一口に登山といっても、一般登山として親しまれるハイキングから、登山道(トレイル)を走り抜けるトレイルラン、高度な登山技術を必要とする高所登山など、様々なものがあります。また、実際に山を登らないものの、登山のロッククライミングで使われる登攀技術をもとにしたスポーツクライミングも広く知られるようになってきました。
登山の愛好者人口や 1)、スポーツクライミングの人口 2)を踏まえると、合計で1000万人を超えるほどの規模です。そのため、もっと上達したい、長く楽しみたいというニーズも多く存在します。
身体に求められる要素や技術は登山のジャンルによって異なるため、「このトレーニングが一番役に立つ」「この栄養素やサプリメントをこのように摂取すれば、必ず役立つ」という最適解を示すことは難しいですが、共通する項目もありますので、スポーツ科学・栄養学やエルゴジェニックの観点からそれらを考察を行うことは可能です。
今回は、私がこれまで培ってきたエルゴジェニックエイドの知識や、過去の複数の研究を基に、「登山に役立つトレーニング・栄養・サプリメント」というやや広い切り口で解説しようと思います。
著者紹介
パワーリフティング全日本選手権12連覇・現日本記録保持
NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ
阿久津貴史 (公式HP)
1982年生まれ。パワーリフティングの競技者として活動するとともに、パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。
どのような目的で栄養素・サプリを選ぶべきか
まず、登山をするにあたって最も重要なことは、「安全に下山すること」です。しかしながら、今年6月に警察庁が発表した令和4年度の山岳遭難統計によると、遭難発生件数は3,015件 (前年対比+380件)・遭難者 3,506人(前年対比+431人)に達しており、統計を開始始した1961年以降の最多数を記録しています 3)。
遭難者3,506人について原因を見ると、道迷いが36.5%と最も多いのですが、次いで転倒が17.2%、滑落が16.5%を占めています。また、病気が8.1%、疲労が8.2%となっています。 これらの原因のうち、道迷いを除くいずれの項目もフィジカル(筋量、持久力、体力、心肺機能、アジリティ、柔軟性など)の要素が大きく関わっていることが想像できます。
例えば、下りで登山事故が多発する要因のひとつに、大腿四頭筋の疲労が挙げられます。大腿四頭筋は山を下りる時の踏ん張り(ブレーキ)によってスピードを抑える働きと、着地の衝撃を受けとめる働きの両方を担っています。疲労によって大腿四頭筋の筋力低下が進むことで、膝がガクガクして力が入らなくなり、バランスを少し崩した程度でも踏ん張れずに転倒や滑落が起こりやすくなるといわれています 4)。
つまり、「登山に役立つトレーニング」とは、登山において頻繁に使う筋肉の疲労を予防するためのトレーニング、また「登山に役立つ栄養・サプリメント」は筋疲労を軽減させる目的のものが良いと言えます。
登山時にどのような筋肉を使うのか?必要なトレーニングは?
冒頭で述べたとおり、登山にはさまざまな形態があり、それぞれ異なる筋肉が関与しています。そこで、一般登山(ハイキング)、トレイルラン、高所登山、ロッククライミング(スポーツクライミングを含む)の各ジャンルにおける主要な筋肉群とトレーニングを概説します。
一般登山(ハイキング)
主要筋肉:
下肢の筋肉(大腿四頭筋、ハムストリングス、ふくらはぎの筋肉)が中心です。登山道を歩く動作は、これらの筋肉を連携させることで成り立ちます。また、背中と腹筋も重要で、バランスを保ちながら荷物を背負うために必要となります。
トレーニング例:
こちらの研究では、短期間(5分間)のダウンヒル・ウォーキングが、筋肉への適応を促し、後に行う長期間(40分間)のダウンヒル・ウォーキングによる筋肉損傷を軽減する効果が確認されたことが示されています。
週に数回の頻度で登山の数週間前からトレーニングをスタートし、-28%の傾斜で5km/hの速度で5分間のダウンヒル・ウォーキングを行うことが推奨されています。また負荷として、体重の10%に相当する重さを背負いながらウォーキングを行うと良いとされています。
この短期間のトレーニングにより、登山に必要な負荷に対して筋肉が適応し、後の長時間の登山動作時における筋肉疲労が軽減させることが期待できます。
トレイルラン
主要筋肉:
下肢の筋肉、特に大腿四頭筋、ハムストリングス、そしてふくらはぎの筋肉が重要です。トレイルランでは地形の変化に応じてこれらの筋肉が頻繁に使われます。また、コア(腹筋と背筋)も重要で、安定性とバランスを提供します。
トレーニング例:
トレイルランニングは不均一な地形と様々な傾斜を駆け抜けるため、適応性と反応性が求められます。たとえば、舗装された道ではなくオフロードでのランニングによって適応性や反応性を高めたり、動的ストレッチ・神経系のトレーニング・バランス訓練を行うことで、筋肉に無駄な負荷をかけることや怪我のリスクを低減させることが期待できます 5)。
高所登山
主要筋肉:
高所登山では一般登山と同様の筋肉群に加え、高度な筋持久力と心肺機能が求められます。酸素が薄い環境でのパフォーマンスには特別な訓練が必要です。
ロッククライミング/スポーツクライミング
主要筋肉:
上半身の筋肉(特に前腕、上腕、肩、背筋)、コア筋群、そして指の筋肉が特に重要です。岩の突起を掴む力、体を引き上げる力、そして体を安定させる力が必要です。また、スポーツクライミングにおける怪我のほとんどは上肢の過緊張による怪我です 6)。
トレーニング例:
特定の部位のみに負荷がかかって過緊張を起こすことを防ぐために、バランス良く筋肉を発達させることを意識します。また、腕・肩・背中の動的ストレッチを実施することにより、筋肉の柔軟性を向上させ、筋肉の過緊張を防ぎます。
また、クライミング後の静的ストレッチは、筋肉の緊張を緩和し柔軟性を保つのに役立ちます。 動的ストレッチ・静的ストレッチについては、こちらの記事で深く考察していますので、是非参考にしてください。
登山に必要な栄養素・サプリメントとは?
ここまで、登山の種類別に必要とされる筋肉やトレーニングについて解説しましたが、それを基にここから栄養戦略やサプリメントについて、スポーツ栄養学やエルゴジェニックエイドの観点から考察します 7)。
一般登山(ハイキング)
栄養戦略としては、長時間の活動に対応するため、十分な炭水化物と水分を摂取することが重要です。登山前には複合炭水化物を含む食事を摂り、エネルギーレベルを維持します。
また、サプリメントは 電解質(特にナトリウムとカリウム)を含むものを水に飲んで混ぜたり、手軽にエネルギー補給ができるエネルギージェルもお勧めです。
トレイルラン
栄養戦略としては、高いエネルギー消費と速いペースに対応するため、簡単に消化できる炭水化物を中心に摂取します。レース中は小分けにして頻繁にエネルギー補給を行います。
サプリメントとしては、カーボローディング用の炭水化物サプリメント、筋肉疲労を軽減するためのアミノ酸や電解質としてマグネシウムが含まれているものを選ぶと良いでしょう。
高所登山
栄養戦略としては、高度が高くなるにつれて消化能力が低下するため、消化しやすい食品を選びます。高所での食欲不振に備え、高カロリーで栄養価の高い食品を選びます。
また、サプリメントとしては、高所での酸素不足に対応するための鉄分サプリメント、抗酸化サプリメントが選ばれる傾向にあります。
スポーツクライミング
栄養戦略としては、他の種目よりも筋肉が急激に使用されることから、それに対応するため、タンパク質の摂取が非常に重要です。競技前後には筋肉の回復を助けるためにタンパク質と炭水化物のバランスをとります。
また、サプリメントとしては筋肉回復を支援するためのサプリメント、エネルギー維持のためのクレアチンも有効です。
最後に、上記のいずれの登山種目にも言えることですが、筋肉だけでなく関節に対しても大きな負荷がかかります。そのため、関節をケアするサプリメントは登山と長く付き合っていくためには特に重要です。関節系のサプリメントは多く販売されていますが、できるだけ信用のおけるものを選ぶことをお勧めします。
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