ISSNポジションスタンドから読み解く
EAAの科学
EAA(必須アミノ酸)は、筋タンパク質合成やスポーツ栄養を考えるうえで、 非常に重要な栄養素です。
一方で、アミノ酸サプリメントについては、 「BCAAとEAAは何が違うのか」 「プロテインを飲んでいればEAAは必要ないのか」 「運動前と運動後では、いつ摂るべきなのか」 といった疑問も少なくありません。
今回の「PPN Research Pick」では、 国際スポーツ栄養学会(ISSN)が2023年に発表した EAAに関するPosition Standを取り上げます。
個別の研究結果だけではなく、 これまで蓄積されてきた研究をISSNがどのように整理し、 EAAについてどのような公式見解を示したのか。 アスリートにとって重要なポイントを中心に読み解いていきます。
なぜこの論文に注目したのか
今回取り上げる論文は、ひとつの実験研究やメタ解析ではありません。
ISSNのPosition Standとは、 あるテーマについて蓄積された研究を専門家が包括的に検討し、 Research Councilなどによる審査・承認を経て示される 学会としての公式見解です。
今回のPosition Standでは、 EAAが筋タンパク質合成、筋量、身体機能、運動との相互作用などに どのような影響を及ぼすのかが幅広く検討されています。
現在の科学的知見から整理したPosition Stand。
そもそもEAAとは何か?
EAAとはEssential Amino Acids、 日本語では必須アミノ酸を意味します。
ヒトが体内で必要量を合成することができず、 食事などから摂取する必要がある必須アミノ酸は9種類あります。
ヒスチジン
イソロイシン
ロイシン
リジン
メチオニン
フェニルアラニン
スレオニン
トリプトファン
バリン
重要なのは、 この9種類のうちどれかひとつでも相対的に不足すれば、 タンパク質合成を制限する要因になり得るということです。
EAAとBCAAは何が違うのか?
BCAAは、ロイシン、イソロイシン、バリンという 3種類の分岐鎖アミノ酸の総称です。
つまり、BCAAとEAAは別々のものではありません。 BCAAは9種類のEAAに含まれる3種類のアミノ酸です。
9種類の必須アミノ酸のうち3種類を指します。
BCAA、とりわけロイシンには、 筋タンパク質合成に関わるシグナルを刺激する重要な役割があります。
しかし、ここで今回のPosition Standの非常に重要なポイントが出てきます。
なぜ「9種類すべて」が重要なのか?
ISSNは最終的なPosition Statementの中で、 個々のEAAやBCAAのような一部のEAA群でも、 筋タンパク質合成の刺激過程を開始し得るとしています。
一方で、 有意かつ持続的な筋タンパク質合成の刺激には、 すべてのEAAを摂取する必要がある と整理しています。
刺激を開始し得る
持続的な合成を支える
筋タンパク質を新しく合成するためには、 シグナルを入れるだけではなく、 実際にタンパク質を構成する材料となるアミノ酸が必要です。
いずれかのEAAが不足すれば、 タンパク質合成の過程を最後まで進めることができず、 そのアミノ酸が制限因子となります。
しかし、BCAAだけでは完結しない。
これは「BCAAには意味がない」という話ではありません。
BCAA、とりわけロイシンが果たす役割と、 9種類すべてのEAAを供給することの意味は、 分けて考える必要があります。
EAAとプロテインは、どう違うのか?
EAAについて考えると、 「十分にプロテインを摂っていれば、それでいいのではないか」 という疑問も生まれます。
高品質なタンパク質は、 9種類のEAAを含む重要な栄養源です。 したがって、EAAとプロテインを単純に 「どちらが優れているか」で考えるべきではありません。
一方、今回のPosition Standでは、 遊離型EAAは消化を必要とせず速やかに吸収され、 血中EAA濃度を迅速に上昇させる という特徴が整理されています。
また、遊離型EAAは同量の完全なタンパク質と比較した場合に、 筋タンパク質合成を強く刺激することが報告されています。
EAAは、どのくらい摂ればよいのか?
ISSNのPosition Standでは、 安静時におけるEAA摂取と筋タンパク質合成の間に 用量反応関係があることが整理されています。
比較的少量のEAAでも筋タンパク質合成は刺激され、 安静時では約15~18g付近で刺激がプラトーに達すると考えられています。
ただし、 「量」だけでなく「組成」も重要です。
特に加齢によって筋の同化感受性が低下した集団では、 より高い割合のロイシンを含むEAA組成が必要になる可能性が示されています。
EAAは運動前か、運動後か?
スポーツ栄養では長年、 「トレーニング後に何を摂るか」が大きく注目されてきました。
しかし今回のPosition Standでは、 EAAと運動の作用は単純な足し算ではなく、 相互作用的であると整理されています。
運動によって活動筋への血流が増加し、 同時に血中EAA濃度が高まることで、 筋へのEAA供給が増加すると考えられています。
運動開始前からEAAを利用可能にしておく。
したがって、 「運動後では意味がない」ということではありません。
むしろ重要なのは、 運動による刺激とEAAの利用可能性をどのように組み合わせるか、 という視点です。
減量中こそ、EAAをどう考えるか
体重階級制競技や持久系スポーツでは、 意図的なエネルギー不足が生じることがあります。
エネルギーが不足すると、 摂取したEAAの一部がタンパク質合成ではなく エネルギー産生のために利用される可能性があります。
そのため今回のPosition Standでは、 エネルギー不足時には全身のEAA必要量が増加する ことが重要なポイントとして挙げられています。
Position Standで紹介された研究のひとつでは、 30%のカロリー不足を5日間続けた条件で、 全身タンパク質バランスを正にするために EAA摂取量を大きく増加させる必要がありました。
ISSNが示したEAAの重要なポイント
今回のPosition Standは、 EAAについて15項目の公式見解を示しています。
その中でも、スポーツ栄養を考えるうえで特に重要なのは、 次のポイントだと考えられます。
02|一部のEAAだけではなく、9種類すべてのEAAが持続的なMPSに重要。
03|EAAと運動には相互作用がある。
04|運動後だけでなく、運動前のEAA利用も重要。
05|エネルギー不足ではEAA必要量が増加する。
私が20年以上、EAAを重視してきた理由
私がパワーリフティングを始めた2001年頃、 スポーツサプリメントの主流のひとつがBCAAでした。 当時スポーツをしていた方であれば、 BCAAを前面に打ち出した製品が数多く販売されていたことを 記憶されているかもしれません。
当時、BCAAが注目されていた理由のひとつには、 筋タンパク質を構成する必須アミノ酸の中でも大きな割合を占めることや、 運動時のエネルギー代謝に関与することなどがありました。
しかし私はその頃から、 「BCAAだけで本当に十分なのだろうか」 という疑問を持っていました。 タンパク質を効率よく合成するためには、 みなさんご存知のように材料となるアミノ酸が バランスよく揃っている必要があります。 必須アミノ酸のどれかが不足すれば、 それがタンパク質合成を制限するという考え方もあります。 であれば、BCAAだけを摂取するよりも、 必要な必須アミノ酸をすべて供給する方が合理的ではないか。 そう考え、私は競技を始めた頃から BCAAではなくEAAを主体に摂取してきました。
また、「運動中のエネルギー源としてBCAAを利用する」 という考え方にも、私は少し違和感を持っていました。 高強度運動に必要なエネルギーを考えれば、 まず適切な糖質を確保することが重要です。 アミノ酸をエネルギー源として積極的に利用することを主目的にするのは、 栄養戦略として効率的なのだろうかと考えていたからです。
その後、自分でサプリメント会社を立ち上げてからは、 吸収形態に着目し、 ペプチド原料に移行しました。
その後、遊離アミノ酸とジペプチドでは体内への輸送経路が異なることから、 「両者を同時に摂取すればいいのではないか」 というアイデアを思いつき、商品化に至りました。 2023年には、スポーツ栄養学の世界的な研究者である Ralf Jäger博士に直接お会いする機会があり、 この考えについてお話ししたところ、 博士もちょうど同様のテーマに着目している最中だと教えていただき、 関連する論文を一つ紹介していただきました(Paulussen et al., 2021)。 自分が製品開発の中でたどり着いた発想と、 研究者が注目しているテーマが重なった、 非常に興味深い経験でした。 その後2025年には、遊離EAAとジペプチドを組み合わせて摂取する ヒト研究も報告されています(Aguilera et al., 2025)。 今後、この組み合わせに関する研究が増えてくるかもしれません。
2001年に感じた「BCAAだけで本当に足りるのか」という疑問から20年以上。
今回のISSN Position Standを読むと、
当時は経験と栄養学的な考えから選択していたEAAについて、
現在ではその役割をより詳細な科学的知見から
理解できるようになったのだと感じます。
一部だけを見るのではなく、9種類すべてを考える。
量だけではなく、組成を考える。
運動後だけではなく、運動前から考える。
EAAを「何g摂るか」だけではなく、 どのような状態で、どのように利用するのかまで考えることが、 スポーツ栄養では重要です。
International Society of Sports Nutrition Position Stand: Effects of essential amino acid supplementation on exercise and performance.
Journal of the International Society of Sports Nutrition, 20(1), 2263409.
DOI: 10.1080/15502783.2023.2263409
Paulussen KJM, Alamilla RA, Salvador AF, et al. (2021)
Dileucine ingestion is more effective than leucine in stimulating muscle protein turnover in young males: a double blind randomized controlled trial.
Journal of Applied Physiology, 131, 1111–1122.
DOI: 10.1152/japplphysiol.00295.2021
Aguilera JA, Tinline-Goodfellow CT, Lees MJ, et al. (2025)
Dileucine-supplemented essential amino acids support whole-body anabolism after resistance exercise and serum-stimulated cell-based anabolism.
Journal of the International Society of Sports Nutrition, 22(1), 2590090.
DOI: 10.1080/15502783.2025.2590090