サプリメントの認証プログラム:NSF認証とは?

日常的にサプリメントを摂取するアスリートが最も注意しなければならないのが、「ドーピングリスク」です。このリスクを避けるために、アンチ・ドーピング認証プログラムがあります。

この認証プログラムは、世界アンチ・ドーピング機関(WADA)が定める禁止物質が商品に含まれていないか確認する検査プログラムになります。このような検査プログラムを行う認証機関はいくつかありますが、国際水準で信頼できる検査機関はそれほど多くありません。

その中でも、今回は米国のNSFについて紹介しようと思います。ドーピングリスクについて、しっかりと理解しておきたいスポーツ関係者は是非最後までお読みください。

阿久津貴史

著者紹介

パワーリフティング全日本選手権12連覇
NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ

阿久津貴史公式HP

1982年生まれ。元パワーリフティング選手(2023年11月の世界選手権を最後に引退)。2010年〜2023年105kg級日本代表(2021〜2023年団長)。パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。

アンチドーピング認証プログラムの重要性

NSFについて詳しく説明する前に、まずはアンチドーピング認証プログラムとは何なのか、なぜそれが重要なのか説明します。

アンチ・ドーピング規則に違反するとどうなる?

WADAが定めるアンチ・ドーピング規則に違反していることが確定した場合、選手は制裁措置を受けることになります。

国内のアンチ・ドーピング規則違反の事案や制裁内容を日本アンチ・ドーピング機構が公開していますが、国内事例だけでも非常に多くの違反が発覚していることがわかると思います。

また、制裁内容としては、競技成績の抹消や一定期間の出場資格停止などがあり、数年間の停止処分となることも珍しくありません。アスリートが現役で生活できる時間は限られており、その中で数年間のブランクが生じることの重篤さは、競技生活に身を置く方であれば十分ご理解いただけると思います。

ドーピング陽性を防ぐために

意図せぬドーピング陽性を防ぐには、禁止物質を含まないもののみを摂取することに尽きます。しかしながら、禁止物質を含まないとされている商品に、実際は禁止物質が含まれており、ドーピング陽性となったケースは後を絶ちません。

ドーピング検査を受けるアスリートにとって、こんな恐ろしいことはありません。でも事実、製造過程でドーピング禁止物質が混入することは決して珍しくないのです。アスリートではない方も、紅麴サプリメントで異物混入(コンタミネーション)が疑われた旨の報道は記憶に新しいと思います。

混入を100パーセント防ぐことができない以上、禁止物質が含まれたものを口にしないためには、最終製品を検査するしかありません。また、その検査プログラムは禁止物質の混入をしっかりと検知できる確かなものでなければなりません。 国際基準で信頼できる検査プログラムを提供する認証機関は限られており、それらの機関の一つが米国のNSFになります。

では、ここから本題のNSFについて解説していきましょう。

NSF:National Sanitation Foundationについて

NSF Certified for Sport

NSF(現在の名称はNSFインターナショナル)は、1944年に米国で設立された非営利の第三者認証機関です。

NSFが設立された頃の米国は、食品や飲料水の安全管理基準が州によってバラバラという状況でした。そこで、米国内で統一された安全管理基準をつくるためにNSF(National Sanitation Foundation)が設立されました。そして、時代が進むとともに、水や食品以外にも様々な衛生基準や検査プログラムがNSFによって制定されるようになりました。

現在では、浄水器等の家庭用水処理システムからキッチン・家庭用電化製品、サプリメント、床材や家具に至るまで、幅広い分野の検査をNSFが行うようになっています。

NSFがサプリメントに対して実施する検査は、NSF / ANSI 173という基準に基づいて行われます。

NSF / ANSI 173は、栄養補助食品の試験と認証に関する米国で唯一の国家基準です。 認定された検査施設で製品検査を実施し、サプリメントに実際に含まれている成分が製品ラベルに印刷されている内容と一致することが確認されます。

また、ラベルに記載されていない成分や有害な不純物(例:微生物、重金属、農薬などの汚染物質)が含まれていないかどうかも確認されます。

さらに、アスリートやスポーツチームが使用するサプリメントに対しては、上記の基準に加え、NSF Certified for Sport® という認証プログラムが用意されています。 NSF Certified for Sport® プログラムでは、WADA(世界アンチ・ドーピング機構)やMLB、PGA、NFLなどの主要スポーツリーグで禁止されている280種類の物質、覚醒剤、麻薬、ステロイド、利尿剤、β 2 作動薬、マスキング剤、その他の物質を含む未申告の成分についが含まれていないかどうかチェックされます。

上記のチェックは製品ロットごとに検査されますので、特定のロットを抜き取って検査するよりも、より確実な検出が可能となります。検査済みの製品にはNSF Certified for Sport® の認証バッジが付与されますので、市場で販売されている商品の外観を見れば、NSF Certified for Sport® の検査が済んだものであることが確認できます。

上記の内容を踏まえ、米国アンチ・ドーピング機関(USADA)は、アスリートがサプリメントによるドーピングリスクを軽減するためのプログラムとして、NSF Certified for Sport® が最適であると公表しています。

米国の主要なスポーツリーグであるMLB、NHL、またカナダのCFLにおいては、Certified for Sport® を取得した製品のみを使用することがアスリートに対して推奨されています。

ほかにも、NFL、PGA、LPGA、CCES、CPSDA、Taylor Hooton Foundation など他の多くのスポーツ団体によっても、NSF Certified for Sport®を獲得したサプリメントを使用することが推奨されています。

NSF Certified for Sport® プログラムと他の認証プログラムの違い

例えば米国製造のクレアチンサプリメントなどでは、アスリート向けとしてNSF Certified for Sportを取得している商品も多くあります。一方、国内のスポーツサプリメントで見ると、LGCの認証プログラムを取得しているものが多いです。以下のようなロゴを見たことがある選手も多いでしょう。

LGCは、アンチドーピングの分析において 50年以上の経験があるイギリスの分析機関であり、ISO 17025に準じた「インフォームド スポーツ(緑)」と「インフォームド チョイス(オレンジ)」の2つの認証プログラムを提供しています。

なお、「インフォームド チョイス(緑)」は、すべての製造ロットが検査されるわけではありません。市場から商品を無作為に抜き取って分析にかけられます。一方で「インフォームド スポーツ(オレンジ)」では、製品が市場にリリースされる前に、製品の全てのロットが検査されるという点に留意しておきましょう。

アスリートが摂取する目的であれば、全ロット検査を行っている「インフォームド スポーツ(オレンジ)」か、上記で紹介した「NSF Certified for Sport」のどちらかが推奨されるということになります。どちらも製品に危険物質や禁止物質が含まれていないかを検査しているという点では同じですが、いくつか異なる点もあります。

・NSFは米国基準、インフォームド スポーツは国際基準で検査されます。

・NSFは、280の禁止物質に加えて、除草剤、殺虫剤、重金属、微生物汚染物質を検査します。インフォームド・スポーツは 250 を超える禁止物質の検査を行っています。

・インフォームド スポーツと NSF は両方とも、製品のすべてのバッチ/ロットで禁止物質の検査を行っており、結果はWeb サイトで入手できます。

・インフォームド・スポーツは、製品が店頭に並ぶ前の段階の検査に加え、小売店から購入したサンプルを使用して年に1 ~ 4 回のブラインドテストが実施されます。

・NSFは製品に含まれるタンパク質とカフェインの含有量も検証します。

上記のほかにも、国際水準の検査機関として、Banned Substances Control Group(BSCG)があります。いずれのプログラムも信頼性は高く、堅牢な検査が行われています。日本国内の使用においては、どちらかの認証を取得している商品であれば安心して摂取できるといえます。

BSCG Certified Drug Free

BSCGの認証プログラム:BSCG Certified Drug Free

WADAの禁止リストに掲載されている物質によって製品が汚染されていないか検査を実施し、認定を受けた製品はBSCG Certified Drug Freeのラベルを掲げることができます。

他の機関との違いとしては、WADA(世界アンチドーピング機関)が指定する禁止成分に限りなく準拠した検査リストであることです。

他の機関ではWADAのリストの一部が検査できない場合があるのですが、BSCGではWADA禁止リストにある274種類の禁止薬物の検査と処方箋、市販薬、そしてスポーツ分野で禁止されていない不法薬物も含めた211種を検査対象にしています。

ただし、メジャーリーグ(MLB)、ナショナル・バスケットボール・アソシエーション(NBA)、ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)、および男子プロゴルフツアー(PGA)等のリーグで活躍する選手が摂取するサプリメントにおいては、それらのリーグが推奨するNSF Certified for Sportを取得しているサプリメントを選択しておくのが望ましいといえます。

一方で、おもに日本国内で活躍する選手や、オリンピアンなど米国以外でも活躍の場がある選手は、国際基準を採用しているLGCのオレンジ認証や、BSCGの認証を取得しているものが安心です。


PPNのサプリメント管理体制について
certification

現在市場で販売されているスポーツサプリメントは、たとえインフォームドスポーツを取得していても、市場に流通させながら検査を実施しているのが通常です(全ロット検査を実施しているが、検査結果を待たずして出荷している)。

しかしながら、アスリートのドーピング陽性リスクを極力排除するためには、全ロット検査でも十分ではないと考えています。そのため、PPNでは全製品・全ロットに対して、市場に流通させる前に検査を実施するだけでなく、「結果を確認するまで出荷しない」という管理体制を取っています。

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講師は2011年〜2023年の間、全日本選手権パワーリフティング105kg級(フルギアカテゴリー)で12連覇を達成したPPN代表 阿久津貴史(2004年〜NSCAストレングス&コンディショニングスペシャリスト)です。現在は東京都立大学 大学院 人間健康科学研究科 知覚運動制御研究室に所属して、パワーリフティング種目の運動制御に関する研究をしています。

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