フィジークやボティビルでは体脂肪率を極限まで落とすため、糖質を制限する栄養戦略をとる選手も多いですが、動きの多いアスリートのパフォーマンスアップ(エルゴジェニックエイド)の為には、糖質をできるだけ効率よく摂取することが重要視されます。
1日に数回実施される競技練習、補強のためのウエイトトレーニング、コンディショニング等、アスリートの多量な消費エネルギーを賄うには一にも二にも糖質が必要です。
そのため、アスリート向けのサプリメントとして、各材料メーカーが様々な糖質系素材を開発しています。 中でも、運動において大きな効果をもたらす糖質素材が「クラスターデキストリン」です。
今回は、クラスターデキストリンの効果や、他の糖質素材と比較した場合の違いについて説明します。 限界までの運動時間を延長させたい選手や、できるだけリカバリーを促したい選手は是非ご参考ください。
著者紹介
パワーリフティング全日本選手権11連覇・現日本記録保持
NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ
阿久津貴史 (公式HP)
1982年生まれ。パワーリフティングの競技者として活動するとともに、パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。
糖質の重要性について
筋肉を収縮させるためのエネルギーとなるのは糖質(グリコーゲン)です。このうち、筋肉に蓄えられるグリコーゲンは筋グリコーゲンと呼ばれ、体内のグリコーゲンのうち8割強が筋グリコーゲンとして貯蔵されています。
筋グリコーゲンが減少すると筋疲労が発生します。長時間運動することによって筋グリコーゲンが枯渇してくると筋肉の収縮が困難となるため、パフォーマンスが低下したり、極限までいくと競技の継続もできなくなってしまいます。
また、筋グリコーゲンが不足すると体内のタンパク質を分解することによってエネルギーを生成するため、トレーニングや試合の後に筋グリコーゲンが不足していると、筋肉が合成されにくくなり、素早いリカバリーを望むことはできません。
特に、日常的に高い強度のトレーニングを行うアスリートは、トレーニング後にタンパク質の摂取はもちろん、糖質摂取によってできるだけ早く筋グリコーゲン量を回復させる必要があります 1)。
昨今の風潮では敵視されがちな糖質ですが、アスリートは競技内容や体格に応じて適切に糖質を摂取する必要があるということを踏まえておきましょう。
糖質の種類
では、糖質なら何でも摂取しても良いかというと、答えは「NO」です。糖質は様々な糖類の総称であり、スポーツに向いた糖類もあれば、そうでない糖類もあります。
また、有酸素運動が主体の競技なのか、無酸素運動が主体の競技なのかによっても、合う糖類・合わない糖類があり、もちろん摂取量も適切でなければなりません。
糖質摂取の落とし穴「インスリンスパイク」
体内に糖質を吸収するには、消化酵素によってグルコース(ブドウ糖)に分解する必要があるため、糖質の中で最も吸収効率が良いのがグルコースということになります。
そのため、多くのスポーツドリンクにグルコース(ブドウ糖)が含まれていますが、ここで落とし穴となるのがインスリンの分泌です。 グルコースのようなGI値※の高い糖質を摂取すると血糖値が急激に上がり、膵臓から「インスリン」というホルモンが強く分泌されます。
※GI値・・・グライセミック・インデックス(Glycemic Index)の略で、食後血糖値の上昇度を示す指標
インスリンは血糖値を下げる作用があるので、インスリンが過度に分泌されると、低血糖を招きます。これによって、血糖値がすぐに上がってその後すぐに下がる(インスリンスパイク)という現象が起こります。
つまり、摂取してすぐはパフォーマンスが上がるものの、その後は逆にパフォーマンスが落ちる、つまり「スタミナ切れ」が起こりやすくなるわけです。吸収効率が良いとはいえ、パフォーマンスを求めるなら競技中にそのような飲料を摂取するのは避けたほうがよいでしょう。
また、インスリンは筋合成を促す働きがあるのですが、過剰に分泌されると余分な糖質が中性脂肪となって脂肪細胞に蓄えられやすくなります。前述のとおり、トレーニング後にはできるだけ早い糖質摂取が望まれますが、インスリンを過剰に分泌させるような糖質を継続的に摂取すると、体脂肪の増加によってパフォーマンスが低下してしまう恐れがあります。
クラスターデキストリンとは?
数ある糖質のなかでアスリートに最もおすすめしたいのが、「クラスターデキストリン」です。
コーンスターチ(トウモロコシのデンプン)を原料にしており、アスリートの運動時のための糖質として江崎グリコとナガセケムテックス株式会社、日本食品化工株式会社の3社共同により開発され2002年より市販が開始された素材です。
「高度分岐環状デキストリン」を90%程度含有したデキストリンで、アスリートの糖質補給として理想的な特性をもちます。
クラスターデキストリンの特徴
なぜクラスターデキストリンがアスリートに特に向いた糖質といえるのでしょうか?その理由を3つお伝えします。
1:インスリンスパイクが起こりにくい
多糖類であるクラスターデキストリンは摂取後の血糖値上昇がゆるやかなので、過度のインスリン分泌によるインスリンスパイクが起こりにくくなります。
また、運動に必要なだけの血糖値を長く維持できるので、安定したエネルギー供給が可能となり、限界運動時間を伸ばすことができます。 グルコースを投与したマウスとクラスターデキストリンを投与したマウスを、それぞれ流水プールで泳がせて限界遊泳時間を測定した実験では、クラスターデキストリンを投与したマウスのほうが限界遊泳時間が約20%延びたという実験結果があります 2)。
もちろんアスリートによる試験結果もあります。クラスターデキストリンまたは他の糖質を摂取した水泳選手の限界遊泳時間を検証したところ、クラスターデキストリンを摂取した際は他の糖質を摂取した際と比べて約1.5倍長い時間遊泳が可能であることが示されています 3)。
インスリンスパイクが起こりにくいということは、運動後のグリコーゲン回復を目的とした場合にも、理想的な特性であるといえるでしょう。
2:飲みやすい
多くの糖質は水溶性が低く固まりやすいため、水に溶けなかった分がペットボトルやシェーカーの底に溜まることが多くあります。こうなると、飲みにくかったりべたついたり、何より薄い部分と濃い部分に分かれてしまうので、安定した糖質補給ができなくなります。
一方、クラスター デキストリンは水溶性が高く、水に溶けたあとも安定している特性があります。
そのため、運動時の膨満感、ゲップ回数が他のスポーツサプリメントに用いられる糖質に比べ明らかに少ないです。 また、甘味や粉臭がほとんどないため、飲みやすい点も長所です(夏場など暑いシーズンに通常の糖質飲料のように喉に糖質のベタつきが残って飲料を飲んでいるのに返って喉が乾くというようなことが少ない)。
運動強度が高い場合、ただの水以外を身体がどうしても受け付けない選手もいますが、そのような場合にも安心して摂取できる糖質です。
3:胃腸への負担が低い
グルコース(ブドウ糖)溶液のように、浸透圧が高いもの(アイソトニック )を摂取すると、人間の体はそこに水分を送り込もうとするため、胃がもたれたり、お腹がゆるくなったりします。
一方で、クラスターデキストリンは、体液より低い浸透圧となる(ハイポトニック)ので、胃から腸へ速やかに移動し、素早く吸収されます。また、体内の消化酵素によって容易に消化されますので、胃腸への負担が低いです。
そのため、グリコーゲンが枯渇しがちな運動中においても、胃腸への負担を気にすることなく、糖質を素早く吸収してパフォーマンスを維持することができます。
ヴィターゴ(Vitargo)やモルテン(Maurten)との違い
糖質は各社が様々な素材を開発しており、それらのうちクラスターデキストリンとよく似た素材として、「ヴィターゴ」があります。
ヴィターゴの特徴はなんといっても摂取後の体内グリコーゲンの貯蔵量の速さといえます。その他に胃の通過速度や浸透圧の低さなども特徴です。
また他にも、胃からスムーズに吸収できるハイドロゲルという技術を用いた「モルテン」という糖質サプリは、特にマラソン業界で耳にするようになった商品です。身体に短時間でより多量の糖質を吸収させることに重きを置いており、マルトデキストリンとフルクトースという2種類の糖質を用いています。
※どちらも特徴があり、クラスターデキストリンとの優劣を一概に述べるものではありませんが、特徴を簡潔にまとめると、以下のようになります。
ヴィターゴ・・・グリコーゲン補充が早い
モルテン・・・短時間に多量の糖質を吸収できる
クラスターデキストリン・・・運動持続時間の延長を実現
限界までの運動持続時間の延長のために
私がクラスターデキストリンを商品に採用している最大の理由は実際の運動中のパフォーマンスを伸ばすことが明らかだからです。運動持続時間の延長という視点でしっかりデータが取られているのはクラスターデキストリンになります。
では糖質のことだけ考えればいいのか?というとそうではありません。
パフォーマンス向上のためには糖質の他にも必要な要素が多くあり、それらの組み合わせ方がさらにパフォーマンスを左右します。
エルゴジェニックエイドサプリメントとしてどうあるべきかを考えたときに、現状考えられるベストな組み合わせを実現したのが、当社で開発した『00X’AAA+ALPHA』(トリプルエーアルファ)です。
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参考文献
1)Louise M.Burke, John A.Hawley, Stephen H.S.Wong et al. :Carbohydrates for training and competition, J sports Sci 29(S1),S17-S27,2011.2) Takii, H., Ishihara, K., Kometani, T., Okada, S., and Fushiki, T.: Biosci. Biotechnol. Biochem., 63, 2045–2052(1999).
3)SHIRAKI et al., Food Science Technol. Res.,21(3),499-502,2015