真木 伸一
株式会社 Re-Vive代表取締役 「怪我で競技を引退する選手がいなくなる社会」の実現に貢献するというミッションの元、明治大学ラグビー部でのトレーナー活動に10年以上従事。
一橋大学アメリカンフットボール・WJBLシャンソン化粧品女子バスケットボール部・東京大学体育会アメリカンフットボール部・学習院大学体育会アメリカンフットボール部などに帯同してきた。
個人では、ラグビー日本代表キャップを持つ松橋周平選手・柔道リオ五輪・東京五輪代表 高市未来選手・バトミントン日本代表 奥原希望選手などのほかラグビー・サッカー・フェンシング・トランポリンの日本代表選手を含むトップアスリートをサポートしている。
また近年はNSCAカンファレンスへの登壇、治療家向けの合宿開催などその活動の幅を教育・啓蒙にも広げている。
阿久津 貴史
PPN代表、元パワーリフティング選手。2012年に日本記録を樹立し初優勝して以来、12連覇を達成。2023年の世界大会を最後に現役を引退。
現在は「人間の持つあらゆる能力をいかに高めるか?」という個人的な探究のため、プライベートでは東京都立大学大学院知覚運動制御研究室で研究生活をスタート。NSCA-CSCS・NSCA-CPT(20年以上保持者)/認定スポーツメンタルコーチ
パワーリフティング競技の普及のため、2020年から日本パワーリフティング協会アスリート委員の委員長、東京都パワーリフティング協会の副理事長にも就任し組織運営と大会運営に精力的に携わっている。
また日本人のメンタル・フィジカル・スキルの3要素を極限のレベルに高めるという想いを形にすべく、2012年から東京都練馬区豊玉北にパワーリフティングジム「Team X-treme Power!!!」(TXP)を設立し、選手が成長しやすい環境作りにも尽力している。現在TXPは国内の主要4大大会で団体優勝を20回達成(2024年時点)
トレーナーの世界を志した理由
阿久津:真木先生、今回はインタビューへのご協力誠にありがとうございます。最初に自己紹介をお願いできますか?
先生のスポーツキャリア、治療家を目指された経緯、今に至るまでの道のり、普段どういった競技の選手を診られているのかなどに関してお願い致します。
真木:私がトレーナーの世界を志した理由は、多くの才能ある友人が道半ばで怪我を理由に競技を引退していたからです。小学生の頃野球をやっていましたが、その時に一緒にやっていた友人は、大学生になるくらいまでにみんな野球を辞めていました。
高校時代にハードな練習で怪我をしても、レギュラー争いから外れたくないから怪我したことを言い出せない、伝えても休ませてもらいない、などの理由でまともに競技を続けられなくなった選手がたくさんいたことを知りました。そこから、この環境をなんとかしたい、と思いトレーナーを志すことにしました。
よろしければ、こちらの記事をご覧いただくとその経緯についてまとめて書かせていただいております。
トレーナーとしての最初の仕事はS & Cといって、選手のストレングス(筋力強化)に関わる仕事をさせていただいていました。しかし、当時の自分はメディカルに関わる仕事がしたくて、もう一度学び直そうと理学療法士の学校に行き、資格を取得しました。それからは、理学療法士としてスポーツ選手の治療に詳しい先生方のもとでたくさん学ばせていただき、スポーツ現場でもトレーナー活動を続けてきました。
ありがたいことに、スポーツ現場のお仕事が増えてきて、病院での仕事に影響が出てしまうほどになってしまったため、病院を辞めて選手のコンディションに関わるための施設「Re-Vive」を立ち上げました。そこでは、ラグビーリーグワンの選手や、柔道、格闘家やバトミントン選手など、日本を代表する選手たちに関わらせていただいています。
日本スポーツ協会公認アスレチックトレーナーでもあり、東京オリンピックの会場救護なども担当。トップレベルの現場サポートを行っている。
怪我で引退する選手のない世界を実現するための治療スタイル
阿久津:詳しくありがとうございます。先生はアメフトで高校の全国大会で優勝されてるんですね!知りませんでした。
先生がnoteに書かれている”「今どき怪我で引退する選手っているんだねぇ」という社会を作りたい”という言葉は響きました。そんな先生の治療スタイルはジャンルとしてどういうジャンルになるのでしょうか?
真木:はい、高校時代はアメリカンフットボールをやっていて、日本一になることができました。ご指導いただいた監督・コーチ陣が素晴らしい方々で、あの環境でプレーさせていただいたことは、今選手と関わる上で私の財産になっています。
治療のジャンル、というのは難しいのですが、1番の強みは理学療法士としての経験で、ヒトの身体の構造と機能を紐解いて、もっとも合理的な動きを実現するために必要なことを施していくという形です。
手段として、ある時は徒手療法で、ある時は運動療法で、ある時は自律神経にもアプローチしますし、その方法は多岐にわたります。 徒手療法に関しては、ヒトの進化や比較解剖学などから導いた独自の理論を形にして実施しています。
運動療法は、ヒトの身体の構造と機能、発育発達に基づく段階的アプローチを行なって、その人がもつ本来の強さ、回復力を引き出すための方法をとっています。
アメリカンフットボールをはじめ、様々な選手・チームとトレーナーサポート契約を結び怪我人の管理やリハビリ、トレーニング指導を実施。自身もアメフトで高校の全国大会で優勝した経験がある。
キャリアの転換点について
阿久津:ケース毎に最善の方法でアプローチしてくださる先生は選手として本当に頼りになります。先生はトレーナーから理学療法士の学校へ、病院を辞めて独立と、思い切った行動をされてます。こういった転機の際には悩んだりされたのでしょうか?
それとも、思い切って「えいっ」と決断されたのでしょうか?noteに書かれている記事から先生のキャリアを通して自分の心の声に正直に生きている感じが伝わってきます。
私もそういう自分の内なる心の声を「魂の叫び」と読んでいて、身近な人間には「魂の叫び」を大切にした方がいいと言っているのですが、いつかはセカンドキャリアを考えることになる現役アスリートさんもこの記事を読まれるので、先生はどうだったのか教えていただければ幸いです。
真木:ありがとうございます。実際に治療やトレーニングを受けていただいているトップ選手にそうおっしゃっていただけると、少し安心します。
魂の叫び、はとても響きますね。。 キャリアの転換点では、いつも悩んでいます。
よく言えば行動力はある方だと思いますが、悪く言えば考えが足りないことも多いです。もっと周到に準備したり、よく勉強したりしてから動けば良いのですが、細かいことが苦手なので「やってみたらなんとかなる!」と思って飛び出してしまうことが多いかもしれません。とはいえ、実際なんとかなってきました。
一つ言えるとしたら、「自分がこうなりたい!」「もっとこういうことを実現したい!」と思うことに対する学びの時間と労力は費やしてきたように思います。 私を支えてくれているのは、トレーナーという仕事に対する熱意で走り続けた20代・30代の学びの時間だと思います。
もちろん、たくさんの方に大変お世話になって基礎を作ってこれた事が大きくて、迷ったら基本に立ち返ること、と言い聞かせながら選手に向き合えています。それでも、まだまだ課題は山積していて、60歳くらいまでにはもう少しまともなトレーナーになれたらいいなと思っています。
阿久津:やはり先生はご自身でも行動力があるとご認識されているんですね。側から見ててもそう思います。迷ったら基本に立ち返ること、本当に基本、基本、基本が大事ですね。
ヒトの体との向き合いかた
阿久津:個人的な興味なのですが、先生が得意としている関節や怪我というのはありますか?ちょっと変な質問ですが好きな関節とかもあるのでしょうか?笑
真木:今は特にありません(^^)。
7〜8年くらい前までは、症例をたくさん見ていたこともあって膝関節と肩関節の治療が得意でした。今考えるとその当時はたくさん見ていたから少し経験値が高かっただけで、得意と言えるほどのものでもないと思います。 ヒトの進化や系統発生をたどる旅に出て、動物の体、とくにヒトって、芸術作品だと痛感しました。非常に精密・精巧にできていて、どの部位を取っても、その構造と機能はため息が出るほど素晴らしいものです。
だから、知れば知るほど面白くて、どこが得意とか、好きとかなくなりました。もともとその関節や器官はどのような働きをもっているのか、どんなふうに振る舞える必要があるのかをわかっていれば、そこへ辿り着くための手段をその時その時で選択していくことで解決の道筋が見えます。
そういう具合にしていると、得意としている関節とか怪我、っていうのはなくなって、みんな同じに考えられるようになってきました。
阿久津:奥深いですね。例えば脳に関してもまだまだわかってないことが多かったりしますよね。10年20年前に科学的に正解だとされていたことが今は違ったり、未知の世界の可能性にとても惹かれます。
「ヒトの体は芸術作品。どの部位を取っても、その構造と機能はため息が出るほど素晴らしい。」と真木氏は語る。
継続的に伸びる選手とそうでない選手の違い
阿久津:選手に関することを聞かせてください。先生は多くのアスリートの方と日頃から接していらっしゃいますが、先生が考える「伸びる選手の特徴」があれば教えていただけますか?ある程度のところまではいくけどそれ以上中々伸びない選手と継続的に伸びる選手がいますよね。
あとたまにありますが、この選手はそこまで伸びないなぁなんて思っていた選手がかなり良いところまでいったりしますよね。そういう選手との出会いがあれば同じくどのような特徴があったかも教えていただけますか?
真木:面白い質問ですね。。
1番は、「リテラシーの高さ」ではないでしょうか。選手は、競技の中でうまくいかない局面や、成功した場面で、「何がよくて、何が良くないのか」を分析して次の行動に反映していかなければなりません。
指導者が教えてくれたことに対しても、何を言われたのか理解して次の行動を変える。また、監督や選手を試合に使う側の人間が、どのような選手を求めていて、どんな部分が自分に足りないのか、自分の強みはどこで、弱みは消すべきかどうか、などをしっかり理解していかないと、ただ練習を繰り返していくだけになってしまいます。
ある意味でビジネスマンと同じようにSWOT分析が必要だったり、PDCAサイクルを回したり、とにかく戦略的に中長期的な成長プランを描ける選手がとトップで活躍できるのではないかと感じることが多いです。
うまい選手、強い選手、速い選手、能力が高い選手は五万といます。そこから頭一つ抜け出していくには、その辺に長けている必要があるのではないでしょうか。
阿久津:貴重なお話ありがとうございます。「リテラシーの高さ」も身体的な技術と同じく最初から高いレベルでできる選手はいないと思います。そういった意味で思考力を鍛えることを選手が若い時から教えてくれる指導者が近くにいてくれるかということは大事ですよね。
大谷選手が高校時代に取り組んでいたマンダラチャートなんかも経営コンサルのフレームワークの一種ですのでやはり良い選手には良い指導者があってなんでしょうね。
これもまた似た質問になってしまうかもしれませんが、リハビリをしっかり終えて復帰する選手としない選手の違いがあれば教えていただけますか?
真木:阿久津さんのおっしゃる通り、ご両親を含め、どのような指導者に出会えたかはとても大切ですね。 リハビリも同様だと思います。リハビリこそ、自分の体に何が必要で、どんな刺激が有効なのかを理解できる必要があります。
そして理解したら地道にそれを続けられる忍耐力とか目標志向が求められる。感覚でプレーしていて、やりたくないことはやらない!というタイプの選手は、競技場面でファンタスティックなプレーを観せてくれることがありますが、リハビリ、となるとなかなか難しい場合が多いです。
ただ、そういう選手は怪我にも強い場合が多くて、シンプルに回復力が高い選手も多い傾向にあるようにおもいます。
考えすぎる、思い詰めてしまう選手はリハビリが長引いてしまうことがありますし、感覚だけでやっている選手はなかなか治りづらい場合もある。真面目だから良い、不真面目だからダメ、という単純なことではなく、それはすごく面白いところですね。捉われていたら解放しなければならないし、感じられていなければ認識させなければならない。
これはリハビリを指導する側の人間にとってとても腕の見せ所になる部分だと思います。
実践しているトレーニングについて
阿久津:先生のお話を伺っていると選手の思考パターンも当然ヒューリスティックタイプ(直観思考)かロジカルタイプ(論理思考)に分かれますね。個人的には自分の思考の癖を理解して逆側の思考パターンも搭載できるようになると選手として大きく成長できると考えています。
先生ご自身は選手それぞれの性格に合わせてリハビリのサポートをされるのは本当にエネルギーも必要ですし時間も必要だと思いますし改めて有難いことだなぁと思っています。 そんなご多忙な先生ですが、インスタ等にも公開されていますが、真木先生ご自身凄いトレーニングされてますよね。
一日何時間、週どのくらいされているのでしょうか?
真木:自分の思考の癖を理解して逆側の思考パターンを搭載する・・・。確かに。とても参考になります。 阿久津さん、、凄くはないですよ。。。汗
正直、決めていません。。
定期的に走ること、毎日ぶら下がること、逆立ちして歩くことだけが自分に課している課題です。Mobilityのワークや、flowのトレーニングなどは選手と一緒にやってますし、週に1回はブラジリアン柔術で汗を流します。
とても弱くて恥ずかしいのですが、身体の使い方、相手の重心や意図を感じる駆け引きなど、学びになることが多いです。
阿久津:ぶら下がることと、逆立ちは日々の課題ということですが、この2つの動作にはどういった意味があるのでしょうか?
真木:簡単にいうとヒトが持つべき身体機能の基礎を失わない、ということだと思ってます。動物の体には、「使うか失うか」という法則があります。
ヒトのlocomotion(移動動作)は二足歩行が基本ですが、毎日歩いているのでその機能はなくなりません。ですが、ぶら下がるための機能は、もともと持っているにもかかわらず使わないから消退していく。進化の過程を一つ遡ると、その生活空間は樹上空間でした。
そこで3次元的な空間認識能力と移動能力を培った祖先は、陸に降りて下肢で効率的に移動する能力を獲得したと言われています。ぶら下がることによって得られる掌・指への感覚入力量の増大は、コアの制御に影響して姿勢保持能力を高めてくれますし、上肢の筋膜連鎖は体幹-下肢への運動の繋がりを教えてくれます。
理屈で言うとそんな感じですが、、ただ単純にぶら下がれた方が強いっしょ、って感じることができるから、っていうのが続けられている理由かもしれません(^^)
逆立ちで歩くのは、上肢帯安定のための基礎アライメントの理解と構築、前庭系への負荷と適応を意図しているといえばしていますが、これも、逆立ちで歩けるって楽しいな、という感覚で続けています(^ ^)
阿久津:詳しくご説明いただきありがとうございます。ぶら下がりと逆立ちやるしかないですね!
真木氏おすすめの書籍
阿久津:先生のところに治療にお伺いすると、私の前のクライアントさんと入れ違いのタイミングでない場合は必ずと言ってよいほど読書されてますが月に何冊くらい書籍を読まれますか?
あとアスリート向けにお勧めの本があればジャンル問わず教えていただけますか?私も先生にジェームス・J・ギブソンなど教えていただき大変影響を受けています。
真木:お恥ずかしい話ですが、何冊、とか数えていないですし、目標も決めていません。すらすら読める本もありますし、難しくて理解が追いつかず、買ってから4年経ってまだ半分くらいしか読めていない本などがあります。。
だから、その月によって本当にバラバラです。。だから、たくさん本を読んでいると言えるほどではないと思います。ヒトの身体のことに関する本ばかり読んできていたので、今はもっと自由に本を楽しみたいと思っています。 アスリートにおすすめできる本は、、たくさんありますが、最近読んだ本で面白かったものを挙げておきます。
・室伏広治 超える力 :競技への向き合い方について教えてくれるように思います
・ロブ・ダン ヒトという種の未来について生物界の法則が教えてくれること:ヒトは地球で暮らす生物で、特別な存在ではないということに気づけると思います
・ジェームズ・ネスター Breath :よく噛むこと、ちゃんと呼吸することがなぜ大事か教えてくれます
・寒川恒夫 日本武道と東洋思想:人を殺める術としての武術、修練を目的とした武道、その違いと捉え方、日本人の持つ精神性との関係について掘り下げてくれているとおもいます
真木氏の目標と選手に向けてのメッセージ
阿久津:先生の今後の目標を教えていただけますか?
真木:目標といえば、ヒトの体が本当の意味で逞しくなれる、回復できる、そして解放される空間を作りたいと思っています。患部の治療やトレーニングだけが、リハビリではありません。食・環境・生活、全てがコンディションを整えてくれます。痛みや不調の改善と競技能力の向上に役立つresilience、それが醸成できる場所で選手を迎え入れることができたらいいなと思っています。
阿久津:空間という表現が先生らしいなぁと思いました。その空間ができるとまさにアスリートにとって最高の環境になりそうですね!本日は貴重なお話をお聞かせいただき誠に有り難うございました。選手の皆さまへ一言いただけますか?
真木:スポーツをする以上、その目的は「勝つこと」だと思います。ですが、それは試合における目的です。スポーツを通して得られる経験や成長は、あなたの人生を必ず豊かにしてくれます。
人生を賭けた勝負の瞬間が競技の場面で訪れたとしても、自分が愛した競技を心から楽しむことを忘れないでください!
Re-Viveのご紹介
目指すのは、怪我を理由に競技をやめていく選手がいない社会。Re-Viveではたくさんのアスリートと多くの時間を共有してきましたが、それでもなお、日本スポーツ界において「怪我を理由に引退する選手」が後を断ちません。
「もっと早く出会いたかった、現役の頃に知りたかった、子供の頃からやっておけばよかった。」そんな声をよく聞きます。
ただ復帰するだけじゃない、前よりもっと良くなった自分に出会える場所。そんなメソッドや場所を提供するのがRe-Viveです。お問合せはこちらから。