言わずもがな、アスリートにとって身体の大きさは競技パフォーマンスに大きな影響を与えるため、非常に重要な要素です。それゆえに、身体が大きくならないことに悩む選手も少なくありません。
私自身、競技生活の中で必要な栄養戦略は常に試行錯誤しておりましたし、他のアスリートとのコミュニケーション・コーチングを通して、様々な知見を得ることができました。
そして「身体をデカくしたいのにうまくいかない」と悩む選手の場合、摂取カロリーが少なすぎて消費カロリーを賄うことができていないパターンが非常に多いことが分かりました。
今回は世界レベルの選手がどのようなカロリー摂取を行っているか紹介したうえで、身体を大きくするにはどのような食事戦略を取るべきなのか考察していこうと思います。 是非最後までお読みください。
著者紹介
パワーリフティング全日本選手権12連覇
NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ
阿久津貴史 (公式HP)
1982年生まれ。元パワーリフティング選手(2023年11月の世界選手権を最後に引退)。2010年〜2023年105kg級日本代表(2021〜2023年団長)。パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。
アスリートが理想の身体を手に入れるには?
競技パフォーマンスを最大化できる身体が、アスリートにとっての理想の身体といえます。身体を大きくしたほうが良い競技もあれば、逆にデメリットとなる場合もあります。
また、体を大きくすることが必要とよく言われるものの、とにかくデカければ良いというものでもありません。競技特性と自身の状況を鑑みて、どのように大きくするかを考える必要があります。
まずは競技の特徴ごとに、どのような身体が求められるか見ていきましょう。
①最大筋力を最優先する場合
筋肉の断面積と筋力には正の相関がありますので(1)、パワーを出すには除脂肪体重(LBM:体脂肪を除いた筋肉などの総重量)の増加が必要です。
たとえば、パワーリフティングといったように、筋肉が資本のパワー系&ストレングス系アスリートは、徐脂肪体重が競技成績と直結します。
私の例を紹介しますと、高校時代はボクシング選手だったこともあり、パワーリフティングを始めた際の体重は60kg台でした。結果的に10年ほどで100kgを越える身体になりました。
これは、競技に必要な筋肉を自分の限界まで高められるような練習と栄養戦略を取った結果です。
パワー系&ストレングス系アスリートの場合、筋肉の発達が最優先となりますので、タンパク質と炭水化物、脂肪分を積極的に摂り、できる限りカロリーバランスがプラスになるよう努めます。
ワールド・ストロンゲストマン(The World’s Strongest Man)選手の摂取カロリー
世界ナンバーワンの力持ちを決める大会「ワールド・ストロンゲストマン」をご存知でしょうか?毎年異なる国で開催され、世界中から集まった選手が、様々な種目を通じてその力と持久力を競います。
そして彼らの食事摂取を見ると、「食べることが仕事」と言っても過言でない内容になっています。ワールド・ストロンゲストマンの中でも特に有名な選手であるブライアン・ショー(4度の世界大会優勝)の食事が紹介されています。
一日に数千~一万キロカロリー強という大量のカロリーを摂取しており、上記の動画が撮影された日は合計10,432キロカロリーとなっていました。膨大なカロリーではありますが、非常に強度の高いトレーニングに必要なエネルギーを確保することを念頭に置いています。
栄養素の内訳という観点から見ると、彼の食事には、タンパク質、炭水化物、脂質がバランス良く含まれています。
パンケーキやパスタ、米といった炭水化物はエネルギー供給に、脂質はホルモンのバランスと全体的な健康に不可欠です。
また、特徴的なのは、バイソン肉(牛肉と比較して脂肪、コレステロールが低い)、卵、プロテインシェイクなど、高品質のタンパク質源を多量に摂取しているという点です。これは、筋肉の成長と回復を最大限にすることに重きを置いているためと思われます。
複数回に分けて食事を摂り、特にトレーニング前後の栄養摂取に注意を払っています。これにより、トレーニングのパフォーマンスを最大化し、かつ回復も促進させることを狙っているようです。
②最大筋力を増やすものの、余分な体重は増やさない場合
競技に必要な筋力は上げる必要がありますが、体重の増加が競技上デメリットとなるパターンです。
例えば、水泳の場合、重量という一面だけで考えると体重が軽いほうが有利になりますが、ただ軽いだけで動力となる筋肉の量が少ない身体ではパフォーマンスを発揮することはできません。
そのため、競技に必要な筋肉は発達させつつ、余分な体重を付けないよう配慮する必要がありますが、練習量に応じたカロリー摂取を心がけるという点が重要です。
水泳のアスリートレベルの練習量の場合、エネルギーの消費量が非常に多いため、とにかくカロリーを摂るよう意識しておくぐらいが丁度よく、カロリーが不足しないよう気を付けなければなりません。
水泳選手マイケル・フェルプス(Michael Fred Phelps)の摂取カロリー
五輪男子競泳で23個の金メダルを獲得した米国のマイケル・フェルプス。最高のパフォーマンスを発揮するために栄養豊富な食事が必要であること、および一流のアスリートが食事にどのように取り組むかについて語っています。
摂取カロリーが多い選手であることでも有名で、過酷なトレーニングスケジュールによるエネルギー消費を補うため、高校時代は毎日8,000から10,000カロリーを摂取して体重を維持していた経験が語られています。
③コンタクト(ぶつかり合い)を重要視する場合
アメリカンフットボールやラグビーのオフェンスラインといったように、ぶつかり合いの強さが競技パフォーマンスに直結する場合、体重が重い方が有利となります。そのため、競技に必要なパワーはもちろん、体重そのものを上げることを目標とします。
ある程度の脂肪を残さなければ怪我も発生しやすくなりますが、球技の場合は走力も必要となり、体脂肪率が高すぎても動けなくなります。
バランスが非常に重要となるため、シーズン前に数字をチェックして調整する選手も少なくありません。
ラグビー日本代表の食事
練習が非常にハードであることで知られるラグビーですが、筋肉へのダメージも大きいスポーツです。エネルギーとなる炭水化物と、筋肉を作るたんぱく質を中心に、一日でおよそ5,000キロカロリーほど摂取すると言われます。
練習後にはアボカドや納豆、きゅうりの漬物、ローストなど、エネルギー回復に役立つ食事を楽しんでいます。
この動画で特徴的なのは、日本代表として海外でプレーする中で、日本食が食べられることに感謝しつつ、食事がパフォーマンスに直結していることを意識している点です。西芳照シェフは、選手たちの栄養管理について、特にタンパク質の摂取を重視していることを強調しています。
サッカー選手に比べてラグビー選手はお米を少なめにし、お肉や魚の消費を多くしていることから、タンパク質に重きを置いて摂取していることが伺えます。
【基本】摂取カロリーが消費カロリーを上回らないと、身体はデカくならない
特に、中学や高校・大学生といった世代の選手は、体重が足りていないことがほとんどです。そして、この世代においては、身体を大きくしようと頑張っているものの体重が増えないという悩みが非常に多いです。
身体が大きくならない要因として、優先的に考慮すべき項目を順番に挙げていきます。
体が大きくならない原因1:摂取カロリーが足りていない
冒頭でも申し上げましたとおり、身体が大きくならないと悩む選手の場合、摂取カロリーが少なすぎて消費カロリーを賄うことができていないパターンがほとんどです。
具体的な数字で言うと、消費エネルギーよりも、500~1000kcal程追加した食事を摂ることが一般的なアスリートに推奨する値となります(2)。 まずは自身の摂取カロリーと消費カロリーを計算し、実態を把握するとよいでしょう。
選手自身の感覚では「きちんと食事を摂ってるよ」という場合でも、いざ数字を出してみると「全然足りていなかった・・・」となることは、少なくありません。
身体がデカくなったアスリートで、真っ先に思いつくのはMLBの大谷翔平選手ですが、彼が高校1年生当時に書いたノルマ(マンダラチャート)には「ご飯 夜7杯、朝3杯」と書かれています。おかずも加えると一日約7000kcal近く摂取していたと予想され、高校時代で20kg近くの増量を行ったと言われています。
この例からも、ただでさえエネルギー消費が高いアスリートが増量するには、相当数のカロリーが必要になることが分かります。
体が大きくならない原因2:トレーニング中は水分しか摂らない
身体が大きくならないと悩む選手の中に、トレーニング中は水しか飲んでいないという人がいます。
これは長時間トレーニングで必ず失敗します。せっかく作った筋肉を毎回エネルギーを生むために溶かしているようなものです。中々筋肉が増えない一因ですので、トレーニング中も糖質とタンパク質の摂取を心がけると良いでしょう。
なお、タンパク質サプリメント(アミノ酸、ペプチド、プロテイン)だけを摂取していても、こなせる運動量は大きく増えません。タンパク質サプリメントの摂取だけでは筋肉のエネルギーとなる筋グリコーゲンの消費を抑制できないので結果的に翌日の疲労が大きくなります。
スポーツドリンクのような炭水化物と電解質を含むドリンクのみを飲んでいる場合も不十分です。タンパク質が含まれていない場合は筋のダメージを軽減することは難しくなります。
もっともお勧めするのは、吸収が早い炭水化物・タンパク質を、少量でなく必要量摂取することです(00X’AAA+ALPHAをチェック)。
体が大きくならない原因3:オーバーワークになっている
摂取カロリーと消費カロリーのバランスに次いで、もう一つ重要視したい点があります。それがリカバリーです。
リカバリーよりもトレーニング量を重視している場合、休息が足りておらずオーバーワークとなる場合があります。 オーバーワークとなると、コルチゾール分泌の増加によってケガのリスクが高まり、かつ翌日の疲労感にも影響します。
きちんと睡眠や休息は取れていますか?疲労感は溜まっていませんか?
練習量が多いチームの場合はリカバリーのための時間を確保することが難しいかもしれませんが、可処分時間の断捨離をしてでもできるだけ睡眠・休息時間を確保するようにすると良いでしょう。
体が大きくならない原因4:睡眠時の栄養枯渇
アスリートが身体を大きくするにあたって、私自身の経験からおすすめできる栄養摂取をご紹介します。それは、「就寝前のカゼインプロテイン摂取」です。
カゼインプロテインを摂取するタイミングとして、就寝前は王道です。 どんな人間も、睡眠中は食事を摂ることができません。そのため、入眠からしばらく経つと、筋合成よりも筋分解が優位になる(カタボリック)時間帯となってしまいます。
それを極力防ぐために、カゼインプロテインの特性が活きるわけです。カゼインプロテインは水に溶けにくい特徴があります。具体的には、低pH(酸性)環境では、カゼインプロテイン内の分子間の反発力が消失し、凝固して沈殿します。これにより胃からの排出が遅くなり、消化と吸収が遅くなります。
その結果、カゼインプロテインを摂取した後の血中アミノ酸濃度の増加は、例えばホエイプロテインといった他のプロテインよりもだいぶ遅くなります。 そのため、睡眠時のロスを極力防ぐことができるのです。
こちらの記事も参照ください:カゼインプロテインの最強活用法
PPNのサプリメント管理体制について
サプリメント摂取によるアンチドーピング規則違反からアスリートを守る唯一の方法、それは、全製品の、全ロットを、市場に流通させる前に検査を実施することです。
市場に流通させながら全ロット検査を実施しているメーカーはいくつかありますが、アスリートのドーピング陽性リスクを極力排除するためには、全ロット検査でも十分ではないと考えています。
そのため、PPNでは全製品・全ロットに対して、市場に流通させる前に検査を実施するだけでなく、「結果を確認するまで出荷しない」という管理体制を取っています。
この体制を取っているメーカーは世界で唯一弊社しかありません。アスリートにとって栄養摂取は投資であり、ドーピング検査の徹底は保険です。PPNでは「体感」と「安全性」を実現できる製品開発に尽力しています。