アスリートが使うサプリメントについて解説

アスリートが日々のトレーニングや競技で高いパフォーマンスを発揮するためには、食事から十分な栄養素を摂取することが必要です。また、食事だけでは不足したり、摂りにくい栄養素もあるため、そういった場合はサプリメントを利用することで、効率的に必要な栄養素を補うことができます。

それらに関する情報はインターネットをはじめ様々なところで掲載されていますが、中には科学的な根拠に基づいていなかったり、情報が古く現在の主流とは内容が異なる場合もあります。

また、各々のアスリートに合った栄養戦略を立てるためには、競技種目による違いはもちろん、アスリートごとの個人差や課題点を考慮する必要があります。

まずは基本的な部分を正しく理解し、それを踏まえたうえでそれぞれに合った計画を立てる必要があります。そこで今回は、アスリートがサプリメントを選択する際に、知っておくべき点や注意すべき点について解説しようと思います。

阿久津貴史

著者紹介

パワーリフティング全日本選手権12連覇・現日本記録保持
NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ

阿久津貴史公式HP

1982年生まれ。パワーリフティングの競技者として活動するとともに、パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。

サプリメント選択の前に。必要な栄養素の摂取量を知る

当たり前のことですが、アスリートの体も通常の人と同じように筋肉や骨などで構成されています。そのため、摂取しなければならない栄養素の種類や構成は、一般の人と大きく変わりません。

しかし、アスリートの場合、一般的な人より筋肉の発達や回復を多く必要とするため、栄養素の量は通常よりも多く摂取する必要があります。

また、栄養素を一度に多量に摂取したとしても、体が吸収できる量やスピードは限られているため、1日の摂取量を複数回に分けて間隔を空けて摂取するなど、タイミングも考慮して栄養戦略を立てることが重要です。

そのためには、まず必要とされる栄養素をどの程度摂取する必要があるか把握する必要があります。それを基に、食事戦略やサプリメントの選択、摂取のスケジュールを管理していく形となります。

ここから、3大栄養素を例にとって、アスリートが必要とする摂取量の目安を紹介します。

アスリートの炭水化物摂取量

炭水化物は、筋肉や脳などの主要なエネルギー源です。炭水化物は主にグリコーゲンという形で筋肉や肝臓に貯蔵されますが、その量は限られています。炭水化物摂取量が不足すると、グリコーゲンが枯渇し、パフォーマンスや回復が低下する可能性があります。

炭水化物摂取量は、運動量や強度、競技種目などに応じて変化しますので、各々に合った炭水化物の必要摂取量を正確に特定することは困難ですが、アメリカスポーツ医学会(ACSM)、アメリカ栄養士協会(ADA)、カナダ栄養士協会(DC)が共同で発表したガイドラインでは、目安として以下のような値が示されています。

体重あたりの炭水化物摂取量の目安

・低強度または休息日:3~5 g/kg
・中強度または1時間未満の運動:5~7 g/kg
・高強度または1~3時間の運動:6~10 g/kg
・極度の強度または4時間以上の運動:8~12 g/kg

炭水化物摂取のためのサプリメント

上記の数字だけ見ると、食事だけでも達成できそうに見えますが、前述のとおり、グリコーゲンを体内に貯蔵できる量は限りがあります。

体重70kgの男性の場合、体内のグリコーゲン貯蔵量は2,000~2,500kcalと言われますが、例えば時速10kmほどのペースでフルマラソンを走ったときの体重70kgの男性の消費カロリーは約3,300kcalです。この数字からも、長時間のトレーニングや競技では簡単にグリコーゲンが枯渇してしまうことがお分かりになるかと思います。

グリコーゲン枯渇を防ごうにも、食事調整だけでは限界があり、また競技中に食事を摂るわけにもいかないため、エネルギー補給として主にカーボ(炭水化物)サプリメントが使用されます。

近年では、よりアスリートの使用に適した様々な糖質系素材が開発されており、例えば「クラスターデキストリン」は運動持続時間の延長という視点でしっかりデータが取られている素材の一つとなります。

アスリートのタンパク質摂取量

続いて、たんぱく質の摂取についてです。アスリートでなくても、たんぱく質の重要性は広く知られるようになってきております。しかしながら、各々にとって適切な摂取量を特定することは容易ではなく、意見が分かれるところです。

たとえば、こちらの文献では、5402名の被験者を含む105件の文献をもとに、メタアナリシス(複数の研究の結果を統合し、より高い見地から分析すること)が実施されています。

タンパク質摂取量が0.5~3.5g/kg/日(1日の体重1kgあたりのタンパク質摂取量)の範囲で検証したところ、以下の結果となりました。

・タンパク質摂取量が多ければ多いほど、筋肉量が多くなる傾向
・タンパク質摂取量が体重1kgあたり1.3 g(体重が50kgの方では65g/日)を超えると、筋量増加の効率が悪くなる
・筋肉に負荷をかけるトレーニングを行っている場合は、総タンパク質摂取量が1日体重1kgあたり1.3 gを超えても、筋量増加の効率が低下しにくくなる。

上記の結果を鑑みると、単純にタンパク質摂取量を増やすだけでも、筋肉量の維持や増加に有効であることは確かといえます。

しかしながら、過剰にタンパク質を摂取することはおすすめできません。適正量を著しく上回って摂取すると、たんぱく質に含まれる窒素を代謝するために腎臓や肝臓に負担をかけたり、余剰な分は中性脂肪に変換されて体脂肪量を増加させる可能性があります。

したがって、トレーニング強度や量に応じてたんぱく質摂取の増やすようにしつつ、過剰なタンパク質摂取によるリスクも考慮して、それぞれに合った適度な量のタンパク質を考えることが重要といえます。

こちらの文献はとても興味深いもので持久走を対象に最適なたんぱく質摂取量を調査しています。この文献では20kmのトレッドミル走を実施した場合、体重1kgあたり1.83gのタンパク質摂取が適正とされています。

では巷でよく話題になる高タンパク質食は有害なのか?ということに関してご案内いたします。

まず高タンパク質食の定義とは国際スポーツ栄養学会の会長であるホセ・アントニオ氏曰く「1日あたり体重1kgあたり2.2g以上のたんぱく質摂取すること」とのことです。

高タンパク質食に関する研究では、「レジスタンストレーニングの経験のある48人に標準的な食事と高たんぱく質食(体重1kgあたり3.3g以上のたんぱく質を毎日摂取)を摂取させた場合、高たんぱく質食の方が優位に体脂肪率、体脂肪量が減少した。」「1日あたり体重1kgあたり2.5g~3.3gのたんぱく質摂取を一年間続けた結果有害な作用は全くもたらさなかった。」というデータが取れています。

究極的には言ってしまえばヒトは全員個体差があります。たんぱく質の摂取量を体重1kgあたり2gより3gに増やした方が反応が良いヒトもいればそうでないヒトもいるわけです。たんぱく質の摂取量は一度に40g以上は無意味という説もありますが、ヒトの消化能力や吸収能力も全て個体差があるということは覚えておきましょう。

したがって、トレーニング強度や量に応じてたんぱく質摂取を増やすようにしつつ、自分に合った最適な量を見極めていく必要があります。

タンパク質摂取のためのサプリメント

食事のみからタンパク質を摂取しようとすると、多くの場合量が不足します。それを補うため、プロテインサプリメントを摂取することが一般的です。

プロテインには、ホエイ・ソイ・カゼインなどいくつかの種類がありますが、それぞれ特性が異なります。

▶ 参考記事プロテインの選び方。ホエイやカゼインのどちらを使うべきなのか

ホエイタイプのプロテイン一択で摂取している選手も多いですが、種類の違いを生かして使い分けると、さらなるパフォーマンスアップが期待できます。例えば、就寝中のカタボリックを防ぐために就寝前に血中アミノ酸濃度をキープしやすいカゼインタイプのプロテインを摂取したり、素早いタンパク質補給のためにペプチドサプリメントを選択する場合もあります。

アスリートの脂質摂取量

脂質は、エネルギー源や細胞膜やホルモンなどの構成要素であり、必須脂肪酸や脂溶性ビタミンなどの吸収にも必要です。 脂質摂取量が不足すると、パフォーマンスや健康に悪影響を及ぼす可能性があります。 

一方で、脂質摂取量が過剰になると、体重や体脂肪率の増加や心血管疾患などのリスクが増加します。それを踏まえ、脂質摂取量は、エネルギー摂取量の15~30%程度が適切とされています。

エネルギー摂取量は、運動量や強度、体重や体脂肪率、成長や発育などに応じて変化しますし、個人差が大きいため、正確な値を出すことは難しいですが、目安として以下のような値が示されています。

・一般人:25~35 kcal/kg
・軽度から中度の運動者:30~45 kcal/kg
・中度から高度の運動者:40~70 kcal/kg

上記はあくまで目安となりますが、現代の食生活において脂質は過多になりやすい栄養素です。バランスを考慮し減量や増量などの目的に合わせて調整するとよいでしょう。

「エルゴジェニックエイド」を取り入れる

食事から不足する栄養素を補うためのサプリメントのことを「ダイエタリーサプリメント」と呼びますが、一方で競技パフォーマンス向上のためのサプリメントを「エルゴジェニックエイド」と呼びます。

以下にそれぞれの例を記載していますが、ダイエタリーサプリメントはコンビニやドラッグストアでも多く販売されています。一方で、エルゴジェニックエイドはおもにインターネットで販売されているケースが多いです。

ダイエタリーサプリメントの例:

プロテイン、スポーツバー、エネルギーゼリー、マルチビタミン、カルシウム・鉄

エルゴジェニックエイドの例:

アミノ酸(BCAA・EAA・カルニチンなど)、クレアチン、ハーブなど

ダイエタリーサプリメントは通常の人でも健康増進目的から摂取することが多い一方で、エルゴジェニックエイドの主な目的は、筋力や持久力、疲労回復などの向上です。自身の課題を把握したうえで、エルゴジェニックエイドを適切に選択し摂取することが重要となります。

エルゴジェニックエイドのうち、効果が科学的に実証されているものでは、カフェイン、クレアチン、硝酸塩、β-アラニン、重炭酸ナトリウムが挙げられます。

エルゴジェニックエイドの場合、信頼のおける研究でポジティブな効果が確認されているものもあれば、明らかに効果があるとは言えないものもあります。また、吸収や代謝は個人差があるため、どの選手にも確実な効果があるとは限りません。

様々なエルゴジェニックエイドが研究されていますが、本当に自分に合ったものなのか、パフォーマンス向上に効果があるのか、自身の体としっかりと向き合ったうえで選択するようにしましょう。

サプリメント選択にあたって、一番重要なこと:アンチドーピング

アスリートがサプリメントを選択するにあたって、一般の人と異なるのが、アンチドーピングに配慮しなければならないという点です。 この点が最も重要であり、仮に最適な栄養戦略を確率できたとしても、アンチドーピングに配慮していなければ全てが崩れてしまう恐れがあります。

世界アンチ・ドーピング規程では、アスリートは「自分の摂取物及び使用物に関して責任を負う」とされています。そのため、仮に意図せぬドーピング陽性が起きた場合は、責任を逃れることはできません。

自らが情報収集し、正しく理解して、そのうえで摂取するサプリメントを選択しなければなりません。


PPNのサプリメント管理体制について
certification

サプリメント摂取によるアンチドーピング規則違反からアスリートを守る唯一の方法、それは、全製品の、全ロットを、市場に流通させる前に検査を実施することです。

市場に流通させながら全ロット検査を実施しているメーカーはいくつかありますが、アスリートのドーピング陽性リスクを極力排除するためには、全ロット検査でも十分ではないと考えています。

そのため、PPNでは全製品・全ロットに対して、市場に流通させる前に検査を実施するだけでなく、「結果を確認するまで出荷しない」という管理体制を取っています。

この体制を取っているメーカーは世界で唯一弊社しかありません。アスリートにとって栄養摂取は投資であり、ドーピング検査の徹底は保険です。PPNでは「体感」と「安全性」を実現できる製品開発に尽力しています。

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講師は2011年〜2023年の間、全日本選手権パワーリフティング105kg級(フルギアカテゴリー)で12連覇を達成したPPN代表 阿久津貴史(2004年〜NSCAストレングス&コンディショニングスペシャリスト)です。現在は東京都立大学 大学院 人間健康科学研究科 知覚運動制御研究室に所属して、パワーリフティング種目の運動制御に関する研究をしています。

メッセージ: 「これまで幾度となく試練を乗り越えて来たからこそお伝えできる内容も配信しております。全部で60回以上配信されますので、何かしら活かせることがあるかと思います。現在は無料で配信しておりますので、ぜひこの機会をご活用ください。」

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