トライアスロンのパフォーマンスを阻害する要因とサプリメント摂取について

トライアスロンは、数あるスポーツ種目の中でも特に過酷な競技の一つと考えられています。スイム(水泳)・バイク(自転車ロードレース)・ラン(長距離走)の3種目を連続して行う競技であり、超持久運動の種目です。

本記事では、トライアスロンの競技パフォーマンスを上げるために、それを阻害する要因とサプリメント摂取について解説します。

阿久津貴史

著者紹介

パワーリフティング全日本選手権12連覇・現日本記録保持
NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ

阿久津貴史公式HP

1982年生まれ。パワーリフティングの競技者として活動するとともに、パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。

トライアスロンのパフォーマンスをダウンさせる原因

トライアスロンのレースは、スイム1.5km、バイク40km、ラン10km(計51.5km)のオリンピック・ディスタンスをはじめ、この1/2の距離であるスプリント・ディスタンス、スイム3.8km、バイク180km、ラン42.195km(合計約226km)のアイアンマン・ディスタンス等があります。

他の競技と比べても競技時間が非常に長い「超持久種目」となるわけですが、スプリント系の種目とはパフォーマンスを左右する要因が異なります。トライアスロンの場合、パフォーマンスを下げる主な要因は、「脱水症状」と「炭水化物(CHO)欠乏」です。

他にも、胃腸(GI)の問題、高体温、低ナトリウム血症なども挙げられますが、今回は脱水症状と炭水化物(CHO)欠乏について詳しく見ていきます。

脱水症状について

ここで、改めて脱水症状が起こる仕組みを考えてみましょう。 運動によって体温が高くなると、発汗します。汗の水分が皮膚の上で蒸発するときに熱が奪われ(気化熱)、それによって体温が高くなりすぎないように保つことが出来るのです。もちろん、発汗によって体内の水分は失われます。

例えばアイアンマンレースにおいては、全身の水分(TBW:Total Body Water)のターンオーバーは約16L(一時間あたり1.33L)時間にも達します(1)。 体内の水分が減少すると、心拍数の増加、血漿容積(PV)・心拍出量・皮膚の血流の減少、体温調節の維持不能につながる可能性があります(2)。

また発汗による水分損失は、カリウムなどの重要なミネラルの損失を伴いますのでこれも疲労の原因となります。重度の脱水症状となると、胃排出の速度が減少し、胃腸トラブルが起こる可能性が高まります。 脱水症状の結果生じるこれらの要因によって、トライアスロンにおけるパフォーマンス低下が引き起こされます。

例えば過去の研究では、脱水等によって体重の12%が減少するとサイクリングのパフォーマンスが44%減少したと報告されています(3)。

一方で、過剰に水分を補給した場合はどうなるのでしょう?実は過剰な水分摂取もパフォーマンス低下を引き起こします。体内の電解質バランスが崩れ、低ナトリウム血症を引き起こす可能性があります。低ナトリウム血症は運動パフォーマンスを低下させるのはもちろん、意識の混濁や失神を引き起こす可能性もあります(4)。

上記を踏まえたうえで、水分補給を適切に行う必要があります。ここでは詳細は省きますが、分かりやすく対策をまとめたものを日本トライアスロン連合が公開していますので、ご覧ください。

また、アイアンマン・トライアスリートのルーシー・チャールズ=バークレーは、スイムを終えたら水分補給を速やかにスタートさせることが重要と言っています。スイムからバイクのトランジションを終えたあとは、電解質入りのドリンクを急いで補給しているそうです(5)。

トライアスロンでは、スイムでの水分摂取が不可能であり、その後のサイクリングにおける水分摂取が不適切だと、後のランニングパフォーマンスに大きな影響を及ぼし、その結果ランニングステージでの棄権が多くなると言われています(6)。

炭水化物(CHO)欠乏について

運動時において、人体はおもに2つのエネルギー源を使います。それが糖質(グリコーゲン)と脂質(体脂肪)です。

脂肪は大量に貯められるというメリットがありますが、運動中にエネルギー源として利用する際には時間がかかります。

一方でグリコーゲンは分解しやすく、迅速にエネルギーとして消費されます。 炭水化物(糖質)は筋肉や肝臓でグリコーゲンになってエネルギー源として貯蔵されます。

筋肉や肝臓の中にエネルギーが十分蓄えられていれば、パフォーマンスが大きく改善することは特にエンデュランス系競技においては体感しやすいと思います。 しかしながら、グリコーゲンは体内での貯蔵量が限られています。レース中にこれが枯渇してしまうと、パフォーマンスはもの凄く低下します。

そのため、トライアスロンのパフォーマンスを上げるには、筋グリコーゲンや肝グリコーゲンの枯渇を防ぐための炭水化物補給戦略が非常に重要となります。

炭水化物補給戦略は、レース前とレース中でそれぞれ考えます。上級者の場合は自分に適したルーチンを把握しており、戦略を立てていることが多いですが、一般選手の場合はそうではない場合も多いようです。

例えば、2014年に冬のトライアスロン、雪上ペンタスロン、アイアンマン、ハーフアイアンマンに参加した116人の非エリートアスリート(32人の女性と84人の男性)を対象に食事について調査した研究では、耐久競技で推奨される炭水化物摂取量(1日あたり体重1キロあたり6グラム)を超えていると報告したアスリートは45.7%に過ぎませんでした(7)。

レース前においては、多くの場合カーボローディングという手法が摂られます。これについては、飯田忠司選手が詳しく解説していますので、参照ください(こちら)。

また、トライアスロンのような長時間の運動では、レース中に炭水化物(糖質)を摂取する必要も出てきます。レース中に糖質を適切に摂取することで、血糖値の低下を防ぎ、筋グリコーゲンの消費を抑制し、中枢神経系の機能を維持することができるからです。

ただし、競技中の炭水化物摂取は、胃に糖質が溜まってしまうことが原因で消化器症状を惹起することがあるため、かえって記録が伸び悩むことがあります。そのため、胃腸への負担が少ない糖質を選ぶことが重要です。

サプリメント摂取について

トライアスロンにおいても、多くの選手がサプリメント(エルゴジェニックエイド)を摂取しています。特に、レース中やレース後に固形物を受け付けない選手にとって、水に混ぜて摂取できるサプリメントは非常に有用であるといえるでしょう。

しかしながら、効果や体感はこれは各々の選手によって変わってきます。 摂取する栄養素や用量によってはパフォーマンスが上がる場合と下がる場合もあるので必要です。

たとえば、こちらの研究(8)では、アジア人トライアスリートが高用量でカフェインを摂取すると、レース記録が有意に低下していました。

また、持久力アップに効果があるものとしてクレアチンが挙げられます。クレアチンは、筋肉内のエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)の再合成を促進する物質です。クレアチンの摂取によって、筋肉内のクレアチンとリン酸クレアチンの濃度が増加し、高強度の運動時にATPの供給が向上します(9)。

これは高強度運動における持久力アップに効果を発揮します。 しかしながら、クレアチンは体内に水分を溜め込む働きがあるため、体重が増える可能性があります(10)。持久系競技の場合、体重の増加がデメリットとなる可能性があります。例えば、クレアチン摂取によって体重が増えやすい選手の場合、体重が増えるとランタイムが遅くなる傾向があれば、クレアチン摂取には注意が必要です。

他には、BCAAやEAAといったアミノ酸を摂取する選手も多いです。食事性たんぱく質よりも強いたんぱく質同化作用(アミノ酸を集めてタンパク質(筋肉や骨)を作る)をもたらす特徴があります。特に、ロイシンの含有量は、筋たんぱくの同化亢進に関連しますので、摂取する前に各アミノ酸の含有量を確認しておくのも良いでしょう。

PPN 00X’AAA+ALPHAの紹介

 

00X'AAA+ALPHAは限界までの運動持続時間の延長・リカバリーに特化したエルゴジェニックエイドです。

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PPNのサプリメント管理体制について
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現在市場で販売されているスポーツサプリメントは、たとえインフォームドスポーツを取得していても、市場に流通させながら検査を実施しているのが通常です(全ロット検査を実施しているが、検査結果を待たずして出荷している)。

しかしながら、アスリートのドーピング陽性リスクを極力排除するためには、全ロット検査でも十分ではないと考えています。そのため、PPNでは全製品・全ロットに対して、市場に流通させる前に検査を実施するだけでなく、「結果を確認するまで出荷しない」という管理体制を取っています。

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講師は2011年〜2023年の間、全日本選手権パワーリフティング105kg級(フルギアカテゴリー)で12連覇を達成したPPN代表 阿久津貴史(2004年〜NSCAストレングス&コンディショニングスペシャリスト)です。現在は東京都立大学 大学院 人間健康科学研究科 知覚運動制御研究室に所属して、パワーリフティング種目の運動制御に関する研究をしています。

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