アスリートがパフォーマンスを向上させるには、適切な栄養摂取戦略が重要です。競技パフォーマンス向上が期待できる栄養成分を「エルゴジェニックエイド」と呼びますが、その中でもクレアチンはプロテインに次いで一般的なエルゴジェニックエイドになります。
こちらの記事でクレアチンの摂取とドーピング検査について解説しましたが、実はクレアチン摂取に関しては、多くの誤解があるのも事実です。そこで、今回は身体への作用について、Q&A形式で詳しく解説しようと思います。
著者紹介
パワーリフティング全日本選手権12連覇・現日本記録保持
NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ
阿久津貴史 (公式HP)
1982年生まれ。パワーリフティングの競技者として活動するとともに、パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。
よくある質問①:クレアチン摂取は肉離れの原因になるのか?
「クレアチンを飲むと、肉離れを起こしやすくなる」といった話を聞いたことがある選手もいるのではないでしょうか?これはクレアチン摂取においてよくある誤解の一つです。
まず結論からお伝えしますと、クレアチンが肉離れを誘発するというデータはございません。科学的根拠は無く、都市伝説ともいえる説です。
そもそも肉離れとは、競技中やトレーニング時に、無理な動作を急に行った際に生じる筋肉の損傷のことです。 例えば、ジャンプや急なダッシュ・切り返しといった動作の場合、収縮した筋肉が急激に伸ばされる形となるため、過度の負荷がかかります。このような動作の場合、特に肉離れが発生しやすくなります。
※肉離れは「筋挫傷(きんざしょう)」とも呼ばれますが、自身の動作によって生じた筋損傷の場合を肉離れ、筋肉に外部から圧力がかかったことによって生じた筋損傷を筋挫傷と、区別して呼ぶ場合もあります。
肉離れが起こる要因となりうるのは筋肉の可動域の低下や硬さであるため、クレアチン摂取が肉離れにつながるという噂には直接発展しづらいように思われます。
では、なぜクレアチンを摂取すると肉離れが起こりやすくなるという噂が広がったのでしょうか?
誤解の原因1:クレアチンローディングによる体重増加と筋肉負荷の増大
クレアチンの摂取によってよく見られる身体の変化の一つに、ローディングに伴う体重増加が挙げられます。
クレアチンを摂取する多くのアスリートは、体内のクレアチンレベルを下げないことを目的としてクレアチンを摂取します。
その摂取方法として「ローディング」というものがあります。これは、摂取開始から最初の5日程度は1日に5g×4回(100gローディング)という通常よりも多めの量のクレアチンを摂取することで、素早くクレアチンを身体に満たし、その後は1日3-5gを毎日摂取するというものです。
クレアチンが流行り始めた当初、クレアチンの飲み方はローディングを実施することが基本でした。当時は「体感がなくなったら一度やめて(ウォッシュアウトとも呼ばれます)、再びローディングをするように」と説明していたメーカーもあったかと思います。
クレアチンは筋肉に水分を貯めこむ性質があるため、ローディングをすると確かに急激な体重増加が見られたり、急激な摂取によってトレーニング後半もみるみる力が持続することが体感しやすくなります。
一方で、体重増加によって筋肉への負荷は当然増加します。また、クレアチン摂取によるパフォーマンスアップを体感することで、さらに追い込むためにトレーニング強度を上げてしまいがちになります。
急な体重変化による筋肉への負荷と、トレーニングを高強度にしたことによる筋肉への負荷が相まって、追い込んだ際に肉離れを引き起こしてしまうのは不自然ではありません。これが、クレアチン摂取が肉離れにつながるという噂につながった可能性は考えられます。
ただ、「そもそもローディングが必要なのか」という観点では、不要であると考えています。
ローディング期に一気に体内クレアチン量が増えることで急激な体感を得ることはできますが、体感よりも実際の効果を重視すべきという観点で考えると、体内クレアチン量を常に満タンに維持して、長期的にトレーニングや練習で強度と量を高いレベルで維持することのほうが重要です。
クレアチンを1日3g摂取×28日間続けた場合の体内貯蔵量は、ローディングをしたグループと変わらないという研究結果があり、また多量摂取を続けることでクレアチントランスポーターの働きが弱くなることも示唆されています。
短期間でローディングとウォッシュアウトを繰り返すのは、クレアチンの恩恵を十分に得られないといえるでしょう。今振り返ると、ローディングが流行った、または流行らせたのは製造メーカーの思惑だった部分も大きいと思っています。
これまでの研究を見ても、理想的なクレアチンの摂取方法としては、ローディングによる多量摂取ではなく、1日の摂取量は3g程度を目安に継続的に飲むようにすることであるといえます。
誤解の原因2:水分摂取の不足による肉離れ
クレアチン摂取の有無にかかわらず、血中の水分が不足すると、筋肉疲労やけいれんが起こりやすく、またふくらはぎの筋肉が収縮しやすくなるため、肉離れが生じやすくなります。
前述の「クレアチンは筋肉に水分を貯めこむ性質がある」ことは、選手やトレーナーに広く知られているところです。このことから、トレーニング中にクレアチンを摂取すると筋肉外での水分量が減り、脱水症状や筋肉のけいれんが起こりやすくなると捉えてしまう人もいるかもしれません(実際は、多くの研究によってこのことは否定されています*1*2)。
上記のような「クレアチンを摂取する水分不足が起こりやすくなる」というイメージを持っていた場合、実際の肉離れの原因は水分不足であったものの、肉離れとクレアチン摂取に相関があると誤解し、「クレアチン=肉離れ」という説が生まれた可能性はあり得るかと思います。
*1:Physiological responses to short-term exercise in the heat after creatine loading
実際はどうなのか?
上記の噂とは反する研究結果として、クレアチン摂取によって肉離れを含めた損傷の発生率が低下するという論文は多く見られます(例)。また近年では、クレアチンが運動後の「筋肉の硬さ」などの疲労症状を軽減することも示唆されています(詳細はこちら)。
つまり、ローディングなしで毎日3gずつの継続摂取と必要な水分量を摂取すれば、「肉離れ」は特に心配のいらない事象といえるでしょう。
よくある質問②:クレアチンを摂取すると下痢になる?
大量にクレアチンを摂取した場合や、ローディング等によって急に摂取量を増やした場合に、下痢や腹痛・胃の不調などの現象が、実際に現場で多数報告されています。
純粋なクレアチンを正しい摂取量と水分量で摂取した過去の比較試験では、このような副作用は確認されていませんが、人によってはお腹がゆるくなる場合があります。
これは「浸透圧性下痢」と呼ばれる症状で、クレアチンだけでなくEAAやグルタミンといったサプリメント、糖分の消化吸収が良くない体調の時や、人工甘味料を摂り過ぎた時などにも起こります。
摂取したものの浸透圧(水分を引きつける力)が高い場合に起こるタイプの下痢であり、腸内の水分量が急に増えるものの、それが腸できちんと吸収されないまま排便されるため下痢になるというメカニズムになります。
対策としては、まずクレアチンローディングは実施せずに、1回あたりの摂取量を3g程度に抑えることです。また、摂取時は一気に飲むのではなく、少しずつ小分けで飲むようにします。
他にも、同時に摂取する水分が少ないと濃度が高くなり下痢となるリスクが高まるため、十分な水分量(300ml以上)で摂取するようにします。
安価なクレアチンサプリメントに含まれる不純物に起因して下痢が起こる場合もあるため、消化器系を刺激する可能性のある不純物や添加物が多く含まれているものは避けるようにすると良いでしょう。
よくある質問③:クレアピュアとクレアルカリンの違いは?
クレアピュアは多くのメーカーから高い評価を得ている、クレアチンサプリの原材料名です。 Alzchem社(ドイツ)にて製造されており、クレアチンを水分子と結合させた「モノハイドレート」と呼ばれるタイプになります。
過去にも多くの臨床試験や研究があり、最も広く使用されているクレアチンの形態です。一つの水分子とクレアチンが結合した構造で、安全性も広く認識されています。
一方で、クレアルカリンはアルカリ緩衝化という技術によって、体内への吸収性を高めたクレアチンのことです(バッファードクレアチンとも呼ばれます)。AII AMERICAN PHARMACIUTICAL社(アメリカ)が製造しており、弱アルカリ性成分によって、胃酸によるクレアチンの分解を減らし、筋肉へのクレアチンの取り込みを改善できるとされています。
クレアチンサプリメント材料としてはクレアピュアが最も信頼・実績が高いのですが、様々なクレアチンサプリを試したことがある方の中には、クレアルカリンが気になっている人も多いのではないかと思います。
クレアルカリンの原料メーカーの説明を見ると、従来のクレアチンの問題点を全て解決した新しい素材として期待が大きく膨らむのですが、このデータはクレアルカリンを製造している会社が独自に取ったデータです。
当社PPNでは原料会社さんとの政治的しがらみが全くないので、いい素材であればすぐに乗り換えたいのですが、クレアルカリンに関しては、他研究機関での優位性が報告されるまではしばらく様子見という判断をしております。
ちなみに、他の研究機関で通常のクレアチンとクレアルカリンを比較した論文では優位性が確認されなかった結果となっています*4。
よくある質問④:クレアチン摂取は腎臓に悪影響を与えますか?
クレアチンと腎臓の2つが結び付けられる理由の1つは、クレアチニンと呼ばれるクレアチンの代謝物が腎臓の状態を示す手がかりの1つだからです。
クレアチンとクレアチニンと呼び名がよく似ているのですが、大まかにはクレアチンは栄養素、そしてクレアチンの最終代謝物がクレアチニンです。
クレアチニンは、腎臓でろ過されて尿として排出されます。腎臓のろ過機能が低下すると血中のクレアチニン濃度が高くなってきます。クレアチンサプリメントを摂取すると筋肉中のクレアチンリン酸の濃度が高まります。
そして運動をするとこのクレアチンリン酸は代謝され老廃物としてクレアチニンができます。 つまり激しい運動をする人、筋肉量が多い人、女性より男性、高齢者より筋肉の多い若者は、基本的にはクレアチニンはたくさんできるのです。
そして腎機能が低下してろ過できなくなると血中のクレアチニン値が高まります。 腎機能が通常通り働いている方なら問題ないですが、腎機能が低下している方、医師から何かしら腎臓に関して言われている方は、クレアチンの摂取開始前に一度医師にご相談されることをお勧めいたします。
よくある質問⑤:クレアチンの日本アスリートの使用状況
アトランタオリンピックに出場した全アスリートの約80%がクレアチンを摂取していたようです。日本選手の場合は、2013年から2018年の間に国際大会に出場した陸上日本代表選手574名の内、53名(9.2%)がクレアチンを摂取していました*5。
投擲が26.2%と一番多く、続いて短距離が21.6%という数字です。日本においてはまだまだ使用率が低い素材と言えます。
*5:Use of nutritional supplements by elite Japanese track and field athletes
よくある質問⑥:食生活と体内クレアチン濃度の関係は?
クレアチンはニシン、鶏肉、豚肉、牛肉、サーモン、マグロといった動物性食品からも補給されます。通常食をしっかり摂る人の場合、一日に約2g程度のクレアチンを摂取していると言われています。
なお、クレアチンが体内に吸収される量は限られているため、余分なクレアチンは吸収されずに体外に排出されます。
そのため、普段から多量のクレアチン含有食品を摂取している場合は、サプリメント摂取による恩恵が薄まる可能性がありますが、1日3gのクレアチンを食事だけで摂取しようとしたら、肉や魚を500g以上食べる必要があります。
一方、菜食主義者・完全菜食主義者の方は、クレアチンを含む動物性食品を摂取されないので、体内クレアチン貯蔵量が元々低いです。そのためクレアチンをサプリメントとして摂取することで肉食中心者の方より恩恵を多く受けることができます。
また、インスリンが存在すると、筋肉がクレアチンを吸収する速度が速くなるので、ワークアウト直前などできるだけ早く吸収させたいタイミングでは糖分と一緒に摂取するのもよいでしょう。
一方で、カフェインとクレアチンの間にはマイナスの相互作用があるとする研究結果もあります。この点については仮説段階であり結論は出ていないのですが、多量のカフェインとクレアチンを摂取するのは避けたほうが無難かもしれません(参考)。
よくある質問⑦:クレアチンの効果に男女差はありますか
クレアチンがもたらす効果(無酸素生持久力、最大パワーなど)に関しては男女差は見られないようですが、メタ分析では女性は内因性筋クレアチン濃度が男性より高い可能性があるようです。
よくある質問⑧:クレアチンと相乗効果がある素材はどのようなものがありますか?
クレアチンと相性のいい素材の代表格がHMBです。
1:HMB単独摂取群 2:クレアチン単独摂取群 3:クレアチン+HMB混合摂取群
上記3群に対して除脂肪体重と筋力の伸びを比較した研究では、3:クレアチン+HMB混合摂取群が最も良い数値を出しています。そのデータがある関係で弊社でも1回摂取量あたり、クレアチン3gに対してHMB1gを混合しています。(HMBは一度に1g以上摂取すると尿中排泄率が高まるためPPNでは1g設定にしております。)
また、クレアチンと相性のいい素材の代表格2つ目がβ-ALANINEです。組み合わせて摂取することで有意な筋力増加をもたらします。
上記を鑑み、当社では099'CREATINE THE ONE.2.0をリリースいたしました(写真クリックで商品説明をご覧いただけます)。
一瞬で力を発揮する種目のパフォーマンス向上にはクレアチン、高強度でパフォーマンスを発揮する持続力の向上にはβ-ALANINE、これらエルゴジェニックエイドの二大巨頭素材が配合されているのが本商品の一番の特徴となっています。
PPNのサプリメント管理体制について
サプリメント摂取によるアンチドーピング規則違反からアスリートを守る唯一の方法、それは、全製品の、全ロットを、市場に流通させる前に検査を実施することです。
市場に流通させながら全ロット検査を実施しているメーカーはいくつかありますが、アスリートのドーピング陽性リスクを極力排除するためには、全ロット検査でも十分ではないと考えています。
そのため、PPNでは全製品・全ロットに対して、市場に流通させる前に検査を実施するだけでなく、「結果を確認するまで出荷しない」という管理体制を取っています。
この体制を取っているメーカーは世界で唯一弊社しかありません。アスリートにとって栄養摂取は投資であり、ドーピング検査の徹底は保険です。PPNでは「体感」と「安全性」を実現できる製品開発に尽力しています。