響を与えるとされています。日本ではエナジードリンクややる気ドリンクへの採用が増えている素材でもあります。

上記で紹介した以外にもカフェインやガラナなども同様の作用が期待できます。

記憶力改善や学習効率向上

スポーツパフォーマンス向上で有名な「ビートルート(サビート)」は、ヌートロピック素材としても欧米では採用が増えています。

eスポーツのパフォーマンス向上にも繋がる素材としてもおすすめされており、記憶力改善や学習効率向上が期待できます。また、血管拡張や脳血流の促進され、集中力や注意力アップにも繋がります。

上記で紹介した以外にも、イチョウ葉や松樹皮エキス、グリシン、ナイアシンなどに加えて、インド素材ではプテロスチルベン、ビートルート、ローズマリー、ツボクサなども同様の作用が期待できます。

ヌートロピックの今後に期待

ヌートロピックは今後も更なる研究と発展が期待される分野であり、さまざまな世代やスポーツを行うアスリート選手などにとって有益なものとなるでしょう。

ただし、多くのヌートロピックに関する有効性や安全性については引き続き研究が進められていますので、今後の展開に注目です。

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講師は2011年〜2023年の間、全日本選手権パワーリフティング105kg級(フルギアカテゴリー)で12連覇を達成したPPN代表 阿久津貴史(2004年〜NSCAストレングス&コンディショニングスペシャリスト)です。現在は東京都立大学 大学院 人間健康科学研究科 知覚運動制御研究室に所属して、パワーリフティング種目の運動制御に関する研究をしています。

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