注意機能とトレーニング エクスターナルフォーカス

注意機能とトレーニング エクスターナルフォーカス

10月22日(日)8時28分に下記のメルマガを配信いたしました。次回は注意機能とトレーニングの最終節を配信予定です。

 

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「氷に圧力を与え続けるように我慢しているだけだ。」



スピードスケートの金メダリスト、ジェレミー・ウォザースプーンの一言です(コンテクスチュアルトレーニングより抜粋)。



この節で取り扱う「エクスターナルフォーカス」を完璧に実践している代表的な表現の一つと思い使わせていただきました。




注意機能とトレーニングメルマガのシリーズ5回目はインターナルフォーカスとエクスターナルフォーカスの違いに関して理解を深めていきたいと思います。

 

 

・インターナルフォーカルとエクスターナルフォーカス

 

1回目のメルマガでもご紹介したように注意が運動学習にもたらす研究の世界的権威であるGabrile Wulf氏は「どれだけ上手に運動を遂行して学習できるかは、大部分が何に注意を向けるかに依存している。」と述べています。



ウォザースプーンのように身体外部へ注意を向けることをエクスターナルフォーカスと言います。逆に身体そのものに注意を向けることをインターナルフォーカスといいます。



一般的な筋トレにおいて、例えば大胸筋を肥大させたいトレーニーに対して、トレーナーは「これからベンチプレスをしますので、大胸筋のストレッチと収縮を意識して動作してください。」というような指示を出します。このタイプの注意の向け方がインターナルフォーカスの典型です。



重いベンチプレスを挙げることが目的のトレーニーに対しては「ベンチプレス台のパッドに対して圧力をかけ続けることを意識して動作してください。」というような指示をトレーナーが出した場合、この注意の向け方は身体外部へ向けているのでエクスターナルフォーカスとなります。さらに細かいところを言うとパッドに与えている圧力に注意を向けるのと、パッドに当たっている肩甲骨エリアの設置部分(身体内部)に注意を向けるのも違った注意の向け方です。



先述のウォザー・スプーンの表現のように多くのトップアスリートはエクスターナルフォーカスを自然と実践しています。



そもそも高いパフォーマンスを発揮するにはエクスターナルフォーカスを実践した方が良いことが多くの研究で分かっているのですが、教わってもいないのにも関わらずトップアスリートはそのような注意の向け方を自然と獲得しています。



例えば私がしているパワーリフティングの競技においてもスクワットの強い選手ほど「担いでしゃがんで床を押すだけ。」とか、デッドリフトの強い選手ほど「床を全力で踏んでるだけ。」というような表現をします。そしてそういったタイプの選手に関して周りは才能があるからあまり考えないでいいんだよね、という風に解釈してきましたが、実はそこに良いパフォーマンスを発揮するためのヒントがあるのです。



そのヒントとは何でしょうか?



以下、注意と運動学習より抜粋したコメントになります。



運動を行っている当事者が意識的に制御しようとして邪魔しない限り、人間の運動システムは効率的に機能する。(運動制約仮説)



人の身体はとてもとてもよくできていて、目的の動作を達成するために全身が自動的に協応して制御されるように元来できているのです。にも関わらず「○○筋を意識する」というような個別の筋肉に注意を向けた制御(インターナルフォーカス)をすることで、本来無意識的に制御されていたスムーズな協応システムが壊れてしまうのです。



もちろん初心者の方は、そもそも初めて行う動作の制御自体を知らないので一つ一つ分解して学習することも有効です。つまりトレーニングレベルや運動経験などを含めて個体差に応じて有効な注意の向け方は変わってくるとも言えます。




エクスターナルフォーカスを実践するポイント

 

①欲しい結果そのものに注意を向ける

②近くの物より遠くの物に注意を向けた方が有効

②環境を正しく捉える



①について

例えば、サッカーのPKの際にゴール左上の角のエリアにボールを蹴りたいとします。そのために軸足の重心の掛け方をこうして、左腕はこう降って、蹴る側の大腰筋をこう収縮させて、なんてことを考えていたらボールを飛ばしたい場所に飛ばせませんよね。シンプルにボールが通過する場所を意識した方が飛んでいきます。




②について

例えば、目の前1メートルの距離にある的にボールを当てる場合と、2メートル離れたところに当てる場合では、2メートル離れた距離にある的にボールを当てる場合の方が高い精度を要することは容易に理解できるかと思います。人間の機能は優れているためにこのように身体から離れた場所により注意を向けた方が精度の高い動きを自動的に出力します。せっかくこのような自動制御の仕組みを搭載しているのに、1メートルの距離の的に向けてボールを投げる場合より2メートルの距離の的にボールを投げる際には手首のスナップを2倍ほど強めにしよう、などという方略を用いるとほぼうまくいきません。連鎖の波の1箇所だけに焦点を当ててはいけないのです。エクスターナルフォーカスの際は身体から遠くに注意を向けるだけでなく、例えば精度を高めたいのであればエクスターナルフォーカスするポイントをより小さい範囲にするという方略も有効かもしれません。より大きな力を出すことを目的とするのであれば大きな面積、大きな体積へ圧力をかける注意の向け方が有効かもしれません。以前にアームレスリングの世界チャンピオンになった金井選手が「電信柱をバキーッと折るイメージ」というような表現をされていましたが(正確な表現は失念しております)正にエクスターナルフォーカスの究極的な実践といえるかと思います。



③について

人の動きは周辺環境の情報の影響をダイレクトに受けます。この分野は生態心理学の分野でアフォーダンスとして建築などにも応用されています。例えば、目の前に10cmの段差と50cmの段差があった場合、10cmより50cmの段差を昇降する時の方が、自然と前脚を高く持ち上げます。50cmの段差だから大腰筋の収縮をもっと出して脚を持ち上げよう、などと考える人は中々いないでしょう。自動的に段差を越えるのに必要な脚の高さを計算して動きとして出力しているわけです。しかし、50cmの高さを的確に捉えられない場合は脚が段差に引っかかって越えられなくなります。理解しておく必要があることは脳内でイメージされた世界が現実の世界と寸分違わずイメージされているかと言うとそうではないことが多々あるということです。今回は注意の向け方がメインテーマですのでアフォーダンスに関しての詳細説明はまた違う機会にさせていただきますが、エクスターナルフォーカスを実践する際に、環境を正しく捉えることが大切ということは頭に入れておいてください。そのためには何より環境をしっかり観察することが大切です。



次回は注意とトレーニングメルマガの最終回です。

今回も最後までお読みいただき誠にありがとうございました。

 

 

 

阿久津貴史


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