牛乳に含まれるタンパク質は、カゼインとホエイの2つに分けられます。プロテインの原料としてのシェアはホエイにゆずるカゼインですが、ホエイには無い特徴があり、アスリートの体づくりを強力にサポートできるプロテインになります。
では、カゼインプロテインは具体的にどのような特徴を持つタンパク質なのでしょうか?今回はカゼインプロテインについて詳しく解説していきます。
著者紹介
パワーリフティング全日本選手権11連覇・現日本記録保持
NSCA-CSCS・NSCA-CPT/認定スポーツメンタルコーチ
阿久津貴史 (公式HP)
1982年生まれ。パワーリフティングの競技者として活動するとともに、パワーリフティング専門ジム「TXP」を運営。後進育成・コーチングも精力的に行っており、全日本優勝者を多数輩出。アスリートのパフォーマンス向上を目的とした、理想的なエルゴジェニックエイドの開発にも日々尽力している。
はじめに
本題に入る前に、一つ質問です。皆さんは、プロテイン(PROTEIN)の語源をご存知ですか?
実は、プロテインの語源は古代ギリシャ語の「PROTEIOS(プロティオス)」であり、「第一のもの」「一番大切なもの」を意味します。つまり、大昔から既にタンパク質はとても大切な栄養素として認識されていたと言えます。
古代ギリシャ人のタンパク源は、牛肉、羊肉、山羊肉、豚肉、チーズ、魚だったそうです。これらの中でもチーズは、牛乳の主要タンパク質の一つである「k-カゼイン」の1か所のペプチド結合を切断して、凝乳させることによって作られます。
以下に乳製品の製造方法を分かりやすく図示していますので、ご覧ください。
図中の赤字が製法で、黒字が乳製品名になります。また、図中の太い線が示しているのは、カゼインプロテインが製造される流れになります。
牛乳タンパク質の固形物が「カゼイン」
牛乳のタンパク質のうち、8割が固形物のカゼイン(乾酪素)、2割が液体のホエイ(乳清)です。カゼインは牛乳だけでなく、ヒトの母乳にも含まれているのはご存知でしょうか。カゼインはリン酸化タンパク質の一種で、カルシウムやナトリウムと結びつきやすい性質を持っています。
カゼインの長所は?
カゼインで見逃せないのは、その栄養価の高さ。体内で生成できない必須アミノ酸のすべてをカゼインは含んでいます。
また、カゼインには、ホエイにはみられない抗異化作用を促進する働きがあり、体タンパク質の分解を防ぐ作用があります。また、カゼインは満腹感にも優れているという特徴もあります。
さらに、カゼインを摂取した後には、他のプロテインと比べて長時間にわたって血中アミノ酸が増加することから、長時間食事ができないタイミングの前、つまり夜・夕食後に摂取することが有益であるということが広く知られるところです。
意外と知られていない?カルシウム、鉄吸収促進効果
アスリートに起こりがちな「スポーツ貧血」という症状があります。
これは、貧血によって運動中の息切れや動悸、疲労感や慢性的なだるさが起こるため、以前と比べバテやすくなったり、記録が伸びないなどのパフォーマンス低下につながります。
このような状態を避けるために、実はカゼインが有用となります。 カゼインが体内に入ると、小腸で分解され、カゼインホスホペプチド(CPP)になります。このカゼインホスホペプチドは、カルシウムがリン酸と反応することによる吸収阻害を抑制する効果をもっています。
要は、カゼイン摂取によってカルシウムの吸収が促進されるということです。さらに、カゼインホスホペプチドには小腸からの鉄分吸収を助けるよう働きかけます。 そのため、体づくりとしてだけでなく、スポーツ貧血の予防にもカゼインが一役買うわけです。
カゼインの短所は?
食物アレルギーのなかでとくに多いのが「牛乳アレルギー」。その原因が、カゼインの成分のひとつである「αカゼイン」とされています。
また、消化と吸収がともに速いホエイに比べると、固形物であるカゼインは時間がかかってしまいます。この点は、運動直後の摂取であれば短所ともいえますが、前述のとおり就寝前などに摂取するのであれば、これはカゼインの長所ともいえます。
乳製品だけではない? カゼインの用途
固形のタンパク質であるカゼインは、どのようなものに使われているのでしょうか?
牛乳・乳製品
冒頭で紹介したように、チーズなどの乳製品にはカゼインが含まれています。じつは、牛乳からカゼインを分離するのは難しくはありません。
温めた牛乳にレモン汁か酢を混ぜれば、白い塊(カゼイン)を取り出せます。これがそのまま、何になるかわかりますか?熟成させずに作るフレッシュチーズの代表格、カッテージチーズです。
閑話:牛乳はなぜ白い?カゼインミセルとは?
まずミセルとは何かということですが、これは溶液中で分子がある濃度以上になると急に集合して作られるコロイド粒子のことです。ミセルコロイド、会合コロイドと言ったりします。
コロイドとは何かというとある物質(分散質)が他の物質(分散媒)の中に分散している状態のことをいいます。カゼインミセルとはカゼインの分子が集合して形成したコロイド粒子のことです。
牛乳は白色不透明の液体です。なぜこのような色かというと乳脂肪球とカゼインミセルが安定したコロイド状態で存在し(きれいに分散されている)光を反射しているから白色不透明の液体に見えるわけです。
前述のとおり、牛乳のタンパク質のうち約80%はカゼインプロテインで、約20%がホエイプロテインでそのカゼインを構成しているのがまさにカゼインミセルということになります。
カゼイン樹脂(カゼインプラスチック)
先ほどの白い塊を熱して乾燥させると、カゼイン樹脂になります。合成樹脂(プラスチック)の歴史は1835年に始まったのですが、カゼイン樹脂は1898年にドイツで発明されました。
カゼイン樹脂は、自然に廃棄できる「生分解性プラスチック」です。環境にやさしい素材であるだけに、今後、注目が集まるかもしれません。
食品添加物
タンパク質やカルシウムの摂取が目的の栄養補助剤として利用されています。カゼインナトリウムは、水と油を混ぜる乳化剤になりますので、缶コーヒーやアイスクリームなどにも使われています。
工業製品
「プロミックス」という繊維はご存知でしょうか? カゼインとアクリロニトリルを原料に、東洋紡が開発しました(現在は生産中止)。絹のような素材です。カゼインはほかにも、皮革用塗料や接着剤の原料になっています。
もっと知りたい。カゼインプロテインの特徴
カゼインを使ったプロテインには、どのようなメリットがあるのでしょうか?またホエイと比較した場合にどのような違いがあるのでしょう?
まず知っておきたい筋肥大の仕組み
身体は常にタンパク質の合成と分解を繰り返しています。筋タンパク質の合成量から分解量を引いた値をネットバランスといいますが、これがプラスにならないと筋肥大は起こりにくくなります。
空腹状態が続いたりタンパク質の摂取が不十分であると、ネットバランスはマイナスになります。そのため、タンパク質をしっかり摂ることはもちろん、空腹を避けるためにその時々のタイミングで最適なタンパク質源を選択することが重要となります。
カゼインはタンパク質の供給時間が長い
消化と吸収にかかる時間は、ホエイが約2時間なのに対し、カゼインは約7時間もかかってしまいます。アミノ酸をすぐに補給したいのなら、ホエイプロテインのほうがよいでしょう。
しかし、ホエイプロテインの効果は長続きはしません。長続きするのはカゼインプロテインのほうです。血液中のアミノ酸濃度を長い時間にわたって高く保てるのは、カゼインならではの長所です。
前述のとおり、就寝中などは空腹となる時間が長くなってしまいますが、カゼインの特徴を活かせば長時間ネットバランスがマイナスとなることを避けることができます。
カゼインプロテインとホエイプロテインのアミノ酸組成の違い
ホエイプロテインは、すぐに吸収されるという特徴と併せて、そのアミノ酸組成を鑑みても、ワークアウト直後に向いています。理由は、ロイシン含有量が高いこともあり、特にワークアウトと並行して摂取すると、カゼインよりも筋タンパク質合成が促進されやすい特徴があります 1)。
一方で、カゼインプロテインには、必須アミノ酸であるロイシン、イソロイシン、バリンが多く含まれており、さらにヒスチジン、メチオニン、フェニルアラニンが多く含まれています 2)。
他にも、カゼインは筋力アップや免疫力向上に良いとされるアミノ酸、グルタミンを多く含んでいます。
ただし、L-グルタミンのサプリメントとして販売されているような遊離アミノ酸の形でグルタミンが含まれている訳ではなく、タンパク質という大きな分子を構成しているアミノ酸の中にグルタミンが多く含まれているという意味であることをお伝えしておきます。
より効率良く筋肉を育むためにカゼイン含有量に拘ったPPNの「カゼインプロテイン」
国内で流通しているプロテインで一番多いのはホエイプロテインです。同じ牛乳タンパク質が原料なのに、カゼインのプロテインは多くはありません。
ホエイと組み合わせた形のカゼインプロテインや牛乳の比率をそのまま維持したミルクプロテインコンセントレートタイプのカゼインプロテイン(カゼインが約80%、ホエイが約20%含有)は見かけることがよくあります。
「カゼインだけの商品がほしい」という方におすすめしたいのが、PPNの「カゼインプロテイン」。日本市場においてカゼイン主体プロテインのパイオニアとして製品化と改良をしてきました。
純度の高い最高級のカゼインのみを使い、利用効率を高めるため各種ビタミンも同時摂取できる設計です。リッチキャラメルフレーバーで、「飲みやすい。」と多くのお声を頂いております。他とは違った製品が好みの方は唯一無二の商品作りにこだわっているPPN製品をトライしてみてはいかがでしょうか?
参考文献:
1)The American Journal of Clinical Nutrition, Volume 94, Issue 3, September 2011, Pages 795–803
2)J Nutr. 2002 Oct;132(10):3228S-33S. doi: 10.1093/jn/131.10.3228S.
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