BCAAの摂取について知っておくべきことを徹底解説。

BCAAの摂取について知っておくべきことを徹底解説。

人体の約20%はアミノ酸で構成されており、一般の人はもちろん、体のコンディションがパフォーマンスを左右するアスリートは特にアミノ酸の摂取方法に配慮すべきです。

2020年に980万トンの市場規模に達したアミノ酸市場ですが、2021年から2026年までの年平均成長率は約5%と引き続き伸長し、2026年には1,310万トンに達するといわれています。

そのなかで商用アミノ酸の代表格といえるのが、みなさんご存知のBCAAです。私も多くのアスリートから「BCAAをサプリメントで摂取するべきなのか?」という質問を受けます。

しかしながら、結論から言ってしまえば、昨今のようにあらゆる形態のタンパク質サプリメントが出ているなかでは、BCAAはそれほど重要な存在ではなくなっています。 その理由を今回は解説しようと思います。

阿久津貴史

著者紹介

パワーリフティング全日本選手権11連覇・現日本記録保持
NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ

阿久津貴史公式HP

1982年生まれ。パワーリフティングの競技者として活動するとともに、パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。

そもそもBCAAとは何ぞや?

BCAAとはBranched-Chain Amino Acids(分岐鎖アミノ酸)の略で、アミノ酸のなかでもバリン・ロイシン・イソロイシンのことを言います。

アミノ酸とは、タンパク質を構成している最小単位です。アミノ酸が2つ繋がるとジペプチド、3つ繋がるとトリペプチド、そして50個以上連結されるとタンパク質と呼ばれます。 最小単位から並べると、アミノ酸→ペプチド→タンパク質(プロテイン)という順番で大きな構造になるということです。

BCAAはアミノ酸の中でも、体内で合成できない「必須アミノ酸」に属しているので、口から摂取する方法しかありません。

年齢によって必須となるものは変わりますが、ヒトでは9種類のアミノ酸(イソロイシン・ロイシン・リジン・メチオニン・フェニルアラニン・スレオニン・トリプトファン・バリン・ヒスチジン)が必須アミノ酸とされています。

アミノ酸の歴史を簡単に紐解くと、最初のアミノ酸は1806年にアスパラガスの芽から発見された「アスパラギン」に遡ります。そして1935年までの129年間のうちに、タンパク質を構成している全てのアミノ酸が発見されました。

そのなかでもBCAAは、糖質や脂質に次ぐ運動中のエネルギー源となるため、1970年代後半頃から注目を浴び、巨大原料メーカーの研究や広告の追い風を受け、またたく間に流行しスポーツ界に定着しました。

BCAAの摂取が推奨されている理由

BCAAの摂取をメーカーが勧めている理由は、BCAAには下記5つの特性があるとしているからです。

  1. BCAAは人の筋タンパク質の約35%を占める、最も多いアミノ酸である
  2. 運動中のエネルギーになる
  3. 中枢神経の疲労を抑制する
  4. 運動中の筋肉の合成を高める
  5. 運動中の筋肉の減少を抑える 

しかしながら、BCAAをサプリメントで摂取することが効果につながるのかというと、それは別の話となります。上記の5項目について、それぞれひとつずつ詳しく見ていきましょう。

メーカーが勧める理由①「BCAAはヒトの筋タンパク質の約35%を占める最も多いアミノ酸である」

「BCAAは人の筋タンパク質の約35%も占める」これは事実です。35%も占めると言われると非常に重要だと感じますが、だからBCAAだけ摂取すればいいという考え方は浅はかです。残りの約65%を構成しているのは他のアミノ酸であることを忘れてはいけません。

ここで少し皮肉めいた話を。

食物中に必須アミノ酸がどれだけバランスよく含まれているのかを見る指標として「アミノ酸スコア」というものがあり、アミノ酸スコアが高いほど「質の良いたんぱく質」を含んでいる食品だと言われています。

9種類の必須アミノ酸は体内で生成することができないため、食品に含まれるアミノ酸の組み合わせや量によって体内での利用効率が変わってきます。 必須アミノ酸のうち、最も不足している必須アミノ酸を「第一制限アミノ酸」と呼び、この第一制限アミノ酸によってタンパク質の生成に制限がかかってしまいます。

このアミノ酸スコアという考え方を用いてBCAAの摂取促進に関して考察すると、バリン、ロイシン、イソロイシンの3つの必須アミノ酸から構成されるBCAAのみを摂取しても、他6種類の必須アミノ酸の摂取量はゼロになるので、体内で効率的なタンパク質生成はされないということになります。

もちろん1日単位で見れば、他の必須アミノ酸は他の食物から摂取されているので実際にはゼロにはならないのですが、BCAAだけ突出して摂取量を増やしても、他の必須アミノ酸が不足していては体内で効率よく使われないということです。

国際スポーツ栄養学会では各種サプリメントのエルゴジェニックエイド的効果を3段階評価で分けていますが、BCAAは筋肉形成サプリメントとしてもパフォーマンスアップサプリメントとしても評価は「Ⅱ. 有効性を裏付けるエビデンスが限定的または相反する」に属していることは注目に値します。

プロテインとBCAAの両方を扱っているメーカーさんがプロテインの宣伝文句ではアミノ酸スコアの重要性を謳い、BCAAの宣伝となるとアミノ酸スコアには一切触れないのは不思議な話です。

メーカーが勧める理由②「運動中のエネルギーになる」

BCAAは運動中のエネルギーになります。

しかし多くの方がご存知の通り、エネルギーとして最も利用効率の高い栄養素は糖質です。最近は過酷な減量をするボディビル選手でさえ、減量期のトレーニング中に糖質摂取をする方もいます。

もう一度書きますが、エネルギーとしても最も利用効率の高い栄養素は糖質です。つまりアスリートが運動中のエネルギーになるという理由でBCAAに投資することはとてもリターンの少ない行為になります。

分かりやすい例として、BCAAを5g(5000mg)摂取して全てエネルギーに変換されたとしたら、5g×4kcal=20kcalのエネルギーになりますが、20kcalではたして何メートル走れるのでしょうか...?

BCAAをエネルギー源としてとらえることはナンセンスであることは明確です。

メーカーが勧める理由③「中枢性疲労を抑制する」

"BCAAは中枢性疲労を軽減させる"という仮説(Eric A.Newshole)はBCAAを販売するメーカーによって宣伝に使われているため広く知れ渡っているのですが、近年これは間違いでないかという説も出てきています。

まず、BCAAが中枢性疲労を軽減させるという仮説を詳しくみていきましょう。 この仮説における中枢性疲労を起こすとされる原因は、運動により増大したトリプトファンからセロトニンの合成が上昇し、セロトニン作動性神経の活性が増大し、この神経活性が中枢性疲労を引き起こすというものです。

このセロトニンの元となるアミノ酸のトリプトファンが脳内へ取り込まれるのをBCAAが阻害する働きがあるため、BCAAを摂取すれば中枢性疲労が抑制されるのではと考えられてきました。

BCAAがなぜトリプトファンの吸収を阻害できるかというと、BCAAとトリプトファンは同じ輸送体を使うため、運搬過程において競合し合います。結果的に、BCAAの摂取はトリプトファンの脳内への運搬を阻害する働きがあり、BCAAを摂取することが最終的にセロトニン合成を抑制し、中枢性神経の疲労を抑制するのに有効とされました。

しかし、慢性疲労者やうつ病患者はセトロニンが不足しており、セロトニン不足は不安感、ネガティブな感情を助長することは広く知られている通りです。

また、日中にセロトニンが正常に分泌されない人は、夜になって睡眠ホルモンのメラトニン生成が減少し睡眠の質が低下することもわかっています。誰でも睡眠不足が続けば集中力が低下することは容易に想像できるかと思います。

前述の「運動を行うとトリプトファン濃度が増加し、同時に脳内セロトニン濃度も増加する」という現象は、むしろ運動で生じる精神的疲労に対抗するために生じているポジティブな反応という見解も存在します。

またランニング、水泳、サイクリング等のリズム性運動時にはセロトニン神経が活性化されることがわかっており、むしろセロトニン分泌のために推奨されているくらいです。

つまり、BCAAの摂取により脳内セロトニン濃度を引き下げて中枢性疲労を減少させるという仮説はには多くの疑問が残ります。古い考えと言ってしまってもいいかもしれません。

おそらく、トレーニングでBCAAを多量摂取され、かつ寝づらさを感じている方は、BCAA摂取によりトリプトファン吸収の阻害→脳内セロトニン濃度が低下→睡眠ホルモンメラトニン生成の阻害→睡眠の質の低下というサイクルを引き起こしているとも考えられます。

※セロトニン仮説に関しては全てが解明されていませんが、最近では運動による疲労感の増大はセロトニン作動性神経の活性化によることよりも脳内でのTGF-βによる中枢性疲労発生機構なども見出されています。

メーカーが勧める理由④「運動中の筋肉の合成を高める」

「運動直前や運動中にBCAAを摂取することで筋肉の合成を高める」という仮説は、嘘偽りのない真実です。

しかし、必須アミノ酸の量が多いほど筋タンパクは合成するものなので、BCAAよりも「必須アミノ酸サプリメント」や「ペプチドサプリメント」として必須アミノ酸を多く摂取する方が効果がより高くなります。

さらに、最近このことは多くのトレーニー、アスリートの間で広く知れ渡ってきているようです。また前途した国際スポーツ栄養学会の評価においてもBCAAよりもEAAの方が筋肉合成の評価は高く位置付けられています。

さらに、EAAなどと一緒に糖質を同時に摂取することで、インスリン反応によるタンパク質の合成は高まります。筋合成というポイントでBCAA単体のサプリメントを摂取することはインパクトの大きいものとは言えないでしょう。

メーカーが勧める理由⑤「運動中の筋肉の減少を抑える」

「BCAAを運動直前や運動中に摂取することで筋肉の異化(溶かす作用)を減少させる」という仮説も嘘偽りのない真実です。

しかし、これらも必須アミノ酸やペプチドのサプリメントを摂取する方がより異化の防止に役立ちます。当然同じく糖質を加えることでより異化の防止も高まります。

市場で販売されているBCAAサプリメントについて

ここからは、市販されているBCAA商品について、さらに切り込んで行きたいと思います。

商品ごとに値段が異なる理由

BCAAだけを配合した商品もさまざまですが、メーカーによって大きく値段が異なります(※注記:BCAA以外を配合している場合は今回割愛させて頂きます)。

同じBCAAでも、なぜメーカーによって値段が違うのでしょうか? 違いを生む大きな要因は下記の4つです。

1.原料や資材メーカーの違い
2.工場の違い
3.ロット数の違い
4.その他費用の違い

原料であるアミノ酸の主なメーカーは、国内だと2社が最大手となりますが、そのほか海外にも多くの原料メーカーが存在します。当然、生産国によって非常に安い原料も存在しますし、その逆も然りです。

そして、それは資材も同じです。最終製品まで加工する工場によって発生するコストは異なり、海外原料を海外工場でパッキングするほうが当然費用は安く抑えられます。 ただし海外工場では衛生面や、そもそものコンプライアンスが破綻している工場もあります。

例えば、日本メーカーの原料を配合するよう工場に指示を出しているのに、実際はその工場は安い外国産の原料を混合して製品化している、なんてことも起こる可能性があります。残念なことですが、日本でも食品の産地偽装問題などニュースで聞くことがありますね。

発注ロットに関しても、一度に発注する量を大口にすれば当然単価は安く抑えられますが、これには限界があります。

そのほか、ドーピング検査費用の有無、倉庫費用、配送費用、広告費用、卸販売をするのかネット直販なのか、といった販売側の事情も商品価格に影響してきます。

余談ですが、メーカーによってはドーピング検査をしていないのに、世界アンチドーピング機構に遵守した製造をしているといったような表記をしているメーカーもあります。

サプリメントのドーピング問題は製造中の過程でドーピング禁止物質が混入してしまうことが最大のポイントなので、最終製品の検査を実施していないメーカーの宣伝文句には注意しましょう。検査を実施している会社は製品に検査機関のロゴ、もしくはWEB上で検査証明書を公開しています。

商品製造にはメーカー側のさまざまな事情があり、一概に安いから良いというわけではないということが見えてきたのではないでしょうか。

「BCAA 〇〇グラム配合!」は嘘?

「ホエイプロテイン中にBCAAが〇〇グラム含有!」なんて書き方をしているメーカーさんを見かけたことはありませんか?

プロテインに単体のアミノ酸としてBCAAを添加していないにも関わらず、アミノ酸組成としてBCAAが含まれることを、あたかも単体のアミノ酸としてBCAAが含まれていると広告することは、消費者を誤認させてしまう可能性が高い表現です。

私が開発したカゼインプロテインを例に挙げると、アミノ酸組成としては当然、バリン、ロイシン、イソロイシンが含まれていますが「BCAA〇〇グラム配合!」という表現はもちろん行っておりません。

しかし、消費者を誤認させる表現の場合、このアミノ酸組成の合計値で「100g中BCAA〇〇g配合!」と謳っているということです。 このような表記だと、純粋にBCAAが含まれているプロテインだと誤認してしまうのではないでしょうか。

国産原料使用という表記に隠された真実

「国産のアミノ酸使用」を謳っているメーカーさんもいらっしゃいますが、100%使用なのか、全体の少量だけ国産品を使用しているのか、という問題もあります。

前途のように、サプリメントメーカー自体が工場に騙されているケースもありますが、残念なケースとしては意図的にロイシンだけ国産100%使用し、バリンとイソロイシンは中国産を使用するといったことも起こり得ます。

悲しいことですが、「国産使用」の表現があっても一概に安心はできないということですね。

まとめ

「BCAAを飲む必要があるのか、それともないのか?」最後に私見の総括を述べさせて頂きます。

冒頭でも結論として記載しましたが、もし他にタンパク質サプリメントが一切存在しないのならば、飲んだ方がいいでしょう。 しかし、昨今のようにあらゆる形態のタンパク質サプリメントが出ているなかでは、BCAAはそれほど重要な存在ではなくなっています。

本当にBCAAが必要と考えているなら弊社でも早期に商品化していますがBCAA商品を販売していないことが、「BCAAを飲む必要があるのか?」という問いに対する私の答えです。

サプリメント業界の裏側について厳しめに書いてきましたが、商品を見極める目や知識がないと、良い商品に巡り合えない可能性もあります。 「せっかく投資するならより良い商品に出逢ってほしい」と願って、今回は正直な気持ちを記事にしました。

★目的別:アスリートのためのエルゴジェニック商品

私自身がアスリートとして生涯最高のパフォーマンス、すなわちピークパフォーマンスを成し遂げるための栄養戦略を追求するという想いから商品を開発しています。目的ごとに様々なラインナップを揃えておりますので、以下のボタンからご覧ください。

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講師は2011年〜2023年の間、全日本選手権パワーリフティング105kg級(フルギアカテゴリー)で12連覇を達成したPPN代表 阿久津貴史(2004年〜NSCAストレングス&コンディショニングスペシャリスト)です。現在は東京都立大学 大学院 人間健康科学研究科 知覚運動制御研究室に所属して、パワーリフティング種目の運動制御に関する研究をしています。

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