一日に必要とされる栄養量を摂取するにあたって、食事のみで最適なバランスを維持するのは難しいものです。そのため、プロテイン摂取によってタンパク質摂取量を調整することはアスリートやトレーニーにとって必須といえます。
しかしながら、単に栄養成分表の数値だけでなく、プロテインの種類によって効き方が変わってくるのはご存じでしょうか? 「Timing is everything.」と言われるように、1日の中でそのタイミングにあった最適な形のタンパク質の形態を選ぶことで成長を加速することができます。この日々の積み重ねが最終的に大きな差となって現れます。
今回は、各種プロテインの特性や推奨の摂取方法について解説するとともに、どのような目的にどのプロテインの種類が合っているか解説します。
著者紹介
パワーリフティング全日本選手権11連覇・現日本記録保持
NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ
阿久津貴史 (公式HP)
1982年生まれ。パワーリフティングの競技者として活動するとともに、パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。
基礎知識:プロテインの種類について知ろう
はじめに、プロテインの種類について、基礎的な内容を説明します。 プロテインは、製造方法や原材料ごとに、いくつかの種類に分かれます。「何となくホエイを飲んでいる」といった選手も多いですが、種類ごとに特性が変わってくるため、それらの違いについて理解しておくと良いでしょう。
前提として、プロテインの主原料は牛乳または大豆の場合がほとんどです。卵(エッグ)プロテインもありますが最近ではほとんど利用されていないのではないかと思います。
逆に近年では今後の世界的な乳不足の代替プロテインとしてコオロギプロテインなどの昆虫由来のタンパク源も注目されています。牛乳由来の場合は「動物性」に分類され、大豆由来の場合は「植物性」となります。
牛乳由来(動物性)のプロテイン
牛乳由来のプロテインには、ホエイプロテインとカゼインプロテインがあります。「原料が同じなら特徴も同じでは?」と思いがちですが、それぞれ製法や特性が異なります。牛乳にはホエイが約20%、カゼインが約80%含まれています。
ホエイプロテイン
牛乳から乳脂肪分や主要なたんぱく質であるカゼインなどを除いた液体のことを「乳清(ホエイ:whey)」と呼びますが、ホエイから精製されたプロテインをホエイプロテインといいます。
製法としては、まずは牛乳をカードとカゼインに分離します。カード(凝乳)とは、乳がかたまって豆腐状になったもののことですが、これを加熱したり破砕したりすると、中から水分がでてきます。この水分が乳清であり、乳清を原料に抽出されたタンパク質がホエイプロテインです。
余談ですが、昔は乳清はチーズを作る工程で出た産業廃棄物でした。つまり廃棄されていたのですが、この乳清から利益を生めないのか?という視点からタンパク質を欲しているアスリートに商品として売ろうと製品化されたのがホエイプロテインの生い立ちです。つまりホエイプロテインは最初からアスリートのための製品として開発された原料ではなかったのです。
乳清からタンパク質を抽出するには、以下の製法があります。
①乳清をフィルターでろ過した液体を濃縮するWPC製法
②WPC製法で得られたタンパク質に対し、さらにフィルター処理やイオン交換処理をおこなってタンパク質以外を極力除去するWPI製法
③WPC製法で得られたタンパク質をさらに加水分解によってペプチド化させるWPH製法
それぞれの特徴は以下の表のとおりになります。
製法名 | 特徴 | タンパク質含有量(参考値) | 値段 |
WPC:Whey Protein Concentrate(濃縮乳清タンパク質) | ろ過して濃縮する製法であり、乳清に含まれるビタミンやミネラルを残しやすい反面、乳糖が残りやすく牛乳に弱い人には不向きな場合も。 | 80%前後 | 安 |
WPI:Whey Protein Isolate(分離乳清タンパク質) | タンパク質以外の成分をほとんど除去できるため、乳糖や乳脂、灰分の含有率が低い。そのため、余計なカロリー摂取を避けることができる。 | 90%前後 | 中 |
WPH:Whey Protein Hydrolysate(加水分解乳清タンパク質) | ホエイペプチドとも呼ばれる。ペプチドのためアミノ酸に近い大きさ(人体が吸収しやすい)になっており、ホエイプロテインの中で最も消化吸収に優れている。 | 95%前後 | 高 |
激安ホエイプロテインはほとんどWPCです。WPCは乳脂肪などが比較的残っているため牛の飼料に含まれる成分の影響を受ける可能性があります。
そのため最近はグラスフェッドプロテインと呼ばれる牧草で育てたことを売りにするプロテインが流行ってきています。脂肪には不純物質が含まれますので健康な育て方をした牛の乳を売りにしている訳です。
ただ乳脂肪をしっかり濾過した場合はこの考えは特に必要なくなるでしょう。というのは不純物は脂肪に残留するからです。より深く考えるとそもそも放牧して牛が食べている牧草自体が農薬等に汚染されていないのか?という視点も必要です。
どちらかというとグラスフェッドという視点で牛を選ぶのは牛肉として牛を食べる場合の考え方と言えるでしょう。放牧された牛は筋肉質で脂肪分が少なくなります。また牛肉を選ぶ場合は産地もとても重要です。
余談ですが、初めて知る人は驚くかも知れませんが、米国産の牛肉はヨーロッパで何十年も輸入が禁止されています。その最大の理由はホルモン剤です。
米国産の牛肉の多くは成長を加速させるためにホルモン剤が使用されています。日本でもホルモン剤を使った牛の家畜は禁止されています。にも関わらず、米国産の牛肉の輸入は解禁しています。
少し話はそれましたがWPIやWPH(ホエイペプチド)を飲む場合にグラスフェッドかどうかという視点はあまり必要ないと考えられます。最近はWPHの使用も増えていますが、WPH(ホエイペプチド)は期待されているほどジペプチド、トリペプチドといった有効なサイズのペプチドは含まれていません。
ほどんどのWPH(ホエイペプチド)原料に含まれるジペプチド、トリペプチドは約20-30%程度です。製品を水に溶かして沈殿する場合ジペプチド、トリペプチドは多く配合されていないと判断できます。
カゼインプロテイン
前述のとおり、牛乳に含まれる主要なたんぱく質がカゼインプロテインです。
カゼインは水に溶けないタンパク質で、牛乳内ではバラバラの状態で含有されていますが、酢などの酸を加えると凝固して沈殿する性質があります。この性質を使って、牛乳からカゼインを抽出しますが、抽出したカゼインにはミネラルや脂肪、乳糖といったカゼイン以外のものが多く付着しています。 これらの不純物があるとカゼインの品質や保存性を低下させてしまいますので、不純物を大幅に取り除き、カゼインの純度を上げる必要があります。
そのためには、数回の向流洗浄→乾燥工程を経て製造されます。 カゼインは国内外の様々なメーカーで製造されていますが、純度の高いカゼインほど製造コストも品質も高くなります。
安価なカゼインプロテインの多くはMPC(ミルクプロテイン)と呼ばれる、乳のタンパク質組成をそのまま維持したカゼインプロテインです。つまりカゼインが約80%、ホエイが約20%含有しています。つまりカゼインプロテインとして販売していてもMPCを使用している場合は約20%はホエイプロテインということです。カゼイン100%のプロテインを摂取したい場合はMPC原料を使用した製品は避けるべきでしょう。
なお、カゼインプロテインを加水分解したカゼインペプチドも存在します。カゼインプロテインは吸収がゆっくりされることが特徴で最大の利点ですが、加水分解(ペプチド化)するともちろん吸収は早くなります。
ではなぜカゼインを加水分解するのかというとカゼインのアミノ酸組成は筋肉作りに優れているからです。そのアミノ酸組成をそのまま活かして吸収速度を高めたのがカゼインペプチドです。
その代表原料がPeptoPro®︎です。ジペプチド、トリペプチドの含有量が他を寄せ付けないほど多く原料の約70-80%をジペプチド、トリペプチドが占めます。このような原料は他に存在しません。
植物性プロテインやその他
大豆のタンパク質を精製し、粉末状にした「ソイプロテイン」、玄米を粉砕して、タンパク質を抽出した「ライスプロテイン」、また植物性ではありませんが卵白由来の「エッグプロテイン」もあります。
これらを使用するケースとしては、牛乳由来のプロテインが使用できない場合、もしくはトレーニング目的ではなくボディメイク目的で使う場合、または他のプロテインと複合して使う場合に限られるでしょう。
例えば、ホエイプロテインはソイプロテインと比較して高いロイシン含有量となっています。ロイシンは筋肉の蛋白質合成のスイッチを入れるアミノ酸ですが、同じ量のプロテインを摂取したとしても、ロイシン摂取量はホエイプロテインの方がソイプロテイン質よりも高くなります。
そのため、筋肉の合成速度も、ホエイプロテインを摂取したほうがより高い値を示します。 また持続力についてはカゼインプロテインが秀でているため、ホエイとカゼインの組み合わせでタンパク質摂取計画を立てるのが最もシンプルといえます。
推奨プロテイン摂取方法
ではここから、上記の基礎知識を踏まえたうえで、ホエイとカゼインをどう使い分けるか説明しようと思います。
基本的な考え方
筋肉量は、筋肉の合成と分解の繊細なバランスによって維持されています。食事によってタンパク質を摂取すると筋肉の合成が増加し、空腹時には筋肉の分解が促進されます。
特に、ワークアウト直後にタンパク質を摂取すると、アミノ酸に対する筋肉の感受性は高まります。また、運動後にタンパク質を摂取することによって、筋損傷が減少することも報告されています。
そのため、以下2点を意識して食事やタンパク質を摂取すると良いでしょう。
②トレーニング直後に血中アミノ酸濃度を高くすること
タンパク質の消化と吸収について
タンパク質はそのままでは直接体内に吸収できません。 タンパク質はアミノ酸の玉が鎖のように繋がった形となっており、鎖の長さは消化酵素(ペプシンやトリプトシン)によって短くなっていきます。
この作用によって、タンパク質からペプチドを経て、最後にアミノ酸という鎖の一番短い状態となり身体に吸収されるわけです。 そのため、プロテイン摂取から身体に吸収されるまでにはタイムラグがあります。
一般的にホエイプロテインはPHが低い(酸性)ため、胃からの排出速度が早いという特徴があります。それに対して、カゼインは先に説明したとおり酸によって凝固・沈殿する特性があります。そのため、胃酸により凝固・沈殿し、胃からの排出が緩やかになります。 このことから言えるのが、ホエイは摂取から吸収までの速度が早く、血中アミノ酸濃度も高くなります。
一方で、カゼインは上記の理由により吸収が緩やかになり、血中アミノ酸濃度の持続性に優れるというわけです。ただPeptoPro®︎や、ホエイペプチドやEAAなどに代表される遊離アミノ酸まで分解された製品と比べるとホエイプロテインの吸収速度はかなり劣ります。
過去の研究では、どちらのプロテインも摂取後約90分で血中アミノ酸濃度が最大となりましたが、ホエイはピークの後すぐにアミノ酸濃度が下降したのに対し、カゼインはピークはホエイよりも低かったものの、血中アミノ酸濃度が高い状態でキープされたことが示されています。
もちろん、食事による影響も無視できません。食事によるタンパク質同化作用は約3~5時間持続するため、その点も考慮しておく必要があります。
理想的な摂取方法とは
ホエイとカゼインのそれぞれの特徴を鑑みると、摂取タイミングとしては、ホエイはトレーニング直後、カゼインは就寝前など長時間栄養が摂取できなくなる時間の前に摂取することがお勧めとなりますが、最近ではホエイプロテインより吸収の早い原料が多々出ているため、トレーニング後にホエイプロテインを摂取するという考えは時代遅れと言えるでしょう。
また、カゼインについては、出来る限りタンパク質含有率の高いものを選ぶほうが筋肉の分解を抑えられます。 もちろん食事タイミングも重要で、パフォーマンスを最大化するには、食事ごとに少なくとも 20~30g のタンパク質を摂取すること、また食事を3~4時間おきに摂ることが望ましいです(もちろん、摂取カロリーも考慮する必要があります)。
最後に
あらゆる選手に対してうまくいく理想的な摂取方法はありません。それぞれの競技スタイルやトレーニングの負荷、食事、一日のスケジュールによって、理想的な摂取方法は変わるからです。
上記の説明によってプロテインの使い分けを理解していただけると大変嬉しいのですが、その知識を実践するのに選手は困惑してしまうかもしれません。 その場合は、専門トレーナーやスポーツ栄養士にカウンセリングやコーチングを受けるのも一つの戦略といえるでしょう。
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