サプリメントに起因するドーピング禁止薬物の事例

ドーピング検査を受ける必要のあるトップアスリートにとって、ドーピング陽性となることは最も恐ろしいことです。

自己防衛のためにアンチドーピングの知識を持っている選手も増えてきていますが、禁止薬物のリストは毎年のように変更されるため、選手個人が完全に把握することは困難といえます。

特に怖いのは、「大丈夫」と思っていたサプリメントに禁止物質が含まれている場合です。そこで、今回は過去にどのような禁止物質がドーピング検査において検出されたのか、サプリメントに起因する事例を中心に見ていこうと思います。

阿久津貴史

著者紹介

パワーリフティング全日本選手権11連覇・現日本記録保持
NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ

阿久津貴史公式HP

1982年生まれ。パワーリフティングの競技者として活動するとともに、パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。

マルチビタミンサプリメントに起因する事例

現在も販売されているギャスパリニュートリション社製の「ANAVITE」というマルチビタミンサプリメントを摂取した結果、ドーピング違反となった事例が日本で発生しています。

ANAVITEは日本でも多く売れている実績があり、一日に必要なビタミン・ミネラルが摂れるという点が多くのトレーニーに支持されています。他にも、ベータアラニンやL-カルニチンを含有しており、持久力向上・除脂肪体重の増加や脂肪を燃焼するという効果を期待して購入する人もいます。

日本の水泳アスリートが、過去にビタミン不足の解消を目的として、ANAVITEを摂取していましたが、WADAが禁止する興奮薬1,3-ジメチルブチルアミンが検出され、競技成績の失効と7カ月の資格停止の制裁を受けた事例があります。

該当選手は上記サプリメントの購入前に成分表を見て禁止物質が含まれていないことを確認しており、上記が発覚する前のドーピング検査では陰性だったものの、その後におけるドーピング検査の結果、陽性となった形となります。

さらに、上記事例の前年にも、ANAVITEが原因で国内の自転車競技選手のドーピング違反が発覚しており、禁止物質の1-テストステロン代謝物である1-アンドロステロンが検出されていました。

これらの件の原因としては、製造過程におけるコンタミネーション(禁止物質の混入)である可能性が示唆されています。 なお、ギャスパリニュートリション社が販売するサプリメントについては、SP250という名称の一酸化窒素系サプリメントに起因して、国内のボディビル選手がドーピング陽性となった事例もあります。

原因のサプリメントが特定されていない事例

レスリングの全日本選抜において、筋肉増強作用があることから禁止薬物であるドロスタノロンの代謝物が試合当日に採取した尿(A検体)から検出された事例があります。

当該選手は海外製を含む多種多様なサプリメントを大量に服用しており、どのサプリメントに禁止薬物が含まれていたのか特定はできないものの、それらのいずれかに禁止成分が含まれていた可能性が高いとされています。

他にも、ハンマー投げの選手からホルモン調節薬であるクロミフェンが検出された事例があり、海外製のプレワークアウト用サプリメント・クレアチンサプリメント・プロテインのいずれかに起因する可能性があるとされています。

こちらも、当該サプリメント購入の際に禁止物質が含有されていないことを、選手が成分表から事前確認していました。そして、禁止物質が出た原因としては、上記同様に、コンタミネーションであるとされています。

国内企業が販売するサプリメントに起因する事例

国内の水泳競技選手から禁止物質であるエノボサルム(オスタリン)が検出された事例があります。そして、当該選手が消費せず残っていたサプリメントを検査したところ、同様にオスタリンが検出された結果となりました。

このサプリメントの成分表示にはオスタリン含有の記載は無く、過去にサプリメントを摂取した直後に実施されたドーピング検査においても陰性となっていました。

また、当該選手の兄も同じサプリを摂取しており、もともとは兄やトレーナーの勧めに従って当該選手も同サプリを摂取するようになりましたが、本人もまさか陽性になるとは予想していなかったものと思われます。

これらの事例から、アスリート達が学ぶべきこと

まず、現在市販されているサプリメントの中には、禁止物質が含まれている可能性があることを、しっかりと意識しておく必要があります。

さらに重要なのは、上記の事例でも分かるように、成分表に禁止物質が含まれていないことが確認できたとしても、禁止物質が含まれていないとは言えないという点です。

上記の事例でも、何度かコンタミネーション(通称:コンタミ)という言葉が出てきましたが、本来含まれないはずの物質が混入してしまうことは決して珍しくないということです。

アンチドーピング認証について

これらのような背景もあり、コンタミによって汚染されたサプリメントを摂取するリスクを低減させるための手段として、アンチドーピング認証を取得した商品が普及するようになりました。

しかしながら、「アンチドーピング認証を取得しているので、アスリートが摂取しても大丈夫」という誤った認識が広がっているように感じます。

例えば、代表的なアンチドーピング認証として、インフォームドチョイス(以下、左側 緑色のロゴ)を取得している商品もありますが、アスリート向けの認証であるインフォームドスポーツ(右側のオレンジ色のロゴ)とは管理体制が全く異なります。

詳細はこちらの記事で説明していますが、ただアンチドーピング認証を取得しているというだけでは、アスリートをドーピングリスクから守ることはできないのです。

ドーピングリスクは決して他人事ではない

直近ではテニスの元世界ランク1位の選手もドーピング違反で出場停止となっており、「サプリメントを販売する会社のミスにより禁止物質が混入してしまう“コンタミネーション”があった」とのコメントが出ています(参考)。

これらの事例も踏まえ、ドーピング検査を受ける必要のある選手は、「ドーピングリスクは決して他人事ではない」ということを改めて認識するべきだと考えています。

「禁止物質が含まれていない」という成分表示や人の言葉だけで信用するのではなく、何故禁止物質が含まれていないのか、その根拠となる管理体制をきちんと調べることをお勧めします。


PPNのサプリメント管理体制について
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サプリメント摂取によるアンチドーピング規則違反からアスリートを守る唯一の方法、それは、全製品の、全ロットを、市場に流通させる前に検査を実施することです。

市場に流通させながら全ロット検査を実施しているメーカーはいくつかありますが、アスリートのドーピング陽性リスクを極力排除するためには、全ロット検査でも十分ではないと考えています。

そのため、PPNでは全製品・全ロットに対して、市場に流通させる前に検査を実施するだけでなく、「結果を確認するまで出荷しない」という管理体制を取っています。

この体制を取っているメーカーは世界で唯一弊社しかありません。アスリートにとって栄養摂取は投資であり、ドーピング検査の徹底は保険です。PPNでは「体感」と「安全性」を実現できる製品開発に尽力しています。

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講師は2011年〜2023年の間、全日本選手権パワーリフティング105kg級(フルギアカテゴリー)で12連覇を達成したPPN代表 阿久津貴史(2004年〜NSCAストレングス&コンディショニングスペシャリスト)です。現在は東京都立大学 大学院 人間健康科学研究科 知覚運動制御研究室に所属して、パワーリフティング種目の運動制御に関する研究をしています。

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